大学生。橙。時雨。

エリー.ファー

大学生。橙。時雨。

 映画館で眠っていた。

 そう、記憶している。

 私は、私を見失いながら自分の中にある意識を確かめた。

 記憶を失ったわけではない。

 波間に、私がいる。

 もうすぐ、この場所から追い出されてしまうのではないか、と不安になる。

 しかし。

 ここは、どこなのだろう。

 間違いなく、映画館ではない。

 しかし、だとするならば、どこだと言うのか。

 山の上、ではない。

 風の中、でもない。

 月、でもない。

 扇風機の中、でもない。

 家、ではない。

 ドラム缶の中、でもない。

 楽し気な音楽が外から聞こえて来た。

 私を外に呼ぶ声、と言えるかもしれない。

 しかし、出たいと思えない。

 悲しいかな、私は私を捨て去ってしまいそうになった。

 私は不安なのだ。

 このまま、私が私のままでいることに呪いのようなものを感じているのだ。

 鏡を覗いている内に、自分がどこにいるのかが分からなくなるような、君の悪さ。

 居心地などよくない。

 けれど。

 移動もできない。

 光の中で、私を確かめる術がないのだ。

 私は、この場所で時間を潰す以外の選択肢を持っていない。

 おそらく、私だけではないだろう。

 多くの人が、同じような生き方をしている。

 成功した者。

 失敗した者。

 全員に共通した孤独。

 もしも、私たちが、私たちから解放されるタイミングがあるとするならば、それは、私たちの死、なのだろう。

 岩の影から私たちを付け狙う、死神たちの笑い声の果てなのだろう。

 うるさいくらいの声が、外から聞こえてくる。

 つい、私が叫んでいるのではないか、と疑ってしまうが、直ぐに思いなおす。

 私には、喉などないのだ。

 もう、何も残っていない。

 もしかしたら、そう。

 意識だけが閉じ込められているのかもしれない。

 一生をかけて、思考し。

 一生をかけた、思想を組み。

 一生をかけてもなお。

 私は。

 誰かの思い出としてしか生きていけない。

 私の人生の主人公の椅子に、私は座っていないのである。

 神様がやって来て、私と私以外を作り出す。

 その内、誰かが閉じ込められる。

 そう、それが私だったのだ。

 青い地球に生まれたからには、誰もあ想像するような生き方など、もうできやしない。

 私は、またも塞ぎ込んだ。

 心は真っ黒であった。

 ギターの音色が外から聞こえてくる。

 でも。

 出る勇気が湧かない。

 何度も何度も、私にできることを数えた。

 無限にあった。

 そして、それを順番に試している。

 そう、正攻法なのだ。

 けれど、その繰り返しの果てに、私がいると思えない。

 私は、この中で一生を終えるのかもしれない。

 料理を食べ、風呂に入り、布団に入り、また、目覚める。

 暗闇の中で、何も分からないままキャリアだけが積み上がっていく恐怖感。

 私は、今、何になろうとしているのだろうか。

 誰かに聞こうとした。

 しかし。

 この空間には、私しかいないのだ。

 誰かに助けてもらおうとした。

 しかし。

 私は誰かを助けていた。

 誰かのために生きる気はないのに、私は感謝されていた。

 一体、私は何をしているのだろうか。

 この夜景に包まれて、距離感もつかめないような五体不満足の人生で。

 どれだけの絶望を抱えさせられるのか。

 天命か。

 宿命か。

 運命か。

 いや、違う。

 私は、ただ、今を生きるのに必死なのだ。

 夜が明けるのか。

 もうすぐ、明けるのか。

 いや。明けないのか。

 そうか、明けなくてもいいのか。

 そして。

 外に出た。

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