第67話 キャルさん湯加減どう?
「ーーーという訳で。
新しい引っ越し先が見つかるまで、しばらくキャルさんをうちに泊める事にしたから。
……ライアもユティも、それでいい?」
「私はいいよ。ね、ユティ」
「お母様がそう判断されたのなら」
帰宅後。
キャルさんを家に招き入れた私は、ライアとユティ、2人の娘達に事情を説明した。
前にもエルフのサラさんが泊まりに来た事があるし、子供達はお客さんが来る事に特に抵抗がないみたいで助かるわ。
アグバログが起こした地響きによってキャルさんが住んでたアパートが倒壊した一因は、私にもある訳だし……。
「キャルさん。
この通り、子供達の許可も貰えたから」
「み、短い間ですが、よろしくお願いします!」
「「はーい」」
キャルさんは一度図書館に戻って戸締まりのチェックをした後。
宿直室から着替えやら必要な荷物を携えて、私と一緒にまた空間を繋げた物置を経由して、うちに再度やって来た。
最初はもう何が何やらって感じだったキャルさんだけど、とにかく一つずつ説明してあげたら、何とか理解してくれたみたい。
「うぅ……っ!
ディケーさんが
……しかも先日、南の樹海で復活した炎魔将アグバログを倒したのも、実はディケーさん!!
……じょ、情報過多で、頭が今にも破裂しそうですー!!」
「まあ、おいおい馴れて、ね」
「馴れろと言われましてもぉ!
……ここ10分足らずで起きた出来事だけで、論文が幾つ書けるか!
……秘密にするって約束したから、絶対書きませんけども!!」
「そうして貰えると助かるかな」
うーん、さすがキャルさん。
図書館司書であると同時に、魔導書の研究員としての血が騒いでるみたいね。
ちゃんと守秘義務を貫いてくれるみたいだし、問題はなさそう。
……まあともかく。
今夜はキャルさんも居るし、4人前の晩御飯を作らなきゃだわ!
「ライア、ユティ。
母様が晩御飯の用意をしてる間、
キャルさんに家の中を案内してあげて。
荷物は一旦、私の部屋に置いてもらってね」
「分かった!
キャルお姉ちゃん、こっちだよ」
「私達が御案内します」
「は、はい……お願いします……」
子供達もサラさんが泊まりに来て以来の久々のお客さんで、心なしか嬉しそうね!
アグバログとの戦いを経て精神的に成長したのか、ライアもユティも何だか急に大人びちゃって……母様、嬉しいような寂しいような、複雑な気分ですよ!
「(アグバログとの戦いを経て、と言えば……)」
いつものように長い髪をゴムで束ねて、エプロンを身に付けながら。
私は、アグバログとの戦いの最中に起きた出来事を思い出していた。
「(あれ以来、ディケーが話し掛けて来る事がないのよね……。
私が話し掛けても反応が無いし……)」
よくも私の身体で好き勝手してくれたわね!って怒られる事もなかったし、身体の主導権を私から取り戻そうとする事もなかった。
「(……って事は、まだしばらく"私"がディケーでもいい、って事なのかしら?)」
少なくとも、最後に私に話し掛けて来たのは南の樹海からヴィーナに戻る直前の時だったわよね。
物凄く危機的な状況の時以外は基本的に私に任せる、って事なの?
……出来れば私としては時々でいいから魔術のアドバイスとか、これから起きるかもしれない事への対策とか相談しておきたいんだけどなー。
「……まあ、なるようになるか!」
****
ちゃぷ……。
「キャルさん、湯加減どう?」
「あ、はい。ちょうど良いかと……」
夕食を4人で囲んだ後。
キャルさんに食器なんかの洗い物を手伝って貰った私は、お風呂の使い方を教えるついでに、後から入るのも面倒なので、キャルさんと一緒にお風呂に入る事にした。
……実際のところはキャルさん最初は遠慮してたんだけれど、まあ女同士だしいいじゃないって事で、私が無理に押し切ったんだけども!
「そう、良かった。
ごめんねー、お客さんなのに洗い物まで手伝ってもらって。
お風呂も遅くなっちゃったし」
「い、いえ、そんな!
しばらく御厄介になる身ですし、あれくらいのお手伝いは当然の事かと!」
ちなみにライアとユティは私が帰宅する前に魔術の鍛練を自主的にやって汗をかいたので、先にシャワーで済ませたらしい。
鍛練に加え、久々のお客さんの来訪、更にお腹いっぱいになったのもあって、2人とも眠くなったようで、夕食後は早々に部屋へと戻っていった。
「少し気になったのですが……。
ライアちゃんとユティちゃんはディケーさんと違って、耳がとがってないんですね?」
「飽くまで"魔女見習い"だから。
2人とも、まだ人間なのよ。
存在自体は徐々に魔女に近づいてるはずなんだけどね。
正式に魔女として認めてもらえるかの成否は10年後の
「魔女の夜!
世界の
あまりに欠席の回数が多いと派閥の長である
「あはは。ノーコメント」
「ですよね!」
キャルさんってば、魔女にも詳しいわね!
「(……まあ
レジェグラのゲーム本編のルートだと、魔女の夜に出るのをサボり過ぎて除籍されちゃってたからね、ディケー!
……とまあ、こんな感じで。
とりあえず、お客さんのキャルさんに先に湯船に浸かってもらい、私はボディソープ(ナタリア様から買って貰った、結構お高いヤツ)で身体を洗いながら、女子トークに華を咲かせていた訳でして……。
「それにしても……はー。
火の術式を施した水晶で井戸水を沸騰させ、お湯として使ってるんですか……」
「山奥だから都会と違って水道管とかないからね。
薪を燃やしてお湯を沸かすより、ずっと早いし」
「確かに、経済的ですね」
地下から引いてる井戸水ならタダだしね!
ちなみに私がディケーに憑依転生してしまった当初はシャワーヘッドが無かったので、それっぽい物を魔道具を"合成"してシャワーの時に使っている。
日本に居た頃はヨド◯シとかア◯ゾンの通販で注文すれば大抵の物は揃ってたのが、今ではすごい懐かしいですやんか……。
「ふう、こんなものかしら。
……よし、キャルさん交代しましょ」
「あ、はい……」
私は髪や身体に付いた泡をシャワーヘッドのお湯で洗い流して、キャルさんと交代して湯船に浸かるため、立ち上がる。
と……。
「うわ……でっか……」
「キャルさん、どうかした?」
「い、いえっ!
ナ、ナンデモナイデスヨ……!?」
キャルさんはチラッと私の方を見た途端に顔をカッと紅くして、すぐにそっぽを向きながら湯船から出て、そそくさとボディソープで身体を洗い始めてしまう。
「(……まあいいかあ)」
そんな感じで。
交代して湯船に浸かり、キャルさんがボディソープで身体を洗うのを私が眺めていると、
「でぃ、ディケーさんっ!
こ、このボディソープっ、
もしかしなくてもメチャクチャ高いヤツじゃありませんかっ……!?」
「あ、うん。
ヴィーナの御領主様の奥様に買って貰ったの。
結構高かったんだけど、
『ヴィーナ家付きの冒険者なら、それなりの物を使いなさい!』
ってメッチャ怒られちゃって……まだいっぱいあるのよ」
「御領主様の奥様……!?
も、もう何でもアリですね……」
名前は忘れたけどレジェグラの世界だと割と名の知れたメーカーの高級ボディソープとの事。
……まあディケーは魔女だからそこまで肌の手入れは必要ないんだけど、ナタリア様の気持ちも無下に出来ないし、ありがたく使わせて貰ってる。
「(実際、使ってなかった頃より肌艶もいいしね)」
……そう言えば。
ナタリア様と言えば、思い出した。
前にナタリア様と一緒にお風呂入った時、
『何よ、このおっぱい!
それにこの、お湯を弾く肌のハリ艶!!
……私にケンカ売ってる!?
ディケー、少し寄越しなさいよ!!!』
『あばばばばばばっ!?』
って、おっぱい鷲掴みにされて、メッチャ揉まれたっけ……。
「(ナタリア様ったら、御領主様と一緒だと
まあ実際、元アラサーの私からすれば二十歳くらいの子ってまだ子供って感じが抜け切れないんだけどね。
……なーんて。
「こ、これ1本が、
私のお給料3ヶ月分……嘘でしょ……!?」
ボディソープのボトルを震える手で抱えて驚愕するキャルさんを見つめながら、私は思うのだった。
……よし!
明日も魔導書狩り頑張るぞー!!
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