第3話 ウルスラ様のはお遊びだったらしい
ウルスラの拷問(?)を耐えたあと、俺が『魔獣』から助けた白衣の美女『ソフィア』は俺を訪ねに来ていた。
「さっきは『魔獣』からボクを助けてくれてありがとうね。ボクはソフィア、今度はボクがキミを助けに来たよ」
ソフィアはヒソヒソ声で話す。
恐らくソフィアは俺と話すことを許可されていないのだろう。
でも、良かった。俺にも救いはあったのか。
「どういたしまして、俺は八雲だ。助けてくれるなら助かるよ。俺もここにいてはまずいと思っていた」
「八雲クン、聞いてほしい。ウルスラ達から聞いたかもしれないけど、キミは『魔獣』とつながりを疑われている。そして、キミは潔白を証明するために、『拷問』されることになった」
俺はウルスラの顔を思い出した。
「『拷問』って、さっきウルスラにやられたやつか?」
「あっ・・・。もしかしてキミ、すでにウルスラの下僕にーーー」
若干心配そうな目を向けられる。誤解です。
「いやいやいや!俺は別に!「しっ、声が大きいよ」ハイ、スイマセン・・・ 」
ソフィアにジト目で見られると背筋がゾワッとする。
気を取り直して、ソフィアは続ける。
「・・・ウルスラのあれは『趣味』だよ。この先待っているのは本当に拷問。絶食、薬剤、そして拷問器具を使った本格的なやつ」
え、マジで?
俺は顔から血の気が引くのを感じる。
拷問はいやだ。
「ボクは命の恩人をそんな目にあわせたくないんだ。だから、キミをアルシャンから脱出させようと思っている」
「そんなことして、ソフィアは大丈夫なのか?」
「バレなきゃ大丈夫さ」
ソフィアは何でもないように答える。
俺は本当にソフィアを頼って良いのだろうか・・・。
中世のようなこの世界で、軍上層部に歯向かうことはどうゆう意味を持つのか俺には分からない。
ただ、現代日本で同じことをしたら重罪であることは間違いない。
ソフィアは自身の『人生』をかけて、俺を救おうとしてくれていると俺は理解していた。
俺みたいなおふざけ野郎のために、ここまでしてくれるソフィアに対して、信頼感が強まる。
俺の目尻は熱くなるのをこらえた。
「すまない、恩に着る。だけど、もし危険そうならソフィアも一緒にアルシャンから脱出しよう。もしアルシャンに残るなら、ソフィアの無事を確認できなるまで、俺はアルシャンの近くに潜伏する」
「もしボクの無事が確認できなかったら?」
「今度は俺が助けに行く」
ソフィアは「ハハハ」と軽快に笑う。
「キミは愚かなくらいお人好しだね」
「ソフィアみたいな美人さんは助けないと死ぬ呪いにかかっていてね」
俺は笑い返した。
「・・・もう。そんなお世辞はいいよ。ボクが美人だなんて、思ってもないこと言わなくてもキミのことは助けるよ。」
ソフィアは照れくさそうに、ぷんすかしていた。
ソフィアは自分の顔が人類の宝であることを自覚していないのか?
本心なのに・・・。
~~~~~
その後、俺とソフィアは作戦を話し合ってから一旦解散した。
大まかな流れはこうだ。
1. 深夜、ソフィアが牢の鍵を拝借してくる。
2. 俺を開放し、ソフィアの案内で都市の外壁に向かう。
3. 俺は『星月紋』の身体強化で外壁を超えて、ソフィアの安全報告を待つ。
4. ソフィアは何気ない顔で通常の生活を送り。翌日の深夜に照明弾を打ち上げる。
5. ソフィアの無事を確認し、俺は俺を受け入れてくれる都市を探す。
1番目が難関のように思えるが、ソフィアは「ボクは学者だからね。これくらいできる」と自信満々に答えていた。
彼女は毒物にも明るいらしく、睡眠ガスを流して、この牢屋を機能停止させるつもりらしい。
俺まで眠ってしまわないように、特別な薬湯を飲んでいる。
学者すげー。
上手くいったら、ここでソフィアとお別れになってしまうのが寂しい。
しかし、ソフィアの日常を俺が奪うわけにはいかないので我慢する。
作戦開始までの時間、『星月紋』の性能を検証していた。
『星月紋』の性能
【時間系スキル】
・未來視:現実の視界と重なって、1秒先の未来が見える
・思考加速:世界が遅く感じられ、敵の動きが見切りやすくなる
・危険予知:危機的な状況に未来を映像として見れる
【生命系スキル】
・再生:対象の傷を修復する
・生命探知:周囲の生命反応を感知できる
【闇系スキル】
・暗視:暗い場所でも視界が確保される
【基本スキル】
・身体強化:身体能力が向上する。
補足すると、『未來視』は人物や物体の1秒未来の姿をARのように半透明で見えるスキルで、『危険予知』はソフィアが『魔獣』に食い殺されるシーンが思い浮かんだように、危機的な状況に陥るビジョンが見えるスキルだ。
ソフィアから聞いた話だと、紋章覚醒時には基本的なスキルしか使えないらしい。特別な修行や、危機的状況になると新たなスキルが発現するとか。
俺の成長はこうご期待というわけだ。
この状況が落ち着いたら、修行して俺TUEEEEEする予定だ。
脳内で、自分のスキルを整理し、作戦のイメージトレーニングをしていると『生命感知』スキルで、生体反応が近づいてくるのを感じる。
「八雲クン、計画通りこの牢獄の機能を停止させたよ」
上手くいったようだ。やっぱり学者すげー。
ソフィアが現れ、俺の牢を開場する。
「ソフィアが無事でよかったよ」
「当り前じゃないか。ボクを見くびらないでもらおう。それじゃあ作戦を継続しようか」
ソフィアは鉄格子を開錠する。
残念ながら、手錠はエルサという名前の『紋章保持者』のスキルによってつくられたものらしく、鍵がないそうだ。
両腕が拘束された状態だが、俺はソフィアに連れられ、脱獄に成功した。
~~~~~
俺たちはアルシャンの街並みを駆け足で移動する。
人目を避けるため、俺たちは裏道を移動していた。
アルシャンの外壁が見えはじめ、徐々に近づいていく。
俺たちは住宅街を抜け、外壁までの緩衝地帯まで歩みを進めた。
「八雲クン、計画通りに誰にも見つからずここまで来れたね」
ソフィアは誇らしげに言う。
「そうだな。脱獄なんて、やってみるとあっけないもんだったな」
ここでソフィアとお別れだ。
この壁を『身体強化』で乗り越えたら、あとはソフィアの無事を確認するだけだ。
・・・やはり寂しい。ソフィアはこの世界で唯一俺を信じてくれた人だ。
俺は彼女に対して少なくない好意があった。
「八雲クン、キミはとんでもないお人よしだ。別の場所では、付け込まれないようにね」
「ああ、ありがとう。でも、まだ油断ーーー」
すると突如。俺の生命感知範囲に生体反応があった。
反応はものすごいスピードでこちらに向かってくる。
「・・・ソフィア、俺たちの脱走に気づいた奴がいるみたいだ」
「え!?、そんなまさか・・・。牢獄の人間は全員眠らせたはず・・・」
黒い影は、俺たちを飛び越え、外壁と俺たちの間を陣取る。
そこにいたのはーーー。
俺の目尻は熱くなるのを堪えた。
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