第6話「抑圧」
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それは、彼との距離感に由来する。
柿川は、小学校時代の児童会長、そして中学校時代の生徒会長をしていた男である。白稲葉は中学時代、他に候補者がいないという明らかに教職員側の理由で、無理矢理副会長に立候補させられた過去がある。望んで人前に立とうとする人間ではなかった。ただ、成績が一定以上あり、人前で話すことに抵抗がなく、ある程度の責任能力を有しているということで、見事に当時の白稲葉は符合してしまったのである。いや、他に候補者がいなかったというせいもある。
芍薬との会合でも言われていた通り、白稲葉の中学校は、彼が副会長を任ぜられていた2年生の頃、市内でも有名なくらい、荒れていた。
正直、書記や会計は間に合わせの人間であった。ただ、学校の顔として、会長と副会長だけは、ある程度「ちゃんと」した人間であるべきだという、学校側の考えもあったのだろうと、白稲葉は推測する。
そんな中、柿川は一人、生徒会長に立候補した。
彼を一言で表現するのなら。
実直で、根っからの真面目、である。
嘘を吐かないという点では、井津々井とは真逆の存在である。
奏譚社からは、それぞれ対極の存在をして、例えば上下巻に分けるなどして章分けし、趣きを
対極的な人間はいても、完全に対極となると、そう上手くは合致しない。
人間誰しも人とは違った考えを持っていて、それは誰かと比較したり、誰かと優劣をつけたりするべきではない、というのが、白稲葉の持論である。
そんな彼だからこそ、「人付き合いは得意ではない」ことを自称しながらも、長く続く友人が多く存在しているのだろう。
冒頭に話が戻るけれど、柿川との友人関係は、ここまで相対してきた者達とは少々異なる。
芍薬咲矢のように成人式で再会するということもなく――というか柿川は、成人式に来なかったのである。
基本的に田舎なので成人式と二次会の幹事などは、生徒会長とその有志が主になって開かれた――というか、開かれるはずだったのである。
ただ、柿川と取った連絡の末に、一言「行けない」という連絡が来たのみであった。
それ以上もそれ以下でもない。
成人式に強制力はない。
故に、「行けない」と言われればそうと捉えるしかない。
まあその所為で、副会長であった白稲葉にまで声が掛かることになった――その機会のお蔭で、結果的に今、多くの人々と旧交を温めること(広義)ができたのだから、白稲葉からすれば、良かったのかもしれない。
実際世の中もそういうもので、その時その場では面倒なことでも、実際にやって、やり終えて、数年経った後で振り返ってみると、不思議と「やって良かった」となることが多いのである。
目先のことばかりに囚われて手近なものばかりを手に取っていると、後々自分の周りには何もなくなっている。
これだからこう――という簡単な仕組にはなっていないのである。
だから、という接続詞がここで有効かは分からないけれど、柿川とはてっきり連絡が付かないと思っていた。
成人式にも来ないとなると、何かあったのではないか――その「何か」を、不謹慎ながら、知りたいと思ったのである。
恐る恐る――とは
するとその日の夕刻に、連絡が帰ってきた。
快諾であった。
てっきり断られると思っていたので、吃驚した。
そして指定された時間きっちりに、柿川はやってきた。
(続)
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