第11話 『星月紋』に関する推測
夕焼けに染まる空を眺めながら、俺とウルスラはアルシャンに帰ってきていた。
ウルスラとは解散し、帰路についていると俺は白衣の女性の後ろ姿を見つけた。これは『チャンス』か?
俺はソフィアに『特別な用事』があった。
「ソフィア、仕事終わりかい?」
「ああ、八雲クンか・・・。ってボロボロじゃないか!今日は襲撃はないって思っていたけど、どうしたんだい?」
そうか、そういえば俺は今日の戦闘でボロボロになっていたな。
ソフィアの心配が嬉しい。
「あー、実はちょっと・・・」
俺はこれまでの経緯を話した。
「・・・なるほどね。ちょっと危険で心配だけど、八雲クンがアルシャンで居場所を得られているようで、そこは安心したよ」
俺のことを気にかけてくれていたのか、ソフィアは本当にいい娘だ。
「ところで、八雲クン、今ちょっと時間ないかな?少し君の『紋章』について話しておきたいことがあってね」
これは好都合だ。俺の『用事』もこの機会に伝えさせてもらおう。
「ええ、大丈夫ですよ。」
「じゃあ、ボクの研究室で話そうか。」
~~~~~
紅茶の香りが部屋に充満している。ソフィアの研究室に俺たちはいた。
「砂糖とミルクは必要かい?」
「あ、大丈夫です。」
ソフィアは俺に紅茶を淹れてくれていた。
俺は、一口啜ってみる。
「・・・おいしい。すっきりとした味わいだ。」
「喜んでくれてよかったよ。ボクは紅茶が趣味でね。研究とかの頭脳労働にはこの子がちょうどいいんだ。」
おしゃれな趣味だ。知的なソフィアに似合っている。
「それでソフィアの用事って?」
「ああ、君の『紋章』についてだよ。八雲クンの『星月紋』のスキルって不思議な力ばっかりだろう?」
確かに、時間だったり、生命だったり、あとは虚無か。どれもあまりメジャーじゃない気がする。
「キミが『ヴォイド アナイアレイター』を放った瞬間にボクは昔、母から聞いた話を思い出したんだ。『皇神』という神格について・・・」
初めて聞いたな。俺は『地神』『霊神』の神格しか知らない。
「おぼげな記憶で確かなことは言えないんだけど、『地神』よりも上位の『霊神』、そして『霊神』よりもさらに上位の神格に『皇神』という神格があると母から聞いたんだ。なんでも世界で数柱しかいない創世に関わる神が『皇神』と呼ばれるらしい」
「その『皇神』と言うのが『星月紋』の送り主だと?」
「うん、ボクはそうじゃないかと思っている。知っての通り『霊神』は自然現象を操るスキルを与える特徴があるけど、『皇神』は概念を操るスキルを与えると聞いたんだ。
キミの『時間』『生命』『虚無』どれも自然現象操作と言うよりは概念操作に当てはまる。」
なるほど・・・。創世の神が与える特別な力か・・・!
自分に宿る力が『特別』だと伝えられ、俺は心の中では両手を挙げて喜んでいた。だが、さすがにソフィアの前ではかっこつけたい。なんでもない風を装って、話を聞いていた。
「キミ、口角が吊り上がっているよ。そんなに嬉しいのかい?」
ソフィアはニヤニヤしてる。
カッコつけようとしているのが見抜かれた。
あふれ出る喜びを抑えきれなかったか。
「じ、実はめちゃくちゃ嬉しい。男の子は誰しも自分に秘めたる力があるものだと信じて生きているものなのですよ」
なぜか敬語になってしまった。
「ふっ、そうゆう素直なところは可愛いね。八雲クン」
かっ、かわいいですってーーー!いや、かっこよくなりたいんだけどね!
でも、嬉しいんだからね!
「ただね、これはあくまでボクの母が言っていた話」ソフィアは真剣な表情で言った。
「ボクはキミが気絶状態から回復した後にアルシャンの文献に『皇神』についての記述がないかを調べていたんだけど、結局は見つからなかったんだ。だから話半分で理解してほしい。あいまいな情報だから軍上層部にも報告しないつもりだ。」
「そうなんだ・・・。」俺は考え込みながら言った。
「ソフィアのお母さんが知っているってことはどこかの伝承なのかな。」
ソフィアは優しく微笑んだ。「私の母は歴史学者でね。たぶん史実に基づく話なんだと思うよ。ボクにはずっと歴史の話をしていたから、たぶんね。」
「ソフィアも歴史がすきなのか?」
突然、ソフィアの目が輝いた。
「もちろん大好きだよ!もしかしてキミ、歴史はいける人!?」
ソフィアは自分が好きな分野を語るオタクがごとく早口で続ける。
「いいかい?八雲クン。歴史は偉大なのだよ。人類の歴史は気が遠くなるほど昔から続いているんだ。時代という大きな流れでボクたちの先祖は様々な困難に直面してきて、多種多様の文明を作り上げてきたんだよ!今のボクたちとは全く違う文化で人々はどのような営みを送っていたか気にならないかね?!想像するだけでロマンを感じないか!」
確かにそう語られたら、歴史にロマンを感じるな。
オタクソフィアは矢継ぎ早に続ける。
「砂漠に埋もれた古代都市の遺跡も興味深いよね。かつては栄えていた都市が、今は砂に覆われている。そこで営まれていた日々の暮らしや交易、お祭りなんかを想像できるんだ!深い森に隠れた失われた都市もあるんだよ。緑の中に忽然と現れる石造りの建物群。そこに残された壁画や彫刻が、未知の文明の物語を伝えてくれるんだ!
・・・・ってごめん、話過ぎちゃったかな?」
ソフィアは少し恥ずかしそうに黙った。
俺は単純にソフィアが素敵だと思った。
夢がある人間は魅力的だ。
「ソフィアの話は聞いていて楽しかったよ」
俺は素直に答えた。
「・・・そう、それならよかった」
「そんなに歴史が好きなら、俺のいた世界の歴史の話をしようか?俺の世界では人類の発生から現代まで、おおまかな歴史は解明されていたんだ。」
ソフィアの顔色がぐるぐると変わり、興奮で目を回していてる。
面白い、ソフィアはこんな一面もあったんだな。
「ぜひ!」
今まで聞いたことないような腹から声を出して返事した。
~~~~~
「人間は火が使えるようになった猿から進化した」
「ええええええええ!!!」
・・・
「世界大戦が起こった。死者は5000万人」
「ええええええええ!!!」
・・・
「人類は月まで行けた」
「ええええええええ!!!」
・・・
「犯人はヤス」
「ええええええええ!!!ってヤスって誰だよ。」
「なんでもないです」
・・・
「八雲クン・・・。キミは最高だよ・・・。」
ソフィアは知識を詰め込みすぎて、スライムみたくソファーに溶けていた。
キャラ崩壊だ。
いつものクールなソフィアは影も形もない。
ソフィアの役に立てたなら、本当にうれしい。
窓の外を見るとすっかり、日も落ちて真っ暗だった。
そろそろ帰る時間かな。
帰る前に俺の『用事』を済まさなくては。
俺は手は緊張で汗がにじんでいた。
「ソフィア、アルシャンの中心街にある『ソニャトーレ』って名前のレストラン知ってる?とんでもなく美味しいって聞いたんだよね」
「ん?ああ。あの昔からある伝統的な店構えのところのことかな。知っているが、残念ながらボクはああゆう場所を利用したことないよ」
行ったことないのか。それはよかった。
「ソフィア、あのさ・・・明日の仕事終わりって何か用事ある?」
「え?特にないけど・・・ふぇ?」
ソフィアは顔を少しほほを紅潮させて、少し緊張した面持ちになった。
緊張で喉がカラカラだ。唾を飲み込む。
俺はソフィアのすみれ色の瞳を見つめる。
ソフィアの瞳は動揺で揺らいでいた。
俺は意を決して、ソフィアに伝える。
「もし、迷惑じゃなければ・・・明日、一緒にディナーに行かないか?」
俺はソフィアの反応が怖くて、思わず目を逸らしてしまいそうになる。
「あ、うん・・・行こう。」
ソフィアは小さく微笑み、小さな声で答えた。
胸の中で小さな花が咲いたような、そんな温かい気持ちに包まれた。
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