第5話 愛娘達とエビ三昧!
「レッドバンブー島産ロブスターサンド、3つください」
「あいよ。エビラサンド3つね」
ブロケナの町に日が昇り、時刻はお昼一歩手前。
港の古倉庫を後にした私達3人は、早速初めての町の観光を満喫していた。
ずっと山奥に籠っていたものだから、人混みの賑わいが何だか新鮮だ。
首都からは離れているけど公国領の港町、色んな人達がひっきりなしに行き交っている。
私は朝市を覗いたりするのが楽しかったけど、ライアとユティは路面電車に興味津々と言った感じで、しばらく飽きずに眺めていたのが何とも微笑ましかった。
子供って電車好きよねえ……私の従姉妹の子供達も電車好きだったわね。
「お姉さん、見掛けない顔だね。
観光かい?」
「えっ? ああ、はい。子供達と」
で、今居るのは海が臨める町の高台にある噴水広場。
出店でお昼御飯の買い物中だ。
……ちなみに当初心配していたお金については、外出に備えてディケーが予め貯めてあったタンス預金がクローゼットの中から見つかって事なきを得た。魔女もタンス預金とかするのね……まあ身分証とかないだろうし、銀行口座とか作れそうにないもんね。
「へえ、あんた子持ちかい?
てっきりうちの娘と同じくらいかと思ったよ」
「あはは……そ、そうですか? どうも」
やっぱり他人から見ても
目尻のシワとかほうれい線、肌のシミとかも一切ないもんね、ディケーって。夜寝る前の洗顔とかも必要ナッシングだし、魔女ってより美魔女ですやんかもう。
……ちなみにレジェグラの世界、と言うか私達の住む公国領では15歳から成人扱いで、結婚もOKになる。昔から四方の国から狙われて戦乱が耐えなかったお国柄のせいもあるんだろう。早めに大人になってくれた方が戦争が起きた時、徴兵しやすいもんね。
日本でも戦国時代は10代前半で結婚、出産とかしてたし……元の世界だとアラサーで未婚だった私には耳の痛い話だ。
いや、彼氏は居たのよ!? 居たけど話が合わなくなって別れただけってゆーか!!
「じゃ、エビラサンド3つ。
子供らと観光を楽しんでってくれな」
「ありがとう。そうします」
いいオジサンだ。
久しぶりの人情が身に染みる思いがする。
子供達と3人で暮らすのは勿論楽しいんだけど、たまには他の人達とも関わらないと駄目よね、やっぱり。
……なんて、ちょっとセンチメンタリズムに浸ってみたり。
さて、お目当ての物は買えたし。
オジサンから受け取った出来立てのエビサンドを抱えて、私は早速、噴水広場で待つ子供達のもとへと向かった。
「お待たせ。良い子で待てた?」
「まてた!」
「トンデモネエ。マッテタンダ」
ライアとユティは噴水の縁に腰掛けて足をブラブラさせて私を待っていた。
遠目から見ても他の子より頭1つか2つ飛び抜けて可愛い子達って分かっちゃうし、離れた途端に誘拐でもされないかと思ってたけど、どうやら杞憂だったらしい。
まあ、念のために防犯ブザーじゃないけど、魔力を込めて握り占めるとメチャクチャ大きな音が出る術式を仕込んだビー玉状の水晶を2人に渡してある。もしもの時は鳴らしなさい、ってね。
ともかく、無事に待っててくれて何よりだわ。
「はい。お待ちかねのエビサンドよ」
「えび! はじめてたべる!」
ライアはもう待ちきれない様子ね。
これがエビサンド……おおお!と、受け取った包みを天に掲げて崇め奉ってる。
「ユティもエビを食べるのは初めて?」
「ファーストタイム」
「美味しいわよ。母様もエビ好きなの」
山奥での主食はお米と野菜と木の実と果物、後は干し肉とかだったから、魚介を口にするのはこの世界に転生して初めてになる。
エビいいよね……海老天もエビフライもエビチリもエビマヨも大好きよ私は。
保存が効くなら魔女の塔に行った帰りに買って帰るのもいいわね。
凍結魔術を応用すれば冷凍庫くらい作れるでしょう、多分。
「「「いただきまーす」」」
親子3人で噴水の縁に腰掛け、エビサンドの包みを剥がして、いざ実食。
しかして、
「「「うまし!!!」」」
異口同音に感嘆の声をあげる親子3人の姿が、そこにあった。
周囲の人達が一瞬ギョッとしたように立ち止まって私達の方を見ているけれど、生憎と他人の視線を気にしている余裕はまったくなかった。
これは……メチャクチャ美味しい!
「めっちゃプリプリしてる~! ソースも絶品!」
「これが、えびとばんずとやさいのかなでる、さんじゅうそう!」
「ワルイナ、エビハキライナンダ(モシャモシャ)」
エビの旨味成分が身に詰まりまくってますやんか!
バンズもパリッと焼かれて香ばしく、程好い噛み応え! 挟まれたレタスもシャキシャキで瑞々しいッ!
ソースもベリーグーよ!!
こ、これは人を駄目にするエビサンドだわ……帰りにもう1回買って帰りましょう。
出来ればレシピとかも教えて貰いたいわね……山に帰ったらウチでも作りたい。
あと、戻れるかどうか分かんないけど、元の世界に戻れたら実家の喫茶店のメニューにも取り入れたい……。
****
「さーて。お腹は膨れたかしら?」
「おいしかった!」
「ゴッツァンデス」
エビサンドを堪能した私達親子3人。
時刻は正午をやや過ぎた頃か。
食べ終えた後のライアとユティの口の周りをハンカチで拭って、綺麗にしてあげる。
これから会う方々に失礼があるといけないからね。
「良かった、母様もお腹いっぱいよ。
美味しかったわね」
腹ごなしも終わったし、準備万端。
朝の時点で馬車を予約して、町の入り口で待つよう連絡済みだ。
今から出発すれば夕方頃には着くでしょう。
「じゃあ行きましょうかーーー魔女の塔へ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます