第4話 港町への初めてのおでかけ

「よし、誰も居ないみたい……2人とも、来ていいわよ」

「はーい」

「イエス、マム」



 ライアとユティ、2人の娘を連れての魔女の塔への行脚あんぎゃ

 その出だしは、まさかのコソコソとした隠密行動から始まった。

 3人で住んでいる山小屋から下山して魔女の塔に向かってしまうと、とても集合の期日には間に合わない。

 そこで思い出したのが昔読んだレジェグラの設定資料集に載っていた、ゲーム本編開始以前のディケーに関する裏設定の1つ、「襲撃などの万一の事態に備えて、3人で住んでいた山小屋の敷地内にある納屋の扉を、世界中に設けた"隠れセーフハウス"に繋がるようにしている」というものだ。

 某どこでもドア……みたいに万能とまでは行かないけど、頭で思い浮かべた任意の行き先に繋がるようになっているらしい。

 無論、ドアを開けられるのはディケーだけなんだけれども。

 魔女の塔から一番近い町に行きたい、と思いながら納屋の扉を開けたら、この場所に繋がったのだった。



「かーさま、ここどこ?」

「えっと、一応は魔女の塔から一番近い町……のはずなんだけど。

 ごめん、母様もちょっと分かんない」



 時刻は朝方の6時過ぎくらい。

 子供達は初めてのおでかけに胸踊らせているのか昨夜から楽しみだったようで、だいぶ早めに出立する事になったのだった。

 私が仕立ててあげた、お揃いの猫耳フードの黒いローブが余程お気に召したらしい。

 山は少し暑かったので普段は簡素な服装の子供達も、今日はお偉方の魔女様達へのお披露目ともあって、ローブの下の洋服もよそ行き風のお洒落なデザインで、昨夜は楽しそうに互いに見せ合っていて、見ているこっちも微笑ましかった。

 8割くらいはディケーの魔術頼みだったけど、あれだけ喜んでくれれば作った甲斐があるというものよね。

 ……ちなみに私は、クローゼットの中のディケーの服がどれも日曜の朝にやってる特撮モノの悪の女幹部みたいな派手なのばかりだったので、子供達の衣装に比べるとだいぶ大人しめだったりする。

 子供達の服を魔術で縫製するついでに自分の服も縫ってしまった、って流れね。

 キャラデザ担当絵師のへきが憎い。



「港にある古い倉庫……かな?」



 微かに潮の香りがする。

 なるほど、取り壊される心配もあるけど、こういう所なら関係者以外は滅多に立ち寄らないでしょう。

 こんな感じでディケーはライアとユティと出会う前から世界中を巡って、山奥の納屋の扉と各国の建造物の扉を繋げて回っていたらしい。

 元々「星空の魔女」の通り名からして、世界中で星の測量をしていたみたいだし……一度立ち寄った場所と納屋の扉をリンクさせる旅でもあったんだろうと思う。

 いざと言う時、何処にでも逃げられるように。



「マム。マップ、オープン」

「あ、そうね。地図があったんだった」



 助言をくれたユティの頭をよしよしと撫でてあげながら、私はローブの懐から地図を取り出した。

 と言っても紙の地図ではなくて、ビー玉くらいの大きさの魔水晶だ。ディケーの所持していた魔道具の1つで、魔力を込めて起動させると水晶から立体映像が浮かび上がって、現在地を教えてくれる優れ物だ。

 地区単位、街単位、大陸単位と、細かな設定変更も出来るっぽい。



「公国領、ブロケナ……って港町みたいね」



 ブロケナ……レジェグラの本編でチラッと聞いた事がある気もするけど、ゲームには町自体は出て来ていない。

 元々レジェグラは公国の首都がメインの舞台として毎話、ストーリーが進行していたしね。

 その首都からも、ブロケナはだいぶ離れているみたい。

 


「魔女の塔がある山は……町からちょっと距離があるけど、お昼に町を出て、街道沿いを馬車で行けば夕方くらいには着けるかも」



 魔女の塔が建つ山は普段は魔力を帯びた濃い霧に包まれてカムフラージュされていて、普通の人間は塔が建っている事にすら気づけない。外界からは完全に隔絶された異界になっているらしい。

 木を隠すには森の中……ならぬ、塔を隠すなら霧の中、って事かしら。よもや周辺地域の皆さんも、町の側の山で魔女が集会やってるとは思わないでしょう。



「時間はまだあるし、お昼まで観光しましょうか」

「わーい、かんこー!」

「オノボリサンメ」



 食料品の調達は帰り際にすればいいし。

 まずは魔女の塔に向かう前に、初めての町を親子で観光と洒落こもう。

 ライアとティアはディケーに拾われて養子になってからずっと山小屋暮らしだし、私もディケーに転生してから2週間近く経つけど、山から出たのは初めてだったりする。



「よーやく、レジェグラが始まったって感じね!」



 剣と魔法と、発展途上の科学の世界。

 学生時代に何十周とクリアしてやり込んだ日々を思い出すと、胸に熱いものが込み上げて来ちゃうわねえ……。



「かーさま、はやくはやく!」

「ヒアウィーゴー」

「はいはい」



 無邪気にはしゃぐライアとユティに手を引かれて。

 私はレジェグラの世界に転生後、初めての町へ繰り出した。

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