第8話 ウルスラに師事するってまじ?

 俺はマルコから強くなるためにウルスラから近接戦闘を学ぶことを勧められているが、正直気は進まない。数週間前の鞭打ちの記憶が蘇る。


 「安心しなさい、ウルスラ隊長はあんな『趣味』しているけど、軍の人間になったからには変なことはしないわ。『戦闘依存症(バトルジャンキー)』なところは普段から全開だけど」


 本当なのか?ウルスラの加虐行為を受けた身としては簡単には信じがたかった。


 「・・・気は進まないけど、強くならないとソフィアを守れないし、仕方ないか・・・」

 俺は自信を納得させるように呟いた。


 「しかし、俺は武器を持っていないけど、軍で支給してくれたりするのかな」


 「・・・アンタ、ウルスラ隊長と大体同じような背丈しているから。同じ長剣でいいかしら?」エルサが提案する。


 うん?エルサが用意してくれるのか?


 そう思った瞬間、エルサのウエストにある『槌紋』が輝きだす。思わず目が釘付けになる。

 ・・・エルサの『紋章』、すごくセクシーな場所にあるよな。


 最初は空中に鋼鉄の塊が現れただけだった。

 それが次第に剣の形へと変わってゆき、最終的にはエルサの眼前で立派な鋼の長剣が生成された。


 「まじか。『土魔法』すごいな!」


 3Dプリンターみたいだ。めっちゃ便利そう。

 俺はエルサの土魔法が羨ましくなった。隣の芝は青い。


 「このままじゃだめだからね。鍛冶屋にいって、刃付けしてもらいなさい。あと、持ち手にグリップをつけてもらって」

 エルサは得意げな表情で俺に細かく指示する。ありがたやありがたや。


 「わかった」頷きながら答える。


 俺はエルサから長剣を受け取った。刃渡りは1m強の両刃両手剣だ。どっしりとした重みを感じる。この剣で強くなれるのか、と期待と不安が膨らむ。


 「ちなみにウルスラ隊長って、普段は何してるんだ?」


 俺は『特魔隊』に配属になって以降、一度もウルスラ見かけていなかった。

 さぼりか?


 「ウルスラ隊長は大体いつも、壁外の外まで出て行って『間引き』しているわ。」

 「『間引き』って・・・外で魔獣の数を減らしているのか?」

 「そうよ。言ったでしょ?ウルスラ隊長は『戦闘依存症』だって。戦闘していないとストレスが溜まるのよ。」


 アブナイ人じゃないか。できるだけお近づきになりたくない。


 「食堂でお昼ご飯食べてから壁外に行っているらしいから、待ち伏せていたら会えるかも」


 なるほど、さっそく明日待ち伏せしてみるか。決意を固めつつも、明日への恐怖と不安が押し寄せる。「俺、本当にやれるのかな・・・」と心の中でつぶやく。



 ~~~~~


 

 俺はエルサの言われたとおりに、鍛冶屋で長剣を使える状態にして、ソードベルトで左の腰につるしている。その重みが、これから直面する恐怖への重圧のようだ。


 食堂で待ち伏せる俺の心臓は激しく鼓動している。そして、ついに燃えるような赤い髪と瞳を持つ長身の女性ウルスラを見つけた。背中に鞭打ちの痛みを思い出し、思わず身震いする。


 「ウ、ウルスラ隊長!ちょっといいですか?」声が震えるのを必死に抑える。

 

 ウルスラは俺の呼びかけにこたえ、振り返る。

 「うん?あなたはあの時の可愛い男の子じゃない♡何か用かしら?」


 ウルスラの甘い声に、あの時の恐怖が甦る。

 だが、ここで屈してはいけない。俺は勇気を振り絞り要件を伝える。


 「あの・・・強くなりたいんです。ウルスラ隊長の戦い方を、少しでいいから教えてもらえませんか?」


 ウルスラは眉をひそめ、少し考え込む。

 「ふーん・・・でも、教えるのは面倒だしなぁ」


 ぐぬぬ・・・。自由奔放すぎる・・・。

 いつも好き勝手に戦いに行っているなら、ちょっとは部下を育成してもよいんじゃないか?


 ここで引き下がるわけにはいかない。


 俺は、ウルスラがバトルジャンキーであることを思い出した。

 俺の『治癒』スキルが交渉材料にならないだろうか。


 「ウルスラ隊長は戦いが好きなんですよね?」

 「そうよー」

 「じゃあ、ウルスラ隊長のやっている『間引き』に俺をつれていくのはどうですか?俺の『治癒』スキルがあれば、ケガを気にせず、強敵と思う存分戦えるようになります。今よりもずっと戦闘を楽しめそうじゃないですか?」


 ウルスラは深く考えるため、腕を組み視線を落とした。


 「確かに!それはいい案ね!いいわ、連れて行ってあげる!」

 「あ、ありがとうございます!」


 ウルスラは楽しそうに俺の同行を許可してくれた。

 そのキラキラした笑顔は数週間前見た嗜虐的な表情とは無縁のように感じられる。


 「そうと決まれば行くわよ。八雲!」

 「お、おっと!いきなりですか?!」


 彼女は俺の手を取って、走り出す。その温もりに、不思議な気持ちを覚える。


 エルサの言った通り、ウルスラは俺に普通に接してくれている。

 当初感じていた恐怖感が薄れていった。


 もしかしたら、出会い方が『最悪』だっただけで、ウルスラはもっと話が分かる人なのかもしれない。


 そんな期待感を持って、俺はウルスラについていく。


 俺の本格的な修行パートが始まるのだった。

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