第7話 強くならないとまずいっぽい

 とある日のアルシャン。


 眼前に迫る体長10メートルほどの超巨大な魔獣と数体の小型魔獣。アルシャンの4、5メートルほどの外壁など、超巨大魔獣の一撃で木っ端微塵だろう。


 俺は『特魔隊』の仲間、エルサとマルコ、そして十数人の一般兵と共に、魔獣の群れと向き合っていた。胸の鼓動が早くなり、喉が乾く。恐怖と興奮が入り混じった複雑な感情に、手の平に汗が滲む。


 「よし、行くぞ!」


 俺は意を決して、周囲に漂う暗黒の虚無の力を右手に集める。指先に力が集中していく感覚に、背筋がゾクッとした。


 「『ヴォイド アナイアレイター』!」


 『未來視』を発動させ、魔獣が1秒後の未來にいる地点を見定める。そこへ、渾身の力で暗黒線を放った。


 超巨大魔獣に暗黒が命中した瞬間、空間が抉り取られたように消滅する。一瞬の静寂の後、胸に込み上げてくる達成感と安堵感。思わず声を上げそうになるのを必死に抑える。


 「すごい・・・アンタのそれ、反則級ね。どんなに強い相手でも、当たったら即死じゃない」


 隣でエルサが俺の『ヴォイド アナイアレイター』を称える。彼女の声には驚きと羨望が混ざっている。その言葉に、少しばかり誇らしさを感じる。


 「あはは、今回は的が大きかったからね」


 照れ隠しに軽く笑いながら答える俺。


 整えられたツインテール、碧空のような青い瞳、白磁のように滑らかな肌、柔らかそうな唇が、彼女の可愛らしさを一層引き立てている。


 うん、目の保養になる。

 男くさい軍隊で彼女のような清涼剤は貴重な存在だ。大切にしよう。


 「まだ終わっていないよ。気を抜かないでね」


 マルコの穏やかな声が響く。巨体とは不釣り合いな柔らかい物腰で、彼は巨大なバトルアックスを構えながら、残りの小型魔獣たちを見つめている。その表情には、戦いへの覚悟と部下を守る責任感が滲んでいる。


 エルサは『ストーン スパイク』で小型魔獣たちを次々と貫き、マルコはバトルアックスで魔獣たちをなぎ倒していく。二人の動きには迷いがなく、長年の経験が滲み出ている。その姿に、尊敬の念と共に、自分の未熟さを痛感する。


 俺もヴォイド アナイアレイターで援護しようとしたが、気づけば既にすべての魔獣は倒されていた。少しばかり出番を逃した悔しさと安堵感が入り混じる。


 「なんか・・・あっけないな。いつもこんな感じなのか?」


 思わず口にした俺の質問に、マルコが優しく微笑みながら答える。


 「まぁ、大体はそうだね。でも、油断は禁物だよ。時には大群で襲ってくることもあるし、特別強い個体も存在するんだ。

 数年前、ミストウィローという都市が100体を超える魔獣の大集団に襲われて滅んだという話もある。

 10年以上前には、アルシャンの数倍規模の大都市が、たった1体の魔獣によって一夜で壊滅させられたこともあったそうだ」


 マルコの声には、過去の悲劇を語る重さがある。その言葉に、背筋が凍るのを感じる。今まで感じていた安堵感が一気に不安へと変わる。


 「それって・・・俺たちの街にも起こりうるってことか?」


 俺の問いかけに、マルコは静かに頷く。彼の目には、決意と不安が交錯している。


 「何か・・・対策はないのか?」


 エルサが真剣な表情で尋ねる。彼女の声には、普段の明るさは消え、切迫感だけが残っている。


 「あるなら、とっくにやってるわよ。私たちにできるのは、ただ強くなること。それしかないの」


 エルサの言葉には諦めと現実を受け入れる冷静さがある。その正論に、無力感を感じずにはいられない。


 「強くなる・・・か。俺に何ができるんだろう」


 マルコが俺の肩に手を置いた。その大きな手に、不思議と安心感を覚える。


 「八雲君、前衛として戦ってみる気はないかい?」


 「え?どういうこと?」


 マルコの提案に、思わず声が裏返る。


 「そうさ。君の『未來視』や『思考加速』を使えば、敵の攻撃なんて簡単に避けられる。『生命探知』で奇襲も防げるしね。それに、万が一攻撃を受けたとしても『高速再生』で復活できるだろう?」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 ちょっと前衛は怖いけど、女の子であるエルサを前線に出すよりは俺がやるほうがずっといい。

 

 「ただし、『ヴォイド アナイアレイター』は近接戦には向かない。別の武器が必要になるけど」

 

 「わかったよ。俺も武器の訓練をする。で、俺もマルコと同じようにそのバトルアックスで戦うのか?」


 「いや、君みたいな回避型の前衛にはもっと相応しい人がいるんだ」


 うん?なんか嫌な予感がするぞ。


 「ウルスラ隊長だよ。」


 う、ウルスラかぁ・・・。

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