第79話 楽しみにお待ちしております
「ごめんね、2人とも。
デサロでの用事が済んだら、すぐ迎えに来るから」
城塞都市デサロへの旅立ちの前日、その夕方の事。
私はメイドのサラさんにお願いしていた通り、南の樹海に住まうエルフの氏族の人達に数日の間、娘のライアとユティを預かって貰いに来ていた。
「大丈夫だよ、母様」
「エルフの方々には、またお会いしたいと思っていたので」
「良い子で待っててね」
そう言って、私はいつものように2人を抱き寄せて頬擦りする。相変わらずライアもユティも、体温高めで、ぷにぷにの頬っぺただった。
「うへへ。母様、くすぐったいよ」
「皆様の前で、これはちょっと……」
「まあまあ。そう言わないで」
事前にサラさんが氏族長様に相談してくれていたおかげで2人の滞在に関しては何の問題なく話が進んでいたんだけれど、
「また魔女様達にお会い出来る」とエルフの人達の間で、ちょっとしたお祭り状態にまでなってしまったのは、予想外だったわね……。
「魔女様、
どうぞ、お仕事に専念されてくださいませ」
「ありがとう、エレナお嬢様」
アグバログの怨念に取り憑かれて160年間ずっと魔力を吸い取られ続けていたエルフの氏族長様の娘、エレナお嬢様もすっかり元気になったみたい。
「(氏族長様の奥方様に似て、将来美人さんになるコト間違いなし!)」
輝くような金色の髪、澄んだ青い瞳、抜けるような白い肌、そしてとがった両耳。
何処に出しても恥ずかしくない、エルフのお嬢様って感じね!
ロードス島戦記のディードリッドにも負けてないんじゃないかしら?
かーっ、こんな可愛い子がレジェグラの本編に未登場だなんて!!
それに、うっすらとだけど身体からも魔力を感じられるようになってるし、魔術の鍛練を続ければ、次世代のエルフの氏族長を担う日もそう遠くないかも。
「魔女様から頂いた御守り、今も肌身離さず身に付けております」
「あ、私が
大事にしてくれてるんだ、嬉しいわ」
「うふふ。
いつもサラが羨ましそうに、じーっと見ているんですよ」
「お、お嬢様……っ!」
あらら、そうだったのね……。
確かに、エルフの宝剣の"
「(サラさんにも、何かプレゼントを用意しましょうか)」
もう他人同士の関係じゃないし。
そうね、エレナお嬢様にあげた御守りみたいに、既製品よりは手作りの物の方がサラさんも喜んでくれるかも?
……そう思って、エレナお嬢様の横に控えたサラさんへと私が視線を送ると、
「でぃ、ディケー様?
わ、
別に、何かを欲しているという訳では……」
ーーーなんて顔を紅くさせて
……
「(……いや、ホントに両耳をすりすり触ってあげてただけよ!?)」
天地神明に懸けて、えっちいコトは断じてしておりません!
レジェグラはCERO B、対象年齢12歳以上だけど、えっちなゲームじゃないしね。
……それなのにサラさんってば、ヨダレは垂らすわ、泣き叫ぶわ、ベッドに四つん這いになって服従のポーズをとるわ、最終的には
『もっとぉ!
もっと、おねがいしましゅうぅ!!
おみみっ、しゃわってくりゃさいっ!
でぃけーしゃま……ご、ごしゅじんしゃまぁっ!!!
いやしい、よくばりめいどを、
し、しつけてくりゃしゃいいぃいぃぃぃっっっ!!!!』
って、人間(エルフかしら?)としての尊厳も何もかもをかなぐり捨てたような、えっちいとか軽く超越した、快楽を求めるだけの本能に殉じた獣のような、媚び媚びの懇願までしちゃってたし……今でこそ、凄い済ました顔してるけど。
凄い済ました顔してるけど(2回言った)。
「(サラさんの部屋に防音の術式を掛けておかなかったら、えらい騒ぎになってたわね……)」
城内に発情期のメスの野獣が複数侵入したんじゃないかと、勘違いされる程のね……。
性感帯とは言え、耳に触れられるのがそんなに気持ちよかったのかしら?
……まあでも、人間も自分で脇腹とか足の裏とか触っても何ともないけど、他人から触られると不思議と凄くくすぐったかったりするしねえ……私も高校の頃とかよく友達に脇腹くすぐられたりしてたし。
「魔女様方。
そろそろ御夕食の時間ですので、どうぞ食堂の方へ」
「あ、はい。どうも」
「ライア様、ユティ様、私と参りましょうか」
「「はい」」
応接の間にやって来た侍女の人の背中を追うように、エレナお嬢様に伴われてトコトコと石畳の王城の廊下へと歩いてゆくライアとユティ。
と、部屋から出て行く間際、エレナお嬢様が私とサラさんに向かって「ごゆっくり」とでも言いたげに、手を振るのが見えた。
「(……アレ絶対さあ。
私達の関係、もう完全にバレてますやんか)」
サラさんって一見するとクール系オネーサンに見えて、その実、結構情熱的だったり、涙脆かったりするからねえ……160年ずっと一緒のエレナお嬢様には少しの態度の変化で、全部お見通しのようで。
「あー、えっと……サラ?」
「は、はい……」
「遅れると悪いし、私達も行こっか」
「……はい。ディケー様」
「(サラにも今度、プレゼントをあげるわね)」
「(……っ!
……楽しみに、お待ちしております)」
そうして私は、まだ少し照れのあるサラさんとギュッと手を繋いで、食堂へと向かった。
……食堂に入る直前、名残惜しそうに瞳を潤ませてたサラさんに
仕事の一環として此処に来ている以上、TPOは大事ですから!!
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