第64話 魔導書狩りの心得
「ーーーという事ですので。
まずは
この相手には敵わないと判断して、ほら自分はもう抵抗しませんよ、と態度で示す訳ですね!」
「なるほどー」
お昼過ぎ。
学術都市ブリーチェの町の一角にある、古風な外観の石造りのカフェのテラス席で昼食を摂りながら、私は図書館司書のキャルさんの話に聞き入っていた。
閑静な町並を眺めながらカフェでランチ……何だか私達、代官山女子みたいね!
港区女子より、こっちの方がよっぽど健全だわ、うんうん。
「まずは一度戦って、捕獲してみましょう!
ディケーさん程の冒険者でしたら、すぐに魔導書との戦いのコツも掴めるはずです!!」
「そ、そう?」
食事をしながら話している間にすっかり意気投合した私達は時折、自分達のプライベートなんかも交えつつ、依頼内容を確認し合ってた訳ね。
「(キャルさん、好きなコトにはとことん熱が入るタイプの子ね!)」
今思うと元アラサーの"私"と歳の近い
私も学生時代はお昼休みにオタ友とレジェグラについて熱く語ってたもんですよ。
……でも、ベルちゃんやネリちゃんは同僚だし、ナタリア様は雇用主の奥様でしょ?
友達と言えば友達なんだけど、一歩引いた感じの関係だったのよね。
「(サラさんは……
ど、同性の恋人って関係ではないんだけど、
まあそれに近い関係……ではあるのかな?)」
……まだちょっと自分でも分かんない。
女の人と正式に付き合った事、一度も経験ないんで。
閑話休題。
「キャルさん、再確認なんだけど。
……魔導書は自身のページに記載されているイラストの怪物とかに化けるだけであって、本物を召喚して攻撃とかはして来ないのね?」
「はい。飽くまでも姿を借りているだけです。
召喚には膨大な魔力が必要となりますので、術者が居ないとまず不可能ですね。
……それでも本物ではないとは言え、魔導書自体が高名な魔導師や魔術師によって編纂された物ですから、かなり手強いのは間違いありません」
「そっか。分かったわ」
あー、良かった!
色んなゲームやラノベで名前をチラホラ見掛けるような神やら悪魔やらと戦わなきゃとかだったら、ちょっとアレだけど……モノホンじゃなくて、姿を借りてるだけの偽物なら何とか出来そうだわ。
「魔導書達はブリーチェの町を自身の縄張りと認識しているはずですので、町から出て行く事はまず無いと思います。
厳重に保管されていたとは言え、何百年も過ごした土地ですから。
……しかし、逃げ出してから1週間以上が経過していますし、そろそろ魔力も補えた頃でしょうから、活動を始めるのも時間の問題かと」
「人的被害が出る前に回収しなきゃ、って事ね」
「はい、まさしく。
ブリーチェは御覧の通り、学術都市であると同時に、古い建築様式の大聖堂やレトロな町並を売りにしている閑静な観光地としての側面もありますので……。
ま、町に怪物が出て暴れている、などの風評被害はどうしても避けたいので……」
「ああ、それは確かに」
「魔導書を全部回収出来なかった時は図書館側の落ち度という事で、来年度の予算も職員の給与も大幅カットと宣告されてしまいまして……うぅ」
あらら、文字通りの死活問題!
……元はと言えば私がアグバログと戦ったのが原因でもある訳だし、関係ない人達に迷惑かけちゃってるのは忍びないもんね……キャルさんのお給料がカットされるのを防ぐためにも、やりますかあ!
「……ですので!
ディケーさんの魔導書狩りには私も全面的に協力させていただきますので、何卒よろしくお願いします!!」
「ええ。
頑張りましょう、キャルさん!」
真昼のカフェテラスで、ガッチリと握手を交わす私とキャルさん。
うーん、何だか代官山女子ってよりは、乙女ロードの池袋女子って感じになって来ちゃったわね!
「(まあでも今回の仕事、キャルさんには申し訳ないんだけど、ちょっと楽しそうでもあるのよねー)」
いやー、だってアレですよ?
町中に逃げ出した魔導書を捕まえるなんてシチュ、まるで昔、国営放送の教育チャンネルで放送されてたアニメの「カードキ◯プターさくら」みたいじゃない? まだ小さかったけど見てたわあ~。
「(全女子の憧れでしょう、さくらちゃん!)」
私も子供の頃は雨上がりの時に傘振り回して、
『汝のあるべき姿に戻れ、ク◯ウカード!』
とか言ってたわね……。
「傘が人に当たったらどうするの!」って、お母さんに怒られるのがセットでね。
……うわ、メチャクチャなつい。
「あ、ごめんなさい。
私ったら、また熱くなってしまって……」
「いいのよ、キャルさん。
信じる、それだけで、越えられないものはないわ!」
「急にどうされました!?」
……どうやら目覚めてしまったようね。
私の中に眠っていた、かつて魔法少女に憧れていた頃の私が!!
……今は魔女だけど!
だって、魔法少女が大人になったら魔女でしょうよ
(唐突な虚淵感)。
「食後の紅茶をお持ちしましたー。
お皿をお下げしますね、ではごゆっくりー」
……と。
ウェイトレスさんが紅茶を持って来たので、一旦ブレイク。
「(いけないいけない、私もちょっと熱くなっちゃったわ)」
だけど、どの料理も美味しかったし、キャルさんが休憩によく利用してるだけあってなかなかの穴場だったわ。
また来たいわね!
「んー、紅茶も美味しいわ。
……静かで過ごしやすいし、いいカフェね」
「ここの地区は地響きの被害がそこまでなかったので、片付けもすぐ終わったので営業を再開している店舗が多いんです。
でも他の地区は石造りの古い町並が多いので、倒壊してしまった建物の片付けがまだまだ終わっていなくて……。
ヴィーナの御領主様が寄越してくださった公国軍の災害支援隊には助かっています」
ふう、と一息吐いて。
私と同じようにティーカップを口に付け、乾いた喉を紅茶で潤すキャルさん。
ふふ、これだけ見てると落ち着きのある知的な美人さんよねえ……彼氏が居ないのが不思議でならないわ。恋より仕事派なのかしら?
「これを飲み終わったら町をグルッと回りながら魔力探知して、魔導書を探してみましょうか」
「そうですね。
逃げ出してから1週間が経過した今なら魔力も充実して来ているでしょうし、感知もしやすいはずーーーー」
楽しかったカフェでのブリーチェ女子会も、そろそろお開き……そんな折りに。
「「 !! 」」
不意に私とキャルさん、双方の目が瞬時に合う。
……恐らく今、私達は同時に同じ物を感じたはず!
「ディケーさん!」
「ええ!」
ク◯ウカード……じゃなかった!
……魔導書の気配だわ!!
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