第2話「迅速な仕事を心がけます。」


[終局の間]


 パーティの方達は、この部屋の位置口付近で待っていただいている。

 迅速に済ませなければ。


 白銀の竜。

 ソイツは、俺の姿を視界に入れた瞬間、けたたましい咆哮で空気を振るわした―――――。

 それと同時に、体を襲う倦怠感。

 呪いの類い……、恐らく身体強化や魔力上昇と言ったバフの解除だな。

 加護も、スペル魔法も軒並み無効化。

 術者殺しだなー。


『聖剣ヴォルフガング、顕現』


 俺の声に合わせ、右手に形作られる一振りの聖剣。

 ズッシリと重たく、小回りがきくタイプでは無さそう。


「っ―――!」


 不意に。

 眼前の竜の魔力が高まる。

 アレは、炎属性古代魔法エイシェント・スペル、「アラクネス=フォビドゥン」。

 攻撃範囲はフィールド全体。待避場所は空中のみ。

 攻撃を食らえば「呪い増強」に加え、炎属性半永久弱化。

 うわ、こわーい。


 空中に跳躍し、聖剣を構える。

 転瞬。

 眼下を数千度の業炎が駆け巡る。


 ―――――攻撃をした瞬間が、最大の隙。

 それは、


「……よっしゃ」


 ヴォルフガングの固有スキル発動―――――。

 魔力増幅。

 目の前に迫る竜の御顔。


 1の魔力を2へ。

 2の魔力を4へ。

 4の魔力を8へ――――。

 ねずみ算式に魔力を増幅させるのが、この聖剣の力。

 理論上は魔力の増幅値は無限乗数。


「おいしょ」


 聖剣を振りかぶり、アホほどに膨れあがった魔力を込めて。

 竜めがけて振り下ろした。



 ***



 は……?


 目の前の男の子が構えている剣。

 それはまさに、聖剣。

 え、何で?

 どこから持ってきたの?

 百年に一度顕現する、伝説の宝具なのよ……?


 ウラヌスの、炎属性古代魔法エイシェント・スペル、「アラクネス=フォビドゥン」を跳躍で回避したと思ったら。

 有り得ないほどに、巨大化する男の子の魔力。

 そして、そのまま―――――。


 ウラヌスを斬り伏せた。



 竜が倒れた瞬間視界が明るくなり、ダンジョン内が大きく揺れ出す。

 それはまさに、ダンジョン攻略完了の合図。



「貴方、何者なの……!?」


 呑気に欠伸をしている男の子。

 私達の最終目標を、こんな、いとも簡単に……!


「え、あれ?

 さっき自己紹介しませんでしたっけ」


「……」


「派遣転生者、日下部遙花です。

 多分、もうので、覚えなくて大丈夫です」


 そう言いながら、男の子はニカッと人懐っこい笑みを浮かべ―――――。


「あ、待って―――――!」


 魔力の霊子となって霧散した。

 それが意味するのは、召喚術の終了あるいは簡易契約の満了。


「……!」


 シェイラは、胸の奥が少しだけ痛くなる感覚に戸惑いながら。

 自身の仲間の方へ、歩みを進めた。















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