第63話 ようこそブリーチェ大学附属図書館へ
「ヴィーナの冒険者ギルドから派遣された、ディケーと申します。
……
「ディケーさんですね、お待ちしておりました。
ようこそ、ブリーチェ大学附属図書館へ。
面接はあちらの部屋で行いますので、私が御案内いたします」
私が今日やって来たのはヴィーナ自治領に属している市町村の1つ、ブリーチェという町。
20世紀初頭のアメリカンな雰囲気だったヴィーナに比べると、此所はどっちかと言うとイギリスの田舎町みたいな雰囲気ね……木や花に囲まれた石造りやレンガの家の町並みはヴィーナだとそんなに見られなかったから新鮮だわ。
私は結構好きかも、こういう所。
大きな聖堂とかもあって、そこそこ観光客の姿も見掛けるけど、先日アグバログが南の樹海で復活した時に起こした地響きのせいで、この町もそれなりに被害を受けてて、まだ壊れた建物やらの片付けが終わっていないみたい。
「私は図書館司書のキャルと申します。
本日の面接を担当させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
……で。
いつもはヴィーナを拠点に魔女の正体を隠しながら冒険者をやっている
「(魔導書絡みの依頼は、ちょっと見過ごせなかったのよね……)」
魔女としてはね!
この図書館では昔から希少な魔導書や魔術書の類いを収集したり研究したりしていて、厳重に保管していたそうなんだけど(田舎の方が土地が安いから、結構大学やら企業の工場やら建ったりしてるけど、ここも多分そんな感じだと思う)……さっきも言ったようにアグバログが復活した時に起きた地響きで魔導書の封印が緩んでしまい、一部が逃げ出したそうなのね。
「(……いや、本が逃げ出したって何よ?って話なんだけど)」
著者や所有者が高名な魔導師や魔術師だった場合、本にも強力な魔力が宿って意思が芽生える事もあるとかないとか……日本で言うところの
まあとにかく、ペット探しの延長みたいな依頼だったので、受けてみる事にしたのね。
図書館とか元の世界に居た頃は何年も行ってなかったし、田舎町にもちょっと興味があったのよ。
「……そういう訳でして。
繊細な魔力感知が得意な方、及び、魔導書が襲い掛かって来た時に応戦可能な戦闘能力を有した方を優先的に採用したいと考えています」
「分かりました」
図書館司書のキャルさんから今回の依頼の内容を説明してもらいながら、私は軽く頷き返す。
……眼鏡と青みがかった黒髪ロングが似合う、知的で綺麗な感じのオネーサンね!
多分だけどナタリア様よりは年上かな?
こんな人が図書館に居るなら普段本を読まないような人でも、キャルさん目当てに毎日来ちゃいそうだわ……。
「(しかしまあ、本が抵抗して襲い掛かって来るなんてねえ……)」
私は「そもそも魔導書って何?」って所から、頭の中でおさらいしていた。
……要は悪魔とか天使、精霊とか神霊に付いて書かれた本だった訳ね。妖怪図鑑みたいな?
「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり!」って、日本の妖怪漫画の第一人者の先生が描いた漫画の主人公が唱えてた呪文、あれって悪魔召喚のための呪文だったのかあ……知らなかったわ。
鬼◯郎の方は映画で何度も入村済みだったんだけど、悪◯くんの方は不勉強でした……。
「ディケーさん。
試しに、この部屋に何冊の魔導書があるか、感知してみてもらえますか?」
「えっ? あ、はい」
仕事内容の説明を終えたキャルさんに促されるまま。
私は早速、以前ヴィーナの市場でナタリア様と護衛デートした時と同じく、魔力を部屋全体に広げ、潜水艦のソナーのように返ってくる魔力反応を待った。
……しかして、
「……あの本棚に2冊、あっちの机の引き出しに1冊。
それと……このテーブルの裏に1冊張り付けてあって、計4冊………かしら?」
「……正解です! 素晴らしい!!」
一般の人が読んでも問題ないような初級の魔導入門書なので大した魔力は無いはずなんですが、全て感知されるとは!
……キャルさんはそう言いながら目を輝かせてガタッと椅子から立ち上がると、私の手を取って、喜びを隠さなかった。
「ディケーさん、採用です!
戦闘面に関しては特A級の有害召喚獣を退ける腕前ですし、魔導書とも互角以上に渡り合えると確信しております!!」
「ど、どうも……」
ああ良かった、キャルさんのお眼鏡に叶ったみたい。
希望に叶った採用者が早速現れて、キャルさんは途端にニコニコと上機嫌になっちゃったわ。
……と言うかこの件、決して私も無関係って訳じゃないから是が非でも受けなきゃ、って思ってたのよね。
……と言うのも、
「本来でしたら、魔導書を逃がしてしまった我々が回収出来ればよいのですが……魔力感知はともかく、戦闘面に関しては……そのぅ……」
「ま、まあ、人には得手不得手がありますから。
適材適所って言いますし」
「で、ですよね!
……でも元々、図書館自体が古い建物なので地震対策の術式は施してあったんです。
ですが先日、南の樹海で炎魔将アグバログが復活した事で異界の瘴気に触発されたのか、一部の魔導書が急に暴れだし、封印の緩みを掻い潜って逃げ出してしまって……うぅ、図書館司書失格です……」
「(責任感の強い
アグバログ復活に関しては、私も他人事じゃないって言うかあ……現場に居た関係者の一人と言うかあ……。
地震大国の日本でも大きめの地震が起きた時、ペットの犬やら猫が驚いて家から逃げ出した……みたいな投稿をSNSでもチラホラ見掛けてたもんね。
……魔導書が図書館から逃げ出した原因がアグバログにあるなら……アイツと戦った私としても、後始末はきちんとしておきたい。
「あ、すみません。
強く握っちゃって……痛くありませんでした?
……まさか、募集してすぐにディケーさんの様な強い冒険者の方がヴィーナからこんな遠方まで来てくださるとは思わなくて。
報酬もそんなに多くないのに……」
「え、ええと……私も魔術を使いますので。
以前から魔導書には興味があったと言うか……」
「なるほど!」
うん、まあ……嘘は言ってないわね!
魔女だし、ディケーの部屋にも魔導書たくさんあるし(ディケーの魔力に服従しているのか、少なくともうちにある魔導書が逃げたり、襲い掛かって来た事は一度もないけど)。
こういう研究機関や専門機関とコネクションを築いておくのも冒険者を続けるなら、やっておいた方がいいだろうし。
……で。
ややあって、面接していた部屋から出た私達は一旦図書館のカウンターまで戻ると、
「ディケーさん。
私これから、お昼休みなんです!
よろしければ、お昼を御一緒しながら逃げ出した魔導書達の特徴や性質について御説明いたしますが、いかがですか!?」
おおう!?
キャルさんったらメッチャグイグイ来るわね!?
……同好の士に会えて興奮してるのかしら?
知的な感じのオネーサンってよりは、好きなアニメやら漫画を誰かと語りたくてしゃーない感じの乙女ロードのアニ◯イト女子って感じ! ……まあ港区女子とかよりはマシか!! 私は後者とは解り合えなそうだし。
「(図書館は今閉館中だし、他に人は居ないから大きな声出しても問題ないんでしょうけど、普段だったら怒られてそうね……よっぽど嬉しかったのかな)」
まあ何にせよ「餅は餅屋」って言うし、ここは魔導書の専門家のキャルさんから色々と聞いておくに越した事はないでしょう。
「……じゃあ、御一緒しようかしら」
「はい!
準備して来ますので、ここで少し待っててくださいね!」
タッタッと足早にカウンターの奥の部屋へと荷物を取りに行くキャルさん。
と、
キャルさんはヒョイと私の方に首を向けて、青みがかった黒髪ロングをなびかせながら、
「ディケーさんのような魔術に理解のある方が依頼を受けてくださって、本当に嬉しいです。えへへ♪」
……ここの図書館の常連の人だったら、多分あれで恋に落ちてたんじゃないかなあ、って
……私、また何かやっちゃいました?
(「小説家になっちゃおう」の主人公感)
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