第41話 巨猪の遺産

「待たせたな、ディケー。

 お前さんが倒した巨猪ジャイアントボアの加工がやっと終わってな。

 さっき食肉業者から諸々届いた所だ」



 うおお、待っていたわ……この瞬間ときを!

 私が冒険者になって初めて駆除した有害召喚獣、巨猪!!

 農家の野菜を喰い荒らしていた厄介者だったから、私も心置きなく退治させて貰ったんだけど……満を持して、死して尚も大地の恵みとして私の元に帰って来たのね!!!



「にしても随分と時間がかかったわねー」

「普通のイノシシならまだしも、あれだけデカいと血抜きや解体にも時間がかかっちまうのよ」

「なるほど」



 加工業者に任せて、大体一ヶ月くらいかしら?

 すっかり顔馴染みになったヴィーナの冒険者ギルドの素材回収班のオジサンが苦笑いしながら、業者から届いた巨猪の加工品の入った箱をカウンターへと大量に山積みにしていく。



「ハンバーグ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ハム、薫製、ソテー、どれも美味しそうね!」



 ちなみに体長1.8m、体重140キロのイノシシで、大体400人前くらいのお肉が取れるらしいのよね。前にヤ◯ーニュースで読んだ事あるわ。




「(それがプレハブ小屋クラスの大きさのイノシシともなれば、とんでもないボリューム感!)」




 ……なのでまあ、いくら食べ盛りの子供2人と巨猿王コングロードとの戦いを経て未だ食欲マシマシな私の計3人でも食べられる量には限界があるので、半分くらいは業者に買い取って貰った。

 今頃は時を同じくして、ヴィーナのお肉屋さんの店頭に並んでいる頃でしょう……。

 牙とか爪は武器や防具なんかの装備品や装飾品の材料になるんで、そっちはギルド側に買い取って貰えたし。

 農家の人も畑を荒らす有害鳥獣にひとまずは悩まされずに済むし、みんなWin-Winな関係ってヤツね!



「(前にふるさと納税の返礼品でイノシシのお肉を貰った事あるけど、メチャウマだったのよねー)」



 レジェグラの世界のイノシシのお肉もさぞ美味でしょうよ。このソテーの赤身と脂! たまりませんやんか!!

 ライアとユティもお肉大好きだし、しばらくは巨猪のお肉で食い繋げば家計も助かりそうだわ。



「お前さんみたく、倒した有害召喚獣を食肉加工依頼する冒険者はそれなりに居るんだ。

 まだまだ喰える奴はたくさん居るし、倒せば業者の覚えもよくなるから、損はないと思うぜ。

 特にお前さんの場合、倒し方が綺麗だからな」

「ありがとう」



 最期は苦しまないよう、魔女ウィッチスティングで脳天を貫いて倒したのが良かったのかー。

 巨猪も静かに逝けたみたいだし、決して命は無駄にしないわ。

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。



「じゃ、持って帰るから」

「ああ。たんと食いな」



 魔女ウィッチ工房インベントリはオジサンの見てる前では使えないので、ギルドから支給された道具袋に吸い込んで、取り敢えずはお肉の箱を異空間内に保管して、と。



「(あ、御領主様にもお裾分けしとこうかしら)」



 童話の「長靴をはいた猫」でも、狩りで捕まえたウサギを「カラバ侯爵からの贈り物です」って、何度も王様に献上してたもんね。

 食欲は人間の三大欲求の一つ!

 食べ物の贈答品の方が記憶に残りやすいでしょうし、御屋敷には若い護衛騎士の人達が何人も住み込みで駐在してるし……食べ盛りなんじゃないですかね?





****





「皆様のお口に合えばよいのですが」

「いや、かたじけない。

 うちは若い者が多いし、肉はみな大好物だ。

 ディケー殿。貴殿の心遣い、痛み入る」

「(よかったー)」



 ヴィーナを統治する御領主家付きの冒険者になったとは言え、この御屋敷の中では私はまだまだ新参者だし、これくらいはね。



「有害召喚獣の食品加工については今後、本格的な産業化も視野に入れているのだ。

 特にヴィーナは国境と接しているのもあって、他の地域で繁殖した固体が侵入しやすいものでな……」

「では、バンバン倒してしまって問題ないのですね?」

「勿論だ。励んでくれ」

「畏まりました」



 よし、御領主様の御墨付きも貰えた!

 御屋敷詰めでの仕事が無い時は有害召喚獣の駆除を今後もちまちまとやっていこう。

 ライアとユティに心配はかけられないから、さすがに特A級とのガチバトルはちょっと勘弁だけど……C級やB級とかでも一般の人からしたら充分に驚異だしね。



「(その辺をまずは駆除して冒険者としてキャリアを積むのもありよね、きっと)」



 ……そんな感じで御領主様への贈答品を渡し終わった頃合いに。



「あら、ディケー。来てたのね」

「ナタリア様」



 御領主様のお部屋に、若奥様のナタリア様が見えられた。

 御屋敷の中だからそこまで派手なドレスじゃないけど、今日もお綺麗ね。最近は肌ツヤもいいし。




「ねえ、あなた。

 ディケーを借りてもよろしくて?」

「あ、ああ。構わないが」

「ですって。

 ね、私の部屋でお茶しましょうよ。

 ……あと最後に"アレ"もね♪」

「あ、はい。

 御領主様、それでは」

「ふふ。行きましょ、ディケー」




 ナタリア様はそう言って私の手を取り、御領主様のお部屋から連れ出してしまった。

 ……ちなみに"アレ"とは、私がナタリア様にいつもやっている電気マッサージの事である。

 すごく気持ちいいみたいなので御屋敷に来る度、せがまれてやっている。

 ……決していかがわしいコトではない。

 ないんだけど……御領主様が変な誤解してなきゃいいなあ……。





「(ア、アレとは? 妻とディケー殿は一体どんな関係なのだ……!?)」





 ーーーしていた。

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