第6話 どうやらソフィアはやり遂げたそうです
目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。
「あれ?どこだここ?」
すると、美しいアメジストの瞳が俺の顔を覗く、
ソフィアの顔が覗き込んできた。
「八雲クン!目が覚めたんだね!」
ソフィアの笑顔を見て、俺も思わず笑みがこぼれる。
そうだ・・・、俺は気を失って・・・。
俺はエルサに貫かれた腹部を確認すると、跡形もなく回復していた。
『高速再生』スキルさまさまだ。
「やあ、ソフィア。心配かけちゃったみたいだな」
「本当だよ。八雲クン、ボクの想定以上に頑張っちゃうから・・・」
って、そういえば、これはどんな状況だ?
「八雲クン、ボクから1つ話さないといけないことがあってね。聞いてくれる?」
ソフィアの表情は少し後ろめたそうだ。
なにかあったのかな。俺はうなずいた。
「まず打ち明けるけど、昨日の脱出撃は仕組まれていたんだ。ボクが主導で。」
ふむふむ・・・。ファッ!?
「どうゆうことだってばよ!ソフィアちゃん!」
俺は混乱して、話し方が変になった。
「落ち着いて、順番に話すから」とソフィアは説明を始めた。
「八雲クンが知っている通り、軍上層部はキミに『魔獣』との関係を疑っていた。彼らはどうしてもキミから情報を引き出したがったが、『拷問して間違いでした』となってしまった場合、貴重な『紋章保持者』を失うことになる。それは軍にとって望ましいことではなかった。」
なるほど、俺が良い『紋章保持者』だったら、軍に取り込みたかったということかな?
「そこでボクが提案したんだよ。キミを泳がせて、本質を見極めようって。・・・本当なら、エルサにちょこっと危機的状況に追い込んでもらって、キミが悪さしないか見れればよかったんだけど、想定を超えてキミは根性を見せてるんだからボクは焦ったよ。」
なるほど、確かに『人は窮地に立たされると本性を現す』って言うしな。
「でも、本当にすまない。あんなに痛い思いをさせてしまって。これはボクの落ち度だ。キミに命を救われたにも関わらず、ひどい目に合わせてしまったボクは自身を許せない。どうかーーー」
コン、コン、コン
そこへ、ノックの音とともにエルサが入ってきた。
「あら、元気そうじゃない」
「よう、エルサも元気そうじゃないか。・・・って俺は一撃もダメージを与えられなかったんだから当たり前か!」
がっはっはと俺は豪快に笑う。
「なんでそんなに軽いのよ。アンタ、やっぱ頭のねじが外れているわ」
エルサはやれやれと両手を上げる。
「八雲クン、気にしていないの?」
話が遮られたソフィアは不思議そうに尋ねた。
「おう!どうせソフィアが最善だと思ってそうしてくれたんだろ?じゃあ、俺は騙されたとしても裏切られてないじゃん!」
ニカッっと全力で笑って見せる。これで罪悪感が薄まってくれればいいけど。
エルサは腕を組んで俺たちの会話に割って入る。
「結果は見事だったわ。アンタは脱出の機会があっても、怪しい行動は一切取らなかった。それどころか・・・」
「それどころか?」俺は首を傾げる。
ソフィアが柔らかな笑みを浮かべる。
「キミは信じられないほどお人よしだった。自分の身を顧みずに、ボクを守ろうとしてくれた」
「そ!あの大立ち回りを見せられて、アンタが邪悪かもしれないって疑える人間なんていないっての!この結果でアンタの善性は証明されたわ」
「それとね」ーーーエルサは続ける。
「ソフィアの名誉のためにアタシから教えてあげる。軍でアンタの処遇を話し合っているとき、アンタを拷問にかける意見が大多数を占めていたのよ。
それをソフィアは鬼気迫る勢いで言いくるめて、自身の考えた計画を認めさせたんだ。
『彼はこの都市の一員であるボクを命がけで助けてくれたんだよ!そんな相手に拷問なんてまともな大人がやることじゃない!この愚か者どもめ!』って軍上層部のおじちゃんたちを責め立てる姿はかっこよかったよ。
あんなに感情的になるソフィアは初めて見た」
つまり、ソフィアがいなければ、俺は確実に拷問にかけられていたのか。
俺はソフィアに出会えたことを感謝した。
「お、おい!やめてくれよ。エルサ」
ソフィアは顔を赤らめながらエルサを止めようとするも、エルサは続きをやめない。
「まぁまぁ・・・。あとね、今ではアンタはいい奴って分かっているけど、当時、やっぱりアンタは不審者。もしアンタが悪い奴だった場合、ソフィアの命は危なかったろうね。
ソフィアは『命を賭して』アンタを信じていたのよ」
エルサが語り終えたころには、ソフィアは顔を真っ赤にしていた。
何を恥ずかしがる必要がある。ソフィアは正しく、カッコよかったってことだろ?
「ソフィア、本当にありがとう。君は優しい人だとは思っていたけど、こんな熱い部分もあるとはね。俺はさらにソフィアのことが好きになったよ。」
ソフィアは耳まで真っ赤になって、沸いたやかんのように蒸気が上がっている。
「っっっだぁ!なんで二人してボクをはずかしめるんだ!ボクは当たり前のことをしただけなのに、褒めすぎだよ!!!」
かわいい。
俺はソフィアを愛おしく感じる。
「八雲クン、いづれこの恨みは報復させてもらうよ」
ソフィアは固く誓ったように、俺に宣言する。
なぜだ。
まぁ、しかし・・・。
波乱万丈の初日だったが、ようやくこの世界を満喫できそうだ。
「そうだ、目覚めてすぐで悪いんだけど、仕事の連絡があるんだった。八雲に。」
え?おれ?
「アンタの体調に問題なければ、明日からアンタはアタシと同じ『特別魔獣討伐部隊』、通称『特魔隊』に所属することになる。明日の朝、9時に演習場に来るように。」
え?え?おれ軍属になるの?いきなり過ぎない?
「『紋章保持者』は『魔獣』と戦うことは義務みたいなものだからね。明日はボクが迎えに来てあげるよ。」
俺に拒否権はなさそうだった。
『特魔隊』・・・。いったいどんなことをさせられるのやら・・・
俺の波乱万丈はもう少し続きそうだ。
ーーーあとがきーーー
ここまで本作を読んでいただきありがとうございます。
もし、本作を楽しんで頂けたのなら作品レビューにて★★★を頂けないでしょうか。
読者の皆様にレビューで★を頂けると『注目の作品』に掲載されるらしく、
PVが急増しました。
個人的なお願いで大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願いします。
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