第2話 私の身に起こった3つの出来事
眠くなったのか、ライアもユティも時計が夜9時を回る前にはお寝むの時間になった。今は寝巻きに着替えて、仲良くベッドでグッスリだった。
「むにゃむにゃ……」
「マクラガデカスギマス……」
「(ん、2人ともよく寝てる)」
ゲーム「レジェンドオブグランディア」、通称レジェグラの世界に何故かやって来てしまったっぽい私。
朝は少々パニくってしまったけれど、生来の物怖じしない性格だったのもあってか、段々と現実を受け入れ始めている。
夢だ夢だと自分に言い聞かせてはいたけれども、これどうも夢じゃないな……マジか、マジで、マジだわ。
「(ひとまず1日目は何事もなく終われそうね……)
お昼は家庭菜園の周りに生えた雑草を3人で抜いて、井戸水で水浴びした後、せっかくだからと菜園で育てていた野菜を幾つか使って天ぷらを作ってみた。卵と小麦粉があって良かったー。
2人とも美味しい美味しいとバクバク食べてたし、作り甲斐があるってもんだわ。揚げ物好きは万国共通なのね、やっぱり。その辺は異世界も私の元の世界も、嗜好が似通ってて助かる。
私の料理のレパートリーにも限界がありますから。
「さて、今のうちに色々と整理しとかないと……」
ライアとユティが就寝したのを確認した私は、自室に戻ってベッドに倒れ込んでいた。今日はとにかく疲れた。
24時間働けますか?と問われて素直に働いてしまった気分だわ……。
「さーて。今回、私の身に起こった3つの出来事」
1つ、シミュレーションRPG「レジェグラ」の世界に転生。
2つ、転生したのは主人公達と敵対する邪教団の教祖、大魔女ディケー。
3つ、ディケーの養女達、ライアとユティと共に山奥の小屋で生活中。
大まかに分類すると、この3つの出来事が重要だと思う。
「まず、どうして私なのか?って事よね……」
ゲーム開発スタッフとかキャラデザ担当の絵師の人とかシナリオライターの人とか関係者の人達が、自分達の作ったゲームの内容に納得が行かないまま不慮の事故で死んじゃって、何らかの奇跡が起きてゲームの世界に転生……とかならまあ、無くはないかな?とは思う。
「でも転生したのは、レジェグラのプレイヤーの1人に過ぎない私だった……どうして?」
そりゃ確かに学生時代は寝食を忘れて何十周もクリアする程やり込んだし、リアル店舗でコラボグッズが発売されれば朝から並んでアクスタとか缶バッジも買ってたし、同人イベントとかも行ってたけど……そういう人、別に私じゃなくても日本中にいっぱい居たよね、っていう……。
「たまたま私が選ばれたって事?
うーん、基準が分かんないなあ……」
まあ、もう選ばれてしまったからには仕方ない。幸い、学生時代に読み込んだ設定資料集のおかげでレジェグラの世界観とか各国の勢力図とかキャラクター相関は理解している。
基本的には剣と魔法の世界。
けど公国と帝国の大戦終結後、少しずつ科学文明も興り始めた、日本で言う所の明治時代や大正時代のような、少しノスタルジックな世界観も有するのがレジェグラだ。
確か戦勝国の公国は敗戦国の帝国から多額の賠償金を得て、文明開化に拍車がかかってる頃なんじゃないかしら。
ゲーム本編開始時点で路面電車とかバスとかフツーにあったもんね。ガス灯とか電話とかもチラホラと。
「そのうち町にも連れてってあげたいなあ……」
今は山奥に引き籠っているけど、さすがにずっと山暮らしじゃライアとユティの教育によくないし、折を見て町に連れて行ってあげるのもいいかもしれない。
ベッドの中で寄り添って眠る子供達を見ていて、自然と笑みがこぼれてしまったのを思い出す。
あー、従姉妹の子供達がお正月に泊まりがけでウチに遊びに来た時もこんな感じだったわね……。
「で、次は……どうして転生先がディケーなのか?よね……」
なっちゃおう小説とかだと主人公やヒロインに転生して、チートとか現代知識を駆使して無双、本編とは別ルートに進んで美少女や美男子を侍らせてハーレム結成エンド!とかがセオリーだけど……悪役に転生ってレアパターンなんじゃ?
……いや、最近はそうでもないのかしら?
ここのところは閲覧する機会が無くて気に止めてなかったけど、悪役令嬢モノとか一時期流行ってた気もするし……。
他に転生経験のある人が居たら意見を求めたい所だけと、今はそうはいかんざき!って感じね……。
「
顔をペタペタ触ってみたり、とがった耳に触れてみたり、少し重めの小玉スイカのようなバストをサイドからムニムニと揉んでみたり。
朝食の後、鏡で姿を確認してみたけれど、今の私は確かにディケーに憑依してしまっているようだった。
ライアやユティに比べると人気は一歩劣る風潮はあったけど、ことごとく計画を邪魔する主人公達への憎悪とは裏腹に、娘2人への愛情は本物で、一部のプレイヤーからは「ママぁ……」と敵ながら人気キャラだったのよね……。声優さんの演技もなんか艶っぽくてエロかったし。
勿論、私も大魔女一家は箱推しだったからディケーのグッズもそれなりに持ってたクチだったりする。
海外限定の描き下ろしアクスタとかわざわざ海の向こうまで飛行機に乗って買いに行ったわ、懐かしい……。
「まだ試してないけど、大魔女なら今の私って相当強いんじゃ……?」
ゲーム本編ではディケーはラスボスの邪神戦の前座扱いだったけど、とにかく強くてラスボスと戦う前に心折れちゃうプレイヤーが続出したのよね……。
全体攻撃魔術、バッドステータス付与、耐性アクセサリが無いと一撃死の呪い、他にも他にも……うーん、激戦が甦るわ……。
「近いうちに試した方がいいかも……制御出来なくてライア達を怪我させたりとかは絶対に出来ないし……」
昼間、菜園の草むしりが終わった後でライアに軽く魔術を教えた時も、物を浮かせたりする程度の簡単な物に留めておいた。
攻撃系の魔術を教えるのはまだ早いように思えたから……と言うか、出来る事なら魔術とは違う道に進んでほしいし……でないと、いずれ……。
「ライア達は今5歳……残された時間は13年」
13年後、18歳になった時にはレジェグラのゲーム本編のストーリーが始まってしまう。
大魔女の娘として育てられた2人、ライアは魔剣士、ユティは魔導師として、義母ディケーの願いを叶えようと、主人公達の前に幾度となく立ち塞がる悪役として。
加えて、ラスボスの邪神の召喚はディケー自身の魂と、ディケーと戦う前に主人公達が倒したライアとユティの魂も贄として使われてしまう。
邪神が倒されてもディケー達3人が復活する事もなく、レジェグラはエンディングを迎える……そういう流れだ(その後、主人公が懇意にしていた好感度の一番高いキャラとの個別エンドが始まる)。
「ディケー、ライア、ユティを何とかしてプレイアブルキャラに!って、ファンのネット署名活動とかあったなー……」
せめて有料のDLCでもいいからディケー達を仲間キャラとして迎え、破滅から救済する方法はないのかとレジェグラのプレイヤー達が声を上げていた、まさにそんな時。
レジェグラの全シナリオを統括するメインシナリオライター、井ノ
『こまけぇコトはいいんだよ!』
と。
メインの脚本書いた人がそれ言っちゃ駄目でしょって事で、当然の如くSNSが荒れに荒れたわね、あの時は……。
「んー、考えても仕方ない事が多すぎィ!」
寝るかな、私も。
なっちゃおう小説の主人公達みたいに現代知識を駆使したり先の展開を知ってる優位性を利用して無双とかハーレムとかスローライフとか、そういうのは私はぶっちゃけ興味が無い。
ただ、ライアとユティが破滅してしまうルートだけは絶対に回避したい。それだけだ。
現実の世界の私って今どうなってるのかなー、やっぱ死んじゃったのかな?
とか、そういう不安とかもない訳じゃないけど……。
「私がディケーとして喚ばれた意味が、必ずあるはずだから」
だから、今は。
まだ旅の途中。
本当の自分自身に出会うための、ね。
……どうせなら道中、楽しみましょ?
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