第4話 俺のために人生をかけてくれた貴女

 脱獄中の俺たちは、追跡者の姿を確認する。


 そこには緑色基調の軍服を着た金髪ツインテールの小柄な少女がいた。

 スカイブルーの瞳がこちらを見つめる。


 彼女は裾が短いシャツを着ており、露出したウエストに『槌紋』が青白く光っている。


 「エルサ!どうやってボクたちの計画に気づいたのかな?」

 「さぁ、どうしてかしらね」


 教えるつもりはないらしい。


 エルサのウエストに浮かぶ『槌紋』が強い光を放つ。


 「『フォートレス』 ・・・」エルサは呟く。


 ゴゴゴゴゴゴゴと俺たちを取り囲むように石壁が生成される。

 俺たちを逃がすつもりはないらしい。


 「八雲!アンタ、投降する気はない?アタシは対人戦闘には慣れてないから、抵抗されたら、アンタの命の保証はできない」

 「・・・投降したらソフィアはどうなる?」


 エルサは答えに詰まった。少し経ってから回答する。


 「・・・わからないわ。それは上層部しか決められない」

 「そうか、正直に答えてくれてありがとうな!でも、ソフィアの安全が保障されないなら、断らさせてもらおう!」


 俺はそう言い放ち、エルサに対して構え、抵抗の意思を見せる。

 まだ、鋼鉄の手錠はついているけど。


 「ーーー八雲クン、良いのかい?」

 「ああ、ソフィアやエルサはたぶんいい人なんだろうけど、上層部は信用ならない。拷問なんて選択肢を選べる奴らにソフィアの処遇を任せたくないんだ」


 ソフィアはその美しいすみれ色の瞳で俺を見つめる。

 ・・・可愛い。


 「作戦は?」

 「ない、考えてくれないか」

 「すまない、キミとエルサでは相性が悪すぎる。ボクの見立てでは勝ち目はない」


 うそん。


 「仕方ないわね。覚悟はいい?」エルサが言うや否や、彼女の『槌紋』が再び輝きを増す。


 八雲は一瞬、周囲を囲む石壁に目をやる。


 残念ながら、今の俺にまともな攻撃手段がない。

 だが、俺の勝利条件は『ソフィアを連れてアルシャンから脱出すること』


 どうにか、この岩壁を突破する方法を考えなくては・・・。


 ソフィアを抱えて、この外壁を飛び越えることは可能そうだが、それを許してくれる相手ではなさそうだ。


 まずは、彼女を無力化するか、隙を作るしかないだろう。


 俺は「未來視」を発動させ、エルサの次の動きを予測した。


 「『アースハンマー』!」


 巨大な石の拳が地面から現れ、俺に向かって迫ってくる。「思考加速」を使い、俺は間一髪で避けた。手錠で動きが制限される中、必死に石壁の構造を観察し続ける。


 「あら、アンタ感がいいのね。そんな素人っぽい身のこなしで避けられるなんて」エルサは冷たく言う。


 「これはどう?『ストーンスパイク』!」

 複数の鋭い岩の突起が俺を取り囲む。必死に避けようとするが、いくつかが腕や脚を掠めた。痛みで顔をゆがめながらも、活路を探す。


 回避し続けても埒が明かない。俺は攻撃を加えるべく、エルサに向かい前進する。人間離れした速度で距離を詰め、蹴りを放とうとするが。


 「『ロックウォール』!」


 俺とエルサの間に、一瞬で石壁が生成される。


 「お前、強すぎないか!攻撃も防御も完璧じゃないか!」

 「ハハハ、アンタみたいな素人がアタシに対抗できるわけないじゃない」


 それもそうだな。

 しかし、俺は諦めるわけにはいかないのだ。



 ~~~~~



 15分ほど攻防を繰り返したが、エルサに一撃もダメージを与えられていない。

 むしろ、俺は体中に裂傷と打撲、何か所も骨折を追っている。

 『再生』によって、徐々に回復しているが受けるダメージのほうが大きい。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は全身血だらけで、息もきれきれ。明らかな劣勢。

 激しい痛みで、すでに俺の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。


 「ーーーあっ」

 俺は集中力を欠かしたせいか、エルサの『ストーンスパイク』が俺に迫り、俺の腹部を貫いた。


 やっちまった。


 内臓から血が逆流し、俺は大量に吐血する。


 「八雲クン!」

 ソフィアの悲痛な叫びが聞こえる。

 エルサもやりすぎたと思ったのか、大分慌てていた。


 身体はもうズタボロだが、八雲の心は折れていない。


 守るんだ。必ず。


 俺は朦朧とする意識の中でも、決意を曲げなかった。


 すると、『星月紋』の紋章がこれまでに見たことがないほどの、輝きを放ち始める。


 エルサは驚いて声を上げる。

 「まさか!このタイミングでスキル獲得!?」


 腹の底から、強大な力を感じる。

 このスキルを使えば、この状況を打開できるかもしれない。


 周囲に光さえ吸い込む暗黒、可視化した夜が漂いだす。

 暗黒は俺の右腕に集まり、エネルギーを集約する。


 俺は、右手をエルサ・・・ではなく、外壁に向ける。

 「ーーースキル:虚無魔法『ヴォイドアナイアレーター』」


 俺の右手から、名前の通り、光さえ吸い込む暗黒色の虚無の力が一直線にエルサの『フォートレス』を貫通し、外壁にも大穴を開ける。


 これでソフィアも逃げられるはず。


 「ソフィア!エルサは俺が食い止めるから先に逃げろ!」


 俺はソフィアに気が回らないようにエルサに突撃しようとした。


 だが、俺の体は一歩も動かない。脳からの命令を体が処理できなくなっていたのだ。


 流石にダメージを受けすぎたか・・・。


 「八雲クン!」

 俺はソフィアに抱きしめられた。


 「ボクのために戦ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫。休もう」

 「でも、おれっ・・・。このままじゃ、ソフィアが・・・」

 俺は情けなさで、大粒の涙があふれ出て止まらない。


 「いいんだよ、これからはボクに任せて、戦闘だけが戦いじゃないんだよ。ここからはボクが大逆転するから」


 ソフィアは抱きしめながら俺の後頭部を撫でる。


 俺は心地よさと睡魔に襲われ、意識を失った。

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