第9話 ウルスラはやっぱりやばい人です
深い森の中を、俺とウルスラが疾走していた。木々の間を縫うように進む俺たちの足音が、静寂を破る。
「へぇ、あなた。わたしの速度についてこれるなんて、なかなかやるじゃない」ウルスラが艶のある声で言う。
「はぁ...はぁ...何とか...ついていってます」俺は息を切らしながら返す。
俺たちは『間引き』するため、ウルスラが開拓した戦闘適地に向かっている。
「ここよ」ウルスラが立ち止まる。
辺りを見回すと、周囲の大木が見事に切り払われ、広い空間が作られていた。
「魔獣は?」俺が尋ねる。
「これから呼び寄せるわ」ウルスラが答える。
その瞬間、ウルスラの胸元にある『麋鹿(びろく)紋』が淡く光り始めた。ウルスラの生命力が増大し、周囲の小動物たちが騒がしくなる。
俺の『生命探知』能力が反応し、20体ほどの大きな生体反応が近づいてくるのを感じ取った。
「魔獣たちが集まってきますね」
「ええ、でもあなたほど正確には感知できないわ。まあ、それだけでも十分だけどね」
徐々に、魔獣たちが姿を現し始める。
「ふーん、今回は大した相手じゃないわね」ウルスラが物足りなさそうに呟く。
ウルスラの剣さばきは圧巻だった。無駄のない動きで次々と魔獣を倒していく。その姿は、まるで華麗な舞のようだ。
突然、一際大きな魔獣が現れた。白い毛並みの巨大な狼型で、体中に古傷が残る歴戦の猛者だ。
俺が「強そうだ」と思った瞬間、ウルスラはすでに行動を開始していた。彼女は狼の顎に手をかけ、眉間を一閃。そのまま宙返りし、首を刎ねた。
「つよ...」思わず呟いてしまう。
「ああ、つまらない!」ウルスラが不満そうに叫ぶ。「こういう相手にはもう慣れちゃって、全然スリルがないのよ」
彼女の戦闘経験の深さを垣間見た気がした。
「そうねー、なんかこうゆうつまらない戦闘は全部八雲に任せちゃってもいい気がしたわ。今度から譲ってあげる」
「う、うん。がんばるよ。」
まぁ、強くなるために必要な過程だ。ここはウルスラに感謝しよう。
~~~~~
俺は黙々と魔獣を倒す。ウルスラの整備した戦闘ポイントを回りながら、魔獣をおびき寄せる。これで20回目の『間引き』だ。
俺は3匹の狼型魔獣に囲まれている。暗黒線を放つべく、右手に虚無の力を集めているが、魔獣に命中する未来が見えない。
「くっ、『ヴォイド アナイアレイター』!」
俺は牽制で暗黒線を放つが、命中しない。
未来が見えたとしても技量がないと命中させられないのか!
俺は長剣を構え、襲い掛かってくる狼型魔獣を迎え撃つ。
「ーーなにっ!」
魔獣が俺の喉に食らいつく未来が見えた。その時、俺は左腕に激痛が走る。
「いってぇぇぇえええ!」
視界外からの攻撃か!
隙を晒してしまった俺に魔獣たちが一斉に畳みかける。
ここまでか...そう思った瞬間、赤い閃光が走った。
目にも止まらぬ速さで、魔獣たちが倒れていく。
「ウルスラさん...」
「もう、何度目? 気をつけなさいよ」
ウルスラは呆れたように肩をすくめる。これで5回目の救援だ。最初は完全に見捨てられると思っていたが、危機の度に助けてくれる。彼女への信頼度が-100から-50程度まで引き上げる。
「あなたは知性のある回避型魔獣に弱いけど、戦闘の立ち回りを学んで剣をちゃんと使えるようになれば勝てるようになるわ。」
本当にたまに、こうやってアドバイスもくれたりする。
「剣を握って初日にしてはまぁまぁの成長よ。頑張りなさい」
ウルスラは優しかった。
「・・・・!!!」
その時俺は『生命探知』で今まで感じたことのないほどのプレッシャーを感じた。
「ウルスラ隊長!ここから500mほど遠くから強烈なプレッシャーを放つ生体反応が接近してきています!」
「あなたの『生命探知』って便利ね。・・・あら、これかしら?」
300m地点でウルスラも巨大な反応を感じ取ったようだ。ウルスラは戦闘中毒症らしい凶悪な笑みを浮かべる。
「八雲!大当たりよ!超強そうなヤツがいるわぁ!!!」
ウルスラは興奮気味に期待感で胸を膨らませている。先ほどの大狼と比べ物にならないほど強大な生命力を感じる。
・・・これ、本当に大丈夫か?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます