第3話 5日後、魔女の塔にて

「かーさま、ゆーびんやさん!」

「キテルゾー」

「えっ……!?」



 私がレジェグラの世界にやって来て1週間が経った頃。

 さあ今日のお昼はどうしたものかと、庭の菜園で採れた野菜を眺めていた所、ライアとユティの2人が玄関からトコトコと台所まで歩いて来て、私に言う。

 郵便屋さんが来た、と。



「ゆ、郵便屋さん?」

「うん」



 私達親子が暮らしているのは公国領に属してはいるものの、かなり辺鄙な山奥のはずなんだけど……しかも、密漁者とか野盗の類がやって来ないとも限らないので、ディケーが予め山小屋の周囲数百m四方に人避けの結界を張っている。

 踏み込んだ人間は方向感覚を失って、グルグルと同じ場所を何度も行き来する事になり、絶対に私達の山小屋には辿り着けない……そんな感じの術式が施してある。勿論、人間相手じゃなく魔物や野生動物の類にも有効らしい。

 それなのに郵便屋さん? はて?



「ディケー様、オ手紙デス」

「わ、カラス!?」

「カラスのゆーびんやさん!」



 首輪を付けたカラスがバサバサと羽ばたいて家の中に入って来た。しかも喋ってる!



「ドウゾ。オ取リクダサイ」

「あ、はい、どうも……」



 よく見ると首輪の所に小さな便箋のような紙切れが挟んであって、どうぞ取ってくれと、喋るカラスはこうべを垂れる。



「魔女ノ塔カラデス。

 次ノ集会、必ズ御出席ヲ、トノコト」

「(魔女の塔……!)」



 なるほど、ディケーが所属してる魔女の派閥の御使いなのね。

 そう言えば設定資料集にも「魔女はカラスや黒猫、コウモリなどを使い魔として使役する」って書いてあった!

 そうか、魔女が使役する動物には人や野生動物避けの結界も効かないんだ……耐性があるとか? まあ、でないと魔女の住みかを訪ねられないしね。



「(確か、レジェグラのゲーム本編だと魔女の塔って……)」



 設定としては存在してたけど、本編には一切未登場だった組織のはず。

 元々ディケーは十数年に一度の魔女の集会をサボりがちなのに加えて、ライアとユティの2人を養子兼後継者に迎えた事も魔女の塔には報告していなかった事で先輩魔女達から怒りを買い、除籍処分になった……そんな設定だった気がする。

 じゃあ、どうして除籍処分となったディケーがゲーム本編で大魔女グランドウィッチを名乗っていたのかと言うと……



「(除籍された腹いせに、自分以外の魔女を全員殺したんだった……!)」



 ディケー、やる事が過激すぎるってレベルじゃないよ!

 本来なら実力的にも実績的にも次の大魔女はディケーでほぼ決まりだったのに、サボりがちなのと報告連絡相談を怠ったせいで除籍されちゃったんだから、文句言える立場じゃないよ!?

 しかも魔女を全滅させた後に、ちゃっかり大魔女って名乗っちゃってるし! 自称で!!



「(で、でも大丈夫! 今度集会が開かれるって事はまだ間に合う、他の魔女達もまだ生きてる!)」



 万一、将来的にディケーに変わって別の悪役キャラが現れて邪神を召喚、世界を破壊しようと目論まないとも限らない。

 邪神と戦う事になった場合、魔女達の戦力があると大いに頼もしい。

 これまでの非礼を詫びつつ、ライアとユティを養子兼後継者にした事もきちんと報告すれば、ワンチャンあるのでは……!?



「……分かりました。

 必ず出席すると伝えて頂戴ね」

「確カニ仰セツカリマシタ」



 手紙を渡し終えたカラスは、ペコリと一礼して玄関から外に羽ばたいて去って行った。



「ばいばーい!」

「アバヨ」



 喋る動物を見るのは初めてだったのか、ライアとユティは子供らしく目をキラキラさせて、その後ろ姿に手を振って見送っていた。

 元気があってよろしい!

 母様はちょっとセンチメンタルだけどね……。



「(5日後、魔女の塔にて魔女ヴァルプルギスナハトあり。必ず来られたし、か……)」



 ディケーに転生したおかげか、何の苦もなくこちらの世界の文字が読めてしまう。

 しかも多分これ、"魔女ウィッチ刻印サイン"だわ。普通の人間には読めない魔女だけの暗号みたいなヤツね。

 ……レジェグラの世界に来てから娘達以外の人と会うのって初めてでは? いや、正確には人間じゃなくて魔女だけど。

 しかもゲーム本編だとストーリー開始以前にディケーに皆殺しにされて未登場の魔女の先輩方!



「(やばい……設定資料集にキャラデザ担当の人が幾つか描いてた、ラフ画くらいしか思い出せない……)」



 本編に登場しないんだから、そりゃラクガキ程度で済ませちゃうよね……。

 名前が分からないのはちょっと手痛いかも。



「(でも、確か魔女には全員通り名があったはず……)」



 「東洋の魔女」とか「水星の魔女」とか、そんな感じの!

 ちなみに私が転生してしまったディケーは「星空の魔女」だ。意外と星の測量とか座標とかを調べるのが上手かったらしく、星図を作るのが趣味だった、って設定資料集にもあったからね。

 私なんか星に全然縁がなかったからなー。

 あれがデネブ、アルタイル、ベガ~♪くらいしか分かんないや。



「2人とも、あと何日かしたら、お外にお出掛けよ」

「おそとにおでかけ?」

「魔女の塔。

 母様と同じ、魔女の方々にお会いするの。

 2人を私の娘にしました、って紹介するためにね。

 ……お出掛けしてる間、良い子に出来る?」



 2人の大事な魔女の後継者としての第一歩だ。

 レジェグラ本編だとライアは魔剣士、ユティは魔導師と、魔女にはならないけど……魔術を操る職業ジョブには違いないし、まあそこは私がおいおい調整してあげればいいはず。

 レジェグラの主人公達にさえ関わらなければいいんだし……例え魔剣士や魔導師になったとしても、人を守るための魔術の使い手になれば、この子達の未来も変わるかもしれない。

 しかして、2人の応えは。



「ライア、おでかけしたい!

 いいこにできる! ……じゃない、できます!」

「イエス。ウィーキャン」



 決まりみたいね。

 となれば早速、2人に着せるローブやら服やら縫わないと……。

 あ、あともう備蓄してあったお肉とか卵も尽きそうだし、魔女の塔に行ったついでに公国領の何処かの町で買い物とかもいいかも……ショッピング、久々にしたいわ!

 ……あ、でもお金どうしよう?

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