第77話 公爵家ご令嬢の家庭教師代理!

「ああ、そうだ。

 ディケーと言えば、だ。

 ………君、家庭教師に興味はないかな?」

「家庭教師……ですか」




 昼下がりの港町ブロケナ。

 カフェのウエイトレスさんからまんまとシフト時間を聞き出して、御満悦そうにエビサンドをモグモグと頬張っていたミア姉様。

 そんな最中さなか、ふと思い出したように、私に話を切り出した。




「実は私のパトロンの公爵が、娘の家庭教師を探していてね。

 今12歳で来年、魔術学校の中等部に進学するそうなんだが……

 最近ちょっと成績が伸び悩んでるみたいでさ」

「はあ」




 大学の頃に家の近所の塾で、講師のバイトをしてた事はあるけど……。




「君の娘達……ライアとユティだったか。

 来年、魔術学校に入学させるんだろう?

 その子と学校は違うとは思うけど、どんな雰囲気とか、どんな授業内容だとか、知っておける機会だと思わないかい?」

「ああ、なるほど」




 来年で中等部って事は、今は小等部って事だもんね。

 ……確かにミア姉様の言う通りかも。

 ライアとユティが魔術学校に入る前に、どんな所なのか、通っている当事者から話が聞けるのなら聞いておきたい。




「(ハリポタのホグワーツみたいな所なんじゃないかと、てっきり思ってたんだけど……)」




 違うのかしら?

 魔力適正が高ければ庶民の子も通えるみたいだし、何処の魔術学校も普通の町中に建ってるみたいなのよね。

 ホグワーツみたいに一般人には秘匿されてるとか、そんな感じじゃなさそう。

 ……その子から事前に色々と聞いておくのもアリか。




「最初はボクに話が持ち掛けられたんだ。

 でも生憎とここ一ヶ月くらいは、どうしても外せない用事があって、一度断ったのさ。

 ただでさえ、私は人にモノを教える事に向いてないし」




 ああ、何か分かる……。

 ミア姉様、自分の出来る事は他人でも簡単に出来ちゃうって、思ってるフシあるしね……。

 てかミア姉様、自慢げに語るような事でもないでしょう、それは……。




「でも公爵も折れなくてね。

 娘のために、どうしてもと言うんだよ。

 私としても大事なパトロンの一人だし、出来れば良好な関係を維持しておきたいから、さてどうしたものかと思っていたんだ」

「……それで私がミア姉様の代わりに?」

「現在進行形でライア達に"魔女見習い"の鍛練を施してるんだろう?

 炎魔将アグバログとの戦いでもライアとユティに助けられたそうじゃないか。

 まだ5歳だって言うのに、目覚ましい進歩だ。末恐ろしい程にね。

 ディケーの方が私より、よっぽど家庭教師に向いてるよ」




 むう……。

 ミア姉様の言う事にも一理ある、かな?

 私はどちらかと言うと2人の長所を重点的に鍛えて、且つ誉めて伸ばしてあげてはいたけど……。

 それは単に、2人が元から内に秘めていた才能が上手い具合に開花したとばかり思ってたわ……でもミア姉様の言う通り、私の教え方が実は結構上手かったりする……のかしら?

 ミア姉様が私に頼み事なんて珍しいし、断るのも何だかアレだしなあ……。




「……その公爵の御一家の御住まいって、何処なんですか?」




 例によって、首都には近づきないのよね……。

 レジェグラの本編に登場する主人公の仲間キャラとか物語の主要キャラに遭遇する可能性大だし……。

 なので首都住まいだったら、残念だけどお断りするしかないかも。

 



「デサロっていう城塞都市さ。

 帝国との戦いで公国の西岸地域の守りの要となった場所でね。

 このブロケナの港町より、もっと堅牢な作りとなっている海を臨む町だ。

 かつての帝国とのいくさでも、何キロにも渡る鉄壁の守りの海岸線が帝国の侵入を阻んだものさ……公爵はそこを取り仕切る武家の一門だ」

「デサロ……武家……へえ」




 ゲーム本編でチラッとだけ名前が出て来た事があったかしら……。

 そこのお嬢様の家庭教師をやればいいのね?




「(今後も冒険者として生計を立てるのなら、出来れば有力な貴族とのコネは作っておきたいかも……)」




 ヴィーナの御領主付きの冒険者ってだけでは、まだ少しパンチが弱いかな?って感じもあるし……そんなにすごい城塞都市を取り仕切る公爵様なら、コネを築くには申し分なさそうだわ!

 勿論ナタリア様を心配させる訳にもいかないから、飽くまで期間限定の雇用って事にしてもらいましょう。




「(サッカー選手の期間限定の移籍レンタル……

 みたいな感じになるのかしら?)」




 その公爵様ならレジェグラの主人公の仲間キャラ達とも無関係っぽいし、会っても多分問題なさそうだしね(実は親戚とかだったりだとアウトだけど……)。





「期限は一ヶ月。

 勉強は週に2回、3時間程でいいらしい。

 内容は魔力の基礎能力の向上、より高度な術式の獲得、精密な技巧の習得、etc…。

 ……私から紹介状を書いておくから引き受けてもらえないか、ディケー」

「……まあ、妹弟子ですし?

 ミア姉様の顔を、今回は立てさせていただきます」





 アグバログを倒した後は色々あってライアとユティにあまり構ってあげられなかったのを鑑みれば、週2回、3時間くらい家を留守にする程度でお給料を貰えるなら、願ったり叶ったりだしね。

 家庭教師をやらない日は2人と一緒に過ごす事に専念出来るし……。




「決まりだね。

 さすがディケー、話が分かる♪」




 言うが早いか。

 ミア姉様は私の返事を聞くや、その場で紹介状を書き始める。思い立ったら即行動タイプの人ね、この人は……。




「ーーーところで。

 ミア姉様の外せない用事って、何なんです?」




 ピタリ。

 私が言葉を投げ掛けた途端、それまでサラサラと迷いなく筆を走らせていたミア姉様の手が止まる。

 手紙から顔を上げたミア姉様は、何処と無く寂しげで、迷子の子供のようだった。

 ーーー本当に、ほんの一瞬だけだったけれど。





「……えっと、ミア姉様?

 聞いちゃいけない事だったのかしら?」

「……いや、大丈夫だよ。

 ただ、まあ……そうだね。

 大切な友人絡みの用事、ってトコロかな」





 ……驚いた。

 いつも凛としてるミア姉様に限って。

 あんな乙女な表情カオになる事もあるのね……。

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