第4話「異世界転生、できないんですか?」



 目を覚ますと、そこは真っ白い空間だった。

 何ココ。

 怖いほどに真っ白。


 すると突然、目の前に一人のスーツ姿の女性が現れる。

 パツキンにメガネ、挙げ句の果てに巨乳過ぎて胸元のワイシャツがはだけている。

 何だ……痴女か?

 スカートも下着が見えるか見えないかというギリギリのライン。

 何だ……痴女か。


「日下部遙花君、ですね」


「……いや、違いますけど」


「……え、嘘。

 ちょ、ちょっとお待ちください……。

 さっきちゃんと確認したのに……!!」


 痴女のお姉さんは後ろの書類らしきモノをパラパラとめくり、俺の顔を何度も見ている。


「やっぱり日下部遙花君じゃない!!

 何で嘘つくのよ!!」


「いや怪しい人物に、自分から個人情報明かさないでしょ……」


 ぜえぜえと肩で息をしている痴女さん。

 と言うか、この人ホントに一体誰だ。


「諸々の説明しようと思ったのに……、話が進まないじゃない」


 咳払い一つして、痴女さんは改めて俺と向かい合う。


「遙花君、君は


 ……!


「記憶、ある?

 君小さな女の子を暴走トラックから助けて代わりに死んじゃったの」


「……!

 あー……、何となく、覚えているかもしれないです」


 学校からの帰り道。

 最寄りの交差点で、急に止まっていたトラックが加速を始めた。

 その目の前には、まだ小さい女の子が横断歩道を歩いていて。

 気付いたら体が動いていて。


 それで。


「あー……、死んだんだ、俺」


「……冷静ね。普通もっと取り乱したりするものだけれど」


「何か、実感が無くて。

 意識もハッキリしているし、いつもと同じ格好だし」


 着慣れたブレザーは、傷一つついていない。

 綺麗そのもの。


「話が早くて助かるわ。私は


「……という設定ですか?」


「本物よ!! 

 全く……せっかくあげたのに、失礼なんだから」


 メガネを指で軽く上げ、自称女神は傍らからバインダーを出した。


「遙花君。

 ……異世界へ、行きたくありませんか?」


「異世界転生ってやつですか?」


「あれ、もしかして……知ってる?」


「最近よくマンガや小説とかアニメになってますよね」


「じゃあ……、話は早いね。

 遙花君!」


「は、はい」


を結ばないっ!!?」


 自称女神の言った言葉が、脳内で反芻する。

 雇用契約雇用契約。


「雇用契約……?

 え、あれ、異世界転生って、俺をどこか他の世界に新しく召喚したり生まれ変わらせてくれる、感じじゃないんですか……?」


 すると、自称女神は「あちゃ~」と言った表情を浮かべ、俺のことを何か悲しいモノを見る目で見た。


「君も、なのね」


 何だろう、何かムカつくぞ。

 とりあえず馬鹿にされてる、というのは分かる。

 自称女神は同情するように俺の肩を数回ポンポンと叩き、涙を手の甲で拭う。


「今さ、異世界転生したい人ってめちゃくちゃいるのね」


「……?」


「ってか、多すぎるのよ。

 目当てで自殺する人とかいたりしてね?

 もう女神達は正直ウンザリしてるの」


「はぁ……」


「星の数ほどの転生者が、もう異世界にはゴロゴロいるの。

 だから、貴方を異世界転生させることは、できませんっ!!」


 ズビシ!と体の前でバッテンをつくる女神様。

 じゃあ、さっきの話って……。


「……じゃあさっき何で、異世界転生の話題を振ったんすか」


 わざわざできないのなら、敢えて話題に出す必要なんて……。


「異世界転生はできないけど、なら大募集しているの!」


「助っ人……」


「異世界転生した人たちってね、チートやら祝福やらを携えて世界を助けるという役目を背負っているんだけど。

 ……案外、上手くいかないこともあるんだよね」


「そうなんですか?」


「だって、星の数ほどの異世界があるんだよ?

 そりゃ……、上手くいかない世界があってもおかしくないじゃない」


 意外とそう言うモノなのか……?


「そこで、の出番!

 ラスボスに苦戦している世界に転生し、代わりに!」


 女神様は俺に向けて、ズビシっと指を指した。



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