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 *


「そう聞くと、まるでその方とは今生こんじょうの別れとなった――みたいな言い草ですね。『彼は思い出の中でも生き続けている』とでも続くようです」


 地引依鳥女史は、自身の見解を述べた。


 奏譚社第二文芸出版部所属――白稲葉苗代の担当編集である彼女にとって、取材はあまねく作品のためのものでしかない。


 だからこそ、感情移入せずにいられる。


「そんなことはないさ。時折電話でやり取りをする仲だ。最近はLINE電話という機能があるからね。物語としては味気ないが、人生としては、そちらの方が色彩豊かだろう」


「そうですね」


 あっさりと、地引は言った。


 特に何の感傷も抱いていない、という風である。


 あるいはそれが「大人になる」ということなのかもしれない、と、白稲葉は思った。


 ならば自分も、そして恐らく押流も、大人になりそこなった者達なのかもしれない。


 子どものまま、いつまでも感傷に浸り続け、忘れられない。


 今ではアダルトチルドレンなんて言葉もあり、何にでも病名が付く時代だけれど、それでも。


 押流との縁は、切らずにいたいと、白稲葉は思った。


 *


 その後。


 押流波浪は定職に就くことなく、バイトに入ったり辞めたりしながら、じんわりと、その寿命を消費してゆく。


 先に待ち受けるであろう介護や、自身のこの安住した生活が、ずっと続くとは思わない。


 それでも。


 先が暗くとも、足許あしもとがおぼつかなくとも。


 生きてさえいれば良い。


 そんな押流波浪の人生をわらう者は、誰もいなかったという。


 彼がいつか、己が生涯に、希望を見出せるかどうか。


 それは、関係のない話である。




(第3話「暗路」――了)

(続)

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