第43話 南の空に輝くモノは
「「「うまーい!!!」」」
夜の食卓に響き渡る、親子3人の感嘆の異口同音。
私が冒険者になって初めて駆除した有害召喚獣、
ライアとユティもお肉大好きだから、もう箸が止まらない止まらない、勿論、私も(最近になって2人にも箸を作ってあげて、使い方を教えたらフォークやナイフより箸で食べるのが好きになったみたいなのよね)。
「ぼたん鍋! 脂の甘みがハンパない!!」
「はんばーぐ! めちゃうま!!」
「ソーセージ! ビミナルモノニハ、オトガアル!!」
御飯がめっちゃ進むってレベルじゃないわ!
獣臭さも全然ないし、血抜きがすごい良い仕事してる!!
ぼたん鍋を再現するために事前に土魔術で土鍋を作ったり、味噌を用意した甲斐があったわね(ちなみに味噌はヴィーナの市場にフツーに売ってた……)。
ライアが食べてるハンバーグは旨味が凝縮されてジューシーな味わいだし、ユティがパリポリ食べてるソーセージは歯応えは勿論、ハーブとの相性が抜群!!
私、こっちの世界に来てから滅多にお酒は飲まないんだけど、今日に限ってはお酒買っておけば良かったとプチ後悔中!
「(レジェグラの世界に転生して2ヶ月くらい経つけど、こんなに美味しいお肉を食べたのは初めてかもしれない……!)」
全人類は今すぐ巨猪の肉を食え!!!
と、私は声を大にして言いたい。
「畑を荒らす厄介者が、美味しいお肉となって私達の胃を満たしてくれる……命って、こうして繋がっていくのね……」
「しぜんのめぐみにかんしゃー!」
「ヤスラカニネムレ」
果てしなく続く命の螺旋。
時空も突き抜けて、って感じね!
ぼたん鍋に関してはイノシシに脂肪がつく冬の方が美味しいらしいんで、冬辺りにまた巨猪の駆除依頼があったら受注しとこう……これはリピート不可避だわ。
「かーさま、おかわり!」
「ミートゥ!」
「はいはい。まだいっぱいあるからね」
私達の食欲は、ここからがハイライトよ!
****
「おさらとおはし、ぜんぶあらいおわった!」
「ミッションコンプリート」
「ありがとう。2人とも偉いわね」
私が
私の右手が完治した後もそれは続いていて、自分達が使った分のお皿や箸は食後になると率先して洗ってくれている。
「(母様、ちょっと感動ですよ)」
私が子供の頃はこういう感じでお手伝いしてた記憶ないなー。
小学生くらいまでは全部お母さんに任せきりだった気がする。
いざ異世界に来ちゃってもう会えないと思うと、少しくらいお手伝いしとけば良かったって後悔の念が強くなっちゃうわね……。
「(っと、センチメンタリズムに浸ってる場合じゃないわ)」
異世界に来ちゃったものはしゃーないし、今はライアとユティの母親の魔女ディケーとしてやってかないと……。
来年は2人とも魔術学校に通うんだし、私がしっかり母親をやらなきゃ……。
「……って、あれ?
ライアもユティもどうしたの?
じーっと窓の外を見て」
私が感傷に浸っている間に。
ライアとユティの2人が木の台座から降りるのを忘れ、台所から窓の外の景色をじっと見つめているコトに気づいた。
一体、何を見ているのかしら……?
「かーさま、あれ……おそらに」
「……ウィッチサイン」
「えっ……!?」
「ちょ、ちょっと見てくるわね!」
****
私は慌てて外に飛び出し、星空を見上げる。
山の中だけあって町中よりも遥かに星が見えやすい環境なんだけど、今夜は一際星が綺麗な夜だった。
それにディケーは"星空の魔女"、夜目が効く。
「……見つけた!」
そんな星空の中に浮かび上がる、魔女だけが読める特殊な文字、魔女の刻印!
……南の空に、確かに輝いているのが見えた!
「しかも、頭文字は
私の魔女の刻印のコード!!
ってコトは……!」
私が魔女の刻印のコードを渡した相手は、ここ最近では一人しか心当たりがない。
『私の魔女の刻印のコードをあげておくわね。
お嬢様の御両親から解呪の許可が頂けたら、空に投げて。
世界の何処に居ても私には分かるから』
『承知いたしました。
色々とありがとうございました、ディケー様』
南の樹海に住むエルフの氏族にお仕えしてる、メイドのサラさんしか居ない!
エルフなのに生まれつき魔術が一切使えない呪いに侵された、氏族長のお嬢様の解呪の許可がついに出たんだわ!!
「(それはつまり……!)」
300年前の深淵戦争時、異界のゲートを通って
「(……サラさんに大見得切った以上は、やるしかないでしょうよ)」
ズ ズ ズ …… !!!
身体から魔力が沸き上がるのを感じる。
これまでにない強敵との対決が不可避なのを本能が悟り、武者震いにも似た感覚で、奥底から沸々と、静かに。
「かーさま、もえてるね」
「……アシタカラ、イソガシクナルナ」
ユティの言う通り。
ーーー南の樹海への、長い旅の始まりを告げる星空だった。
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