第42話 ナタリア様のオークション講座
「首都で開かれる年末のオークションに出品したい物がある?」
御領主様に
私は若奥様のナタリア様の部屋に通され、お茶とお茶菓子を御馳走になった。
「ナタリア様でしたら、そういう事にお詳しいのではないかと思いまして」
で、いつもの"アレ"こと電気マッサージによるほぐしも終わって、ナタリア様がくつろぎ始めたタイミングを見計らって。
以前からやってみたかった、公国の首都で開催されるオークションへの出品について、私は切り出していた。
「私が駆除した特A級の有害召喚獣が所持していた棍棒が、実は北の大森林でしか採取されない希少な樹木を加工して作られた物でして……」
「ああ、ディケーが倒した
「
「そんな名前の猿だったわね。
何よ、そいつの持ってた武器を売りたいの?」
完全に勝手知ったるやと言った具合に、マッサージを終えたナタリア様はソファーに座る私の膝に頭を乗せて、仰向けに寝転がってしまった。
……「もうっ、このおっぱい邪魔ねぇ」とか言いながら、極星のローブの上から指で
「来年の春辺りまでに纏まった資金が欲しいと言うか……その足しになればと思っています」
ライアとユティもいよいよ来年は魔術学校に入学するし、学費やら何やらの事を鑑みると、蓄えは多いに越した事はないもんね。
御領主様のヴィーナ家付きの冒険者になったとは言え、まだ冒険者歴1年目の
「(私やライア達用の杖として加工する分はもう削って確保してあるし、残りを売っちゃいたいのよ……)」
出来る事なら専門的な知識のある人達の方が高く買い取ってくれそうだしね。
300年前の深淵戦争時に開いた、異界のゲートから漏れ出た瘴気の漂う北の大森林で育った樹木は高い魔力を宿していて、魔術関連の武器や装飾品への加工に絶対適してる。
分かる人なら喉から手が出るくらい欲しいはず(そもそも北の大森林自体、危険過ぎて普通の人間は近づけないし)。
それに、地方都市のヴィーナの町の買取店よりは、首都で開催される年末オークションの方が色んな人に競ってもらえて、思わぬ高値になるかもだし……。
「ふーん。
ま、出来ない事はないわよ。
まずはカタログに載せるために、現地に出品物を送るの。
そこで送られて来た物の真贋を専門家が鑑定して、本物と認められれば年末開催のオークションカタログに掲載されるわ」
「なるほど」
そっか、こっちがいくら「巨猿王が使っていた、北の大森林で採れた樹木を加工して作られた棍棒の一部です!」って主張しても、第三者機関による真贋鑑定がないと信用してもらえないのね……。
「でも、ディケー。
貴女、何故だかは知らないけど首都には行きたくないんでしょう?
オークションは現地での会員制だけど、会員にはなってるの?」
「え、えぇと……。
な、なってないです……」
予想はしてたけど、やっぱり会員制だったか……。
そうよね、ヤ◯オクとかメ◯カリもアカウント作らないと始められないもんね……ディケーは世界中旅してた割には身分証すら持ってないし……。
「はぁ……そんな事だろうと思ったわ」
「すみません……」
「ま、私はオークション会員だけど」
ナタリア様! 信じてましたー!!
「年に何度か首都に行ってるって、前に言ったでしょう?
あれ、年末のオークションへの参加も含まれてるのよ。
リモートでもいいけど、現地で落札する方が臨場感があって楽しいしね」
うーん、セレブっぽい!
地方領主の若奥様とは言え、やってる事はやってるのね、ナタリア様。
「私、そもそも実家がヴィーナ周辺でもそれなりに幅を利かせてる商家なのよ。
あの人との結婚前はお父様に連れられて年末の首都への買い付けのついでに、よく参加してたわ。
オークション会員の登録自体は成人していて、且つ毎年一定額を支払いさえすれば誰でも出来ちゃうし」
「なるほどー」
ナタリア様、言わば企業の社長令嬢だった訳ね。
前に市場で買い物してた時も、貴族の御令嬢ってよりは商人目線って感じの買い物の仕方してたって言うか……。
「私の名義でディケーの出品したい物を代理出品してあげる。
ただ、オークション開催側に落札手数料の1割を取られるから、それは頭に入れておいて」
落札額の1割かあ……。
1000万で売れたら100万を取られて、手元に残るのは900万、って事ね……。
まあ、ヤ◯オクもメ◯カリも手数料は10%だったし、何処の世界もその辺の相場はあんまり変わらないのね……(多分、レジェグラの開発スタッフがヤ◯オクやらメ◯カリやってて、そのまま手数料の設定も流用したってオチなんでしょうけど……)。
「あと私の取り分だけど」
「……えっ?」
「ディケー、まさかタダとか思ってないでしょうね?
このヴィーナ自治領の領主の妻、ナタリア・ヴィーナが名義を貸して代理出品してあげるのよ?
本来だったら、オークションに参加する資格すら持ってない、あ・な・た・の・た・め・に!!」
「うっ!? そ、そうでした……」
さすが商家のお嬢様、抜け目ない!
ちゃっかり私から手数料を取る気なんだわ!!
ああっ、おっぱいを指で連打突きするのヤメテヤメテ!!!
「そうねえ、落札額の4割もらおうかしら」
「よ、4割ですかっ!?」
「ええ、4割。悪くない話でしょう?
首都への出品物への輸送料、真贋鑑定料、カタログ掲載料、オークションへの出品料……諸々の費用までも負担してあげたら、それくらいはもらわなきゃ割が合わないもの」
よ、4割かあ……うぅ……。
更にオークション開催側に1割取られて……ご、合計で5割っ!?
って事は、1000万で売れた場合、私の手元に残るのは半分の500万……ってコト!?
うわー、ヤダーっ!!!
「……ふっ、ふふっ、あははっ!!
もう、ディケーったら何泣きそうな顔してるのよ」
「えっ?」
ナタリア様はゆっくりと立ち上がり、改めて私の隣へとソファーに座り直した。
そうして私の肩に頭を乗せて、尚も愉快そうに笑う。
「さすがにそれはボリ過ぎだって気づきなさいよ。
名義貸すだけで4割とか、いくらなんでもナイナイ」
「デ、デスヨネー」
「ディケーはオークションに参加するのは初めてみたいだし、今回に限っては私がタダで面倒見てあげてもいいわよ」
「えっ!? ほ、本当ですか?」
「ええ。タダでも私には利益が出る話だもの」
……この人、たまにこういう子供っぽいトコロがあるから何処か憎めないのよねえ。
初対面の時は色々あったけど、今はこんな風に友達みたいな関係になっちゃったし。
「首都の年末オークションには、公国領から有力な貴族や商家が多数参加するわ。
出品をする側は『うちはこんなお宝を所持しているんだぞ』って財産の誇示になるし、落札する側は『うちはこんな高額な物を落札出来る財力があるんだぞ』って誇示出来る訳。
ま、要は貴族や商家の互いのメンツを懸けた、意地の張り合いの場って事よ。
やり過ぎて破産しちゃう人も毎年ちらほら居るけど」
「(オークションの
奥が深いわね、オークションの世界って。
私はただ巨猿王の棍棒がお金になったらなー、って軽い気持ちでナタリア様に相談したんだけど、何か
「で、ここからが肝心。
ヴィーナ領主の妻である私の名義でディケーの出品物の代理出品をする事で『ヴィーナ自治領は特A級の有害召喚獣をも退けた、あの冒険者ディケーを傘下に加えた』と、暗に他の貴族や商家にアピールする事が出来るのよ」
「あ……なるほど」
ナタリア様は私の名前を使って、ヴィーナ家の威光を高めたい、ってコトなのか。
うーん、ちゃっかりしてるわ。
まあ、私も今では御領主家付きの冒険者だし、そこは別に文句はないわね。
「更に、
特A級の有害召喚獣を単騎で退ける事の出来る、腕利きの冒険者とのパイプをね。
もしかしたらウチでも雇えるかも、って。
……ま、私はディケーを手放すつもりはないんだけど」
ナタリア様、そこまで考えてたんだ……。
うーん、私そんな複雑な意図を持ってヤ◯オクに出品とかした事ないからなあ……。
オークションの世界には、色んな駆け引きがあるのね。
「……ちょっと、最後の聞いてた?」
「えっ?」
何か……ナタリア様、少し不機嫌?
ぷくーって、膨れっ面気味と言うか……。
「私は、"貴女を手放す気はない"と、そう言ったんだけど?」
「あ、はい。ありがとうございます。
今後もヴィーナ家には誠心誠意、お仕えさせていただきますので」
「……」
「い、いひゃいっ!?」
初めてお会いした時同様、またナタリア様に頬っぺたを引っ張られた!
えっ、何!? 私、何か悪いコト言った!?
「バカ。バカディケー!」
「???」
どうやら、オークションより先に、まずはナタリア様との駆け引きを覚えないといけないのかも……。
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