第3話 どうやら俺は疑われているらしい
『魔獣』との激闘の後、目が覚めた俺は牢獄で拘束されていた。
抵抗しようにも厚い鋼鉄の手錠をかけられ、俺の『星月紋』の力でもびくともしない。
「まっずいぞ、この展開、絶対ろくなことにならねぇ・・・」
鉄格子の外には看守らしき男が俺を見張っているようだった。
「あのー、すみません。なんで俺、こんなところにいるんですかね?」
「・・・ちょっとまってろ」
しばらく待つと、男は緑を基調とする軍服を着た3人を連れてきた。
燃えるような赤い髪と瞳を持つ長身の女性、身長190センチを超える茶髪の大男、俺よりも10センチほど小柄な金髪ツインテールの少女の三人組だ。
赤い女性が牢に入り、獰猛な肉食獣を思わせる鋭い目つきで膝をつく俺を見下ろす。
「ハロー、はじめまして、わたしはウルスラ。ここアルシャンの最強の戦士をしているわ。」
ウルスラと名乗った女は軍服の胸元を大胆に広げ、谷間が露出している。
そして、その胸の上にはヘラジカを思わせる『紋章』が刻まれていた。
この女、『紋章保持者』か。じゃあ、きっと後ろの2人も・・・。
「早速だけど、あなたには聞きたいことがあるの。まずは自己紹介しなさい」
「・・・俺の名前は『榊 八雲』、異世界からやってーーーぐふぅっ!」
痛い。腹パンされた。
「あなた、ふざけているの?」
ウルスラは鋭い灼熱の瞳で俺を睨みつける。
「いやいやいや!本気の本気。ちなみに、ほとんど記憶を失っている。気づいたらあの場所にいたんだ。
目の前にいた可愛い子ちゃんがピンチだったから、お前らが『魔獣』と呼ぶ白い化け物と戦った。
この左手に宿る力も知らない」
「・・・あなた、面白いわねぇ。こんな状況なのにふざけていられるなんて、わたし、あなたのことが気に入っちゃったわ♡」
ウルスラは新しいおもちゃを見つけたかのような、嬉しそうな表情で俺を見て嗜虐的に笑った。
「いやいや!ふざけてないって、まじめにーーーぐふぅっ!」
ウルスラは俺の顔面を殴り、倒れた俺に蹴りを入れた。
うぐ。いたい。やめてくれなのだ。
「なんで殴るの!?」
「ここで殴ったら面白そうかなって思っちゃった♡」
「おまえも結構いい性格してんなぁ!!!」
こいつ、絶対サディストだよ。ドSだ。
「とりあえず、何故あなたがここにいるのか教えてあげる。あなたは軍上層部から『魔獣』との繋がりを疑われているのよ」
いや、全く関係ないです!今日初めて知ったんですよ!
殴られて傷ついた場所を修復すべく、左手の『星月紋』が輝き、白い煙が立ち上がっている。
「あなたの『紋章』は異質で規格外、『魔獣』にそっくりな『高速再生』のスキルを持つ『紋章保持者』なんて前代未聞だわ」
それにねーーーとウルスラは続ける。
「あなたが放った光に包まれた『魔獣』は普通の動物に代わってしまったわ。・・・あなた『逆』もできるんじゃない?」
なるほど、そうゆう疑いが掛けられて俺は拘束されたのか。
「それに加えて、異世界とか、記憶喪失とか、怪しすぎて『異端』認定待ったなしね」
「いやぁ、俺も全くの同意見。笑っちまうくらい怪しいわ。はっはっはーーーぐふぅっ!」
とても痛い。
絶望的な状況に開き直って、ふざけたことを言ってしまった。
俺は頭のネジが何本も外れてしまったのか?
「あなたぁ、心も体も丈夫だし、健気なところが可愛いわ♡」
ウルスラは『一本鞭』を取り出して、俺に命令をした。
「服を脱ぎなさい」
冷や汗が背中を伝う。逃げ場はない。
息が詰まりそうな絶望感が、牢獄の壁のように俺を取り囲んでいく。
「『拷問』の時間よ」
俺は絶体絶命だった。
~~~~~
ウルスラの鞭打ちが始まると後ろに控えていた大男と金髪ツインは牢獄を立ち去った。
ピシ、ピシ、ピシ、スパッァァァン!
「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁああああ!!!」
時間の感覚が麻痺していく。ウルスラの鞭が空を切る音と、自分の悲鳴が交互に響く。
最初は減らず口も叩けた。だが、痛みは人を変える。
ウルスラの強烈な鞭打ちに徐々に俺の心は削られ、信じられないほど心は衰弱した。
いつしか悲鳴も出なくなり、ただ痛みに耐えることしかできなくなっていた。
「ふぅ、今日はこれくらいにしておいてあげる」
ウルスラの声が遠くから聞こえてくる。俺の意識は朦朧としていた。
「明日また来るわね。楽しみにしていてちょうだい♡」
鉄格子の開閉する音と共に、ウルスラの足音が遠ざかっていく。
牢獄に沈黙が戻り、時間の感覚が曖昧になる。痛みと疲労で朦朧とする意識の中、俺は希望と絶望の間で揺れていた。
夜が更けるにつれ、牢獄の外も静まり返った。そんな中、かすかな足音が近づいてくる。
鉄格子の向こうで人影が動く。幻覚か、新たな拷問者か。恐怖と期待が入り混じる中、柔らかな声が俺に呼びかける。
「ーーーねぇ、キミ。八雲クンかい?」
その声に聞き覚えがあった。俺は必死に記憶を辿る。そうだ、魔獣と戦う前、最後に見た顔・・・。
柔らかな光を放つようなプラチナブロンドの髪が、顔を優しく縁取っている。目が合うと、深い紫色の瞳に吸い込まれそうになる。
白衣が彼女の立ち姿を一層神々しく見せていた。
「さっきは『魔獣』からボクを助けてくれてありがとうね。ボクはソフィア、今度はボクがキミを助けに来たよ」
ソフィアの優しい声に、俺の心に微かな光が差し込む。
絶望の底で、かすかな希望が芽生えた気がした。
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