第69話 ブリーチェでの朝市デート
「「 マコトチャン写本、回収完了ー!! 」」
まだ夜も明けて間もない学術都市ブリーチェに、私とキャルさんのハイタッチの音が
今日も朝から
大胆にも町のシンボルの大聖堂の屋根の上で、怪物に化身した姿でグースカ寝ていたのを発見、文字通り先手必勝で寝首を掻かせてもらった訳でして!!
「クタクタアトに続いて、
ゆるキャラみたいな姿の奴だったわねー」
「ディケーさんの
あれは恐らくマコトチャン写本に記述があるとされる、ツゥトゥグアという怪物の姿を模したものと思われます。
ヒキガエルとナマケモノとコウモリを足したような姿の怪物だとか」
「なるほどー」
回収したマコトチャン写本をキャルさんに手渡すと、魔力がコーティングされた例の鎖で魔導書をグルグルと巻いて封印していく。
うん、これでもう逃げ出す事もないでしょう。
「まだ朝早いのもあって、誰も大聖堂の屋根で怪物が寝ていたのを見てなかったのはラッキーだったわね」
「ええ、本当に」
昼間だったら大騒ぎになって、危うく観光客が激減してしまうところだったわ。
それに町のシンボルの大聖堂を戦いで破壊なんてしたら、賠償金どころの話じゃ収まらなかったでしょうよ。
……まあでもナマケモノの怪物の姿を模してるだけあって、特に何の抵抗もなく倒せちゃったから、助かったー!
「……あっ!」
「ど、どうされました?」
「……ま、また、さくらちゃんの決め台詞言うのを忘れたわ!」
「???」
不覚ね、私!
ブリーチェに着いて早々お目当ての魔導書が見つかったのもあって、完全に忘れてた!!
「えーと……の、残るはセヤケド断章だけです!
ディケーさん、最後までよろしくお願いしますね!!」
「え、ええ。そうね!」
……次こそ絶対言うわよ、あの台詞を!
「……っと、こっちも忘れないうちに。
それっ!」
私は懐から紙を取り出すと、サラサラッと魔力を込めた指先で文字を描き、書き終わると空へと放り投げた。
「ディケーさん、今しがた空に飛ばしたのは何ですか?」
「
魔女の刻印は時間と場所を選ばないから、朝昼晩いつでも視えるのよ」
朝早く家を出たのもあって、ライアとユティに書き置きを残すのをつい忘れちゃってたのよね! 忘れてばっかだな、私!
「魔女の刻印!
なるほど、魔女独特の通信手段ですね!!
……ちなみに内容は何と?」
「朝御飯と昼御飯は
「な、なるほど……」
そんな家庭的な内容の魔女の刻印をわざわざ飛ばすのは、多分私くらいでしょうけどね……。
ぐうぅ……。
「うぅ……お腹空いた……」
突然の空腹感!
まだアグバログとの戦いから2週間足らずだけど、相変わらず強敵と戦った後は大量の魔力の消費を補うためなのか、やたらお腹が減るわね……さっきもマコトチャン写本の化けたツゥトゥグアを魔導書に戻す時、それなりの魔力を込めた一撃をお見舞いしたし……燃費悪いわぁ。
「そう言えば朝御飯、まだでしたね。
そろそろ朝市が開く時間帯です。
……ディケーさん、一緒に何か食べませんか?」
「賛成ね。
朝市デートしましょうか、キャルさん」
「でっ、ででっ……!?」
「? どうかした?」
……あっ、もしかして。
「こっちだと女の子同士で買い物したり遊んだり御飯食べたりするの、デートって言わなかったりする?」
「と、都会では、そう言うのでしょうか……?
すみません、私、田舎者の上に図書館で仕事してばかりなもので、世間の流行に疎くて……」
「いいのいいの、気にしないで。
行きましょ、キャルさん」
「あ……」
慌て顔のキャルさんの手を取って、私は朝市の開かれれる町の中央区の方へと歩き出す。
大学に通ってた頃は朝マ◯クとか食べてたのが懐かしいわねー。
ブリーチェの朝市は初めてだし、キャルさんと色々と見て回るのも楽しそうだわ。
****
「はむ……。
残る最後の1冊は『セヤケド断章』です。
黄金の蜂蜜酒の製造法やバイアクヘーまたはビヤーキーと呼ばれる、空飛ぶ怪物などについて記述された魔導書となります」
「んぐんぐ……。
蜂蜜酒の製造法?
……お酒のレシピ本かしら?」
「さあ……。
書かれた方は高名な大学教授だったそうですが、お酒好きだったかどうかは私にはちょっと……」
ブリーチェの朝市で買ったソーセージとチーズと野菜を挟んだ特大のバゲットサンドにかぶり付きながら、私は隣を歩くキャルさんの話に聞き入っていた。
そんなキャルさんもまた、私と同じくミニサイズのバゲットサンドをモグモグと頬張っている。
「(アツアツのチーズのとろけ具合とソーセージの焼き加減、野菜のシャキッとさ、バゲットのパリッとした歯応えが最高ね!)」
……メチャウマ過ぎて、キャルさんの話があんまり頭に入って来なかったのは内緒。
ライアとユティにも後でおみやげで買って帰ろう。
悔しいけど、うちの実家の喫茶店で出してたホットサンドより美味しいわ……。
「最後の1冊だけあって、他の2冊より手強いかもしれません。
バイアクヘーという怪物は風の神の眷属で、時速70キロ程の早さで自由に飛び回れるそうです。
魔導書がその姿を模していたら捕まえるのは厄介かもですよ、ディケーさん」
「空を飛ぶのかー」
私はホウキ持ってないから
それにしても、時速70キロ……。
映画の「バックトゥザフューチャー」のドクのデロリアンが時速88マイル(約140キロ)でタイムスリップするから、デロリアンよりは遅い訳ね……。
「(って事は……えーと)」
ウ◯娘よりちょっと速いくらい、かしら……
(スペちゃんが時速64キロくらいだったはず)?
なら私でも何とかなる……かなあ?
「何かこう、相手の動きを封じる方法があれば良いのですが。
ディケーさんのおうちの魔道具に、そういう物はありませんか?」
「そうねえ……」
不審者撃退用の捕獲ネットランチャーとかあれば、私の元居た世界でもネット通販でもフツーに買えたんだけど……さすがにレジェグラの世界にはそんなの無いよね……何かで代用しないと。
「んむっ!?
……このチーズ、メッチャ伸びるわ!」
そんな折り。
特大バゲットを半分くらい平らげたところで、中に詰まっているアツアツのチーズがみょーんと伸びて私の口との間に橋を作る。
……味も濃厚だし、なかなか食べ応えのあるチーズね!
「……あ」
ふと、唐突に閃いてしまった。
……捕獲ネットランチャーじゃないけど、よく伸び且つ粘っこい物に心当たりがあったわ!
「(うんうん、この手で行きましょう!)」
と、私がバゲットサンドに舌鼓を打っていると、それを横目で見ていたキャルさんが、
「ディケーさん、すごい食べっぷりですね……。
……半分くらい食べてしまいましたが、
よろしければ私のバゲットサンドも食べられますか?」
「えっ、いいの?」
私があまりに美味しそうに食べるせいか、手に持っていた残りのバゲットサンドを差し出してくれた。
「私にはちょっとバゲットが固かったみたいで、噛むのに疲れてしまいまして。
それに、さっき一緒に買った野菜スープがありますので」
「そっか。
……じゃあ遠慮なく頂くわね!」
キャルさん、朝はスープ類で温活派なのね。
手渡されたバゲットサンドは、もちろん美味しく頂いたわ!
……たまにはこうして、誰かと一緒に朝の町をブラブラと食べ歩きするのも楽しいかも。
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