第78話 私って悪女に見えたりする?

「そういう訳で、ヴィーナからデサロまで馬車で最低でも3日はかかるみたいで。

 途中の休憩やら公爵家への挨拶も含めると大体4日は家を留守にする事になりそうなの。

 ……その間、ライアとユティをこっちで預かって貰えないかしら?」

「ディケー様のお願いとあらば、喜んで。

 わたくしども一同で、ライア様とユティ様をお世話させていただきます」




 港町ブロケナでミア姉様と別れた後。

 翌日、私はヴィーナの御領主様に事の経緯を説明した。

 今回は「冒険者ミアが受けるはずだったデサロ総督の公爵家の依頼を、私が代理で受ける」という、ちょっと特殊な形式の仕事なのもあって、事情が少し厄介だったのね。

 でもさすがと言うべきか、ミア姉様の冒険者としての名声は御領主様の耳にも届いていて、且つ奥様のナタリア様の




『凄腕の冒険者のミアと、そのパトロンの公爵家に借りを作っておくのも悪くないのではなくて?』




 という助言もあって、話はトントン拍子に進んだ。

 帝国の侵攻を跳ね返す程の防備を誇る城塞都市を仕切っている公爵家とのパイプは、公国の南方面の国境を守護するヴィーナの御領主様としても、築いておくに越した事はないと判断されたみたい。

 防衛のノウハウとか教えてくれるかもだし、アグバログが復活した時みたいに南方面でまた何かヤバい事が起きた時には、援軍も期待出来るしね。




「(でも、てっきりナタリア様には反対されると思ってたんだけどなー……)」




 ……で、私が予想した通り、ヴィーナ家がデサロの公爵様に「お家付きの冒険者をレンタルする」というカタチで話は纏まった。

 多忙な御領主様に代わってナタリア様がヴィーナ家を代表して、挨拶とレンタル受理を兼ねて私と一緒にデサロまで行く事になったっていうね……デサロにも冒険者ギルドがあるので、公爵様にまずはそこが話を通してくれるとの事。

 ただ、デサロまで結構距離があるみたいで、半日くらいならまだしも何日も家を空ける事は子供達の事を考えると難しかったので、





「ーーーごめんね、サラ。

 久しぶりに会えたのに、こんな事頼みに来ちゃって」

「そのような事は決して。

 ……ディケー様が私を頼ってくださった事、本当に嬉しく思います」





 私が家を留守にしてる間、南の樹海のエルフの国で子供達を数日預かってもらえないかな、と思って。

 アグバログとの戦い以降、久々にエルフの氏族に仕えるメイドのサラさんを訪ねたのだった。




「もっと早く来れてたら良かったんだけど。

 あれからヴィーナに戻った後も、色々あってね……」

「ディケー様もお忙しかったでしょうから、仕方ない事かと。

 ……寂しくなかったと言えば嘘になりますが、

 こうして訪ねて来て頂けただけで、サラは嬉しゅうございます」




 うちの納屋の扉とサラさんの部屋のドアを空間接続の術式で繋いでおいて、本当に良かったわー。

 子供達が寝静まった後に訪ねてみたんだけど、私達親子の住む山とエルフの国がある南の樹海は時差的には大体2時間程、まだ寝るには早い時間帯だったみたいで、サラさんが部屋でくつろいでたのも幸いしたわね。

 で、




『どうぞ、ディケー様。

 お疲れでしょうから、私の膝でお休みください』




 なんて、懇意にしているメイドさんにベッドに座りながら言われちゃったら、ホイホイ頭乗っけて膝枕されちゃうに決まってますやんか……。




「サラが元気そうで安心したわ。

 ……私もサラに会いたかったから」

「ディケー様……」




 私を膝枕しながら頭を撫でてくれるサラさんの手を取って、自身の頬へと持っていく。

 切り揃えられた綺麗な爪、すべすべした手触りの良い指が、頬に心地好い。

 ーーーその気になれば、本当はいつでも来れたとは思う。納屋の扉を通れば一瞬で来れるんだし。

 でもそうしなかったのは多分、お別れしてすぐまた会いに行くのは甘えだとか、何か恥ずかしいとか、そういう感情があったと言うか……。




「(こういう時だけ女の子にすがっちゃうんだなあ、私……)」




 ネリちゃんやナタリア様に迫られた時は、どうしたらいいか分からないってていだったけど……さすがにこうも女の子達と親密になってくと、却って開き直った方が早くない?って気にもなって来るのよね。

 少なくとも、前に居た私の世界じゃ絶対こんな事……












「(……いや、あったなあ!?

 よくよく考えると、そこそこあった気がする!!)」












 中学から大学までずーっと女子校だったから、それがフツーだとばかり思ってたけど……冷静になってよく考えると私、その頃から割と女の子と一緒に過ごす事、あった気がする……!




「(先輩とか後輩とか友達とか部活の先生とかお店の店員さんとか……!)」




 一緒に手を繋いで下校したり、

 昼休みに膝枕してあげたり、

 部活終わりに一緒にシャワー浴びたり、

 学校が休みの日は一緒にドライブしたり、

 シフトがない日はプライベートで会ったり、




「(……確かにしてたわ、私!)」




 大学を卒業した後は実家の喫茶店を手伝うようになったり、短い期間とは言え彼氏と付き合ってたりで、気にも留めてなかったけど……周りの子達もそこそこ女の子同士でそういう事してたし……それがフツーかと……えっ、フツーじゃなかったってオチ!?




「(さすがにこっちの世界のネリちゃんやナタリア様みたいに積極的に求めて来るような人は居なかったけども!!)」




 ……それでも、遠回しだけど好意を私に伝えて来た人は何人か居たなあ!?












『あのね。

 卒業したら、私とーーー』











 大人になった今だからこそ

「ああ。あの時、私、告白されてたんだなあ」って気づけるけど、当時はまだ子供だったから、その人達の気持ちに気づきもしないで、呑気に笑って曖昧な返事してただけの気がする……!!




「(うわー、うわー!

 わ、私、実は結構な悪女なんじゃ……!?

 女の子の心、もてあそび過ぎィ!!!)」




 ディケーに憑依転生してからもやたら女の子達が私にグイグイ来るし、変だなあと思ってたけど……

 これ、ディケーの魔女としての魅力は勿論だけど、本来の私自身の体質みたいなモノも結構関わってるんじゃないかって気がしてきた……今更過ぎるけど!




「(……何か分からないんだけど、昔からやたら同性に懐かれる感じの体質ね!)」




 親からは「面倒見がいいからだろう」って言われてたし、私自身も「親がそう言うんなら、そうなんだろうなあ」くらいにしか思ってなかった……!!





「ね、ねえ、サラ!

 私って、サラから見ても悪女に見えたりする!?」

「はい?」





 居ても立っても居られず。

 ガバッとサラさんの膝枕から身体を起こした私は、ベッドの上でサラさんと向かい合った。

 そしてガシッとその両肩を掴んで、相変わらずサファイアのような澄んだ青さをたたえた綺麗な瞳を真っ直ぐ見据えながら、サラさんに問うた。

 サラさんは私が急に変な事を言い出したと思ったのか、キョトンと首を傾げていたものの。

 「んー」と数秒考えあぐねた末、やがて何か思い付いたのか。






「……ええ。それはもう。

 以前、ディケー様のおうちにお邪魔した時も申し上げましたが……

 ディケー様はとんでもない悪女です」






 口のを吊り上げて。

 うやうやしく私が両肩に置いた手を掴み、ゆっくりと退けると。






「んっ……あんっ♪」

「(んんっ!?)」






 そのままーーーあの別れの日のように。

 エルフにとっての性感帯であり、自身の認めた唯一無二の相手にしか絶対に触らせないと言う、エルフ特有のとがった両耳へと導いた。









「……悪女でいらっしゃいますから。

 今宵はどうか、一日千秋の想いで貴女様をお待ちしていた、この卑しいメイドを。

 ……ディケー様だけの玩具オモチャとして、

 心行くまでもてあそんで行かれてください♪」

「(ぬわーっ!!!)」





 




 このあと滅茶苦茶、朝まで耳すりすりしてあげた!!!!

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