鬼畜な応用編

「あっつ~い」

「ホント、入りすぎたな」


2人とも顔真っ赤。

こーきは洗面所に置いてあるTシャツとハーパンをさっと着て、冷蔵庫にお水を取りに行った。


「あ…あの

 私も何か着る物を…」


笑いながら戻ってきたこーきの手にはボトルの水。

それを置いて寝室に消え、戻ってきたら茶色のTシャツを被せられた。


「先にアイロンしとこ」


初級編の日とは空気が違う。

あの日はお風呂上がったらなんだかもうピンクな空気だったんだもん。

今日はお風呂でも普通にお喋りして、こーきはずっとおっぱい触ってたけど、それはピンクな触り方じゃなかった。

おっぱいで遊んでる感じで。


こーきはクローゼットからアイロンを出してきて、セーラーのブラウスをアイロン台に綺麗に伸ばしながら広げた。


それを待つ間、私はピアノを弾いた。


今度のコンクールで弾く曲。

今日はまだピアノを弾いてなかったから丁度よかった。

もう夜だから音は小さくして鍵盤に指を滑らせる。


悪いクセで、ピアノを弾き始めると、回りが見えなくなってしまう。



ハッと気づいたのは背後でガタッと音がしたから。



「あ、ごめん」

ペットボトルを拾うこーき。

アイロンはもうそこになく、片付けられていた。


「ごめんなさい

 つい集中しちゃった…」

「いい眺めだった」

「ずっと見てた?」



「スズがピアノ弾いてるの、好きだから」



おっぱいで遊んでたのと別人な大人の微笑み。



「今日はもうお終いにする」

「もういいのか?」

「満足~」

ピアノの蓋を閉じ、椅子をピアノの下に入れ込むと、こーきはペットボトルをパソコンの横に置いてなにやらパソコンを触り始めた。

仕事か、そう思って私は鞄から宿題を取り出した。

丁寧に書かないとやり直しだから、ゆっくり丁寧に漢字を書く。

高校三年生になって、まさか漢字の書き取りをすると

思わなかった。



「それ1ページやるの?」

いつの間にかこーきが覗いてた。

「国語の先生、字にうるさいの」

「あぁ、いるいるそういう先生」

床に寝そべり、一緒に国語の教科書を見る。

「すぐ終わる?」

「うん、1ページだからすぐ終わる」

パタンと教科書とノートが閉じられ、シャーペンが指から抜き取られた。


「じゃあそれ帰ってからして」

「え、うんいいけど」


「しよう?」


「え、なにを?」



こーきは起き上がり、寝そべったままの私のTシャツを一気に捲って


「はい、バンザイして」


起き上がると、茶色のTシャツはポイッと脱がされてしまった。


「今日はお風呂だけかと思った」

「嫌?」

「嫌じゃないよ」


座ったまま向かい合ってキスをする。

挨拶みたいに、始めますよって合図みたいに。


何度かキスをすると、こーきは私の背中に両手を回して抱き寄せた。

それと同時に、キスは大人編へ突入する。


「あ」


急停止


何かなって思ったら



「すぅこちゃん先に脱いでおこうね」



抱きしめた腕は離されて、スヌーピーが下げられる。



「着替え持ってないだろ」



シュルンと足から抜かれると、またキスが始まり、さっきお風呂で遊んでたのとは違う、ピンクな触り方に

私は思わず息を漏らしてしまった。


「気持ちよかった?」

「わかんないけど…ぞくぞくってなった…」

「合格、じゃあ次」


肌を撫でながら、手は下りていく。



「ん…!」


「よかった、先に脱がせて」



「こ…ーき…」

「ん?どんな感じ?」


わかんない

嫌じゃない

痛くない

もっとしてほしいような

止めてほしいような


「スズ、抵抗しないでいいから

 感じるままって言ったろ?」

「だってなんか…」

「力抜いて」

「やだ…なんか変…!」


ピタッと手が止まった。


息が切れる

苦しい


「ごめん、大丈夫?」

「ん…大…丈夫」

「今日は止めるか」


「やだ…大丈夫だからもうちょっとして?」ウルウル


「出た…言葉攻め…」



こーきはTシャツを脱いだ。


「じゃあもうやめないからな」

「そう言われると怖い」

「痛いときは言って」


またキスから始まった。


こーきの肌にくっつく感触が気持ちいい。

こーきの手が肌を撫でるのが気持ちいい。


キスが気持ちいい。


そうしてたらどういうわけか、もう一度触って欲しくなる。

変な感覚が怖くて拒否したのに。


「こーき…」

「ん?」


「触って…?」


フフって笑うとこーきは耳元で囁いた。


「どこ?」


どこって…


「じゃあスズも触って」



「こーきも触って欲しいって思うの?」



「スズが気持ちいいとこは俺も気持ちいいよ」



「うん」




これはやっぱりドキドキする。


見るだけでドキドキ。




ツンツン



「そんな見る?」

「なんか不思議…」

「目でいかされそう…」

「どこに?」



ツンツン



「わ、なんか今動いた」

「や、焦らし方…」



ヨシヨシ



「絶対動いたよね今の!

 こーきが動かしてるの?!」

「誰か殺してくれ…」



「なんか可愛く見えてきた」



初級編で習ったように優しくゆっくり



「ねぇこーき」

「もういい?交代しよう?」




「女の子もキスしていいの?」




「は?!」




「え、だってこーきはキスするじゃん」



「えー…っとですね…」

「ダメなの?普通はしないの?」


「ダメではないけど…」


「じゃあいいの?」


「いい…と言えばいいような

 でもなんか二度目でさせるって俺は鬼畜かって

 凹むというかなんというか」



チュッ



「はぅぁ…!」


「え、ごめん痛い?」

「い…痛くない…です…」

「ビックリした」


チュッとキスすると、それは手の平の中で動く。


「わ!さっきより硬いかも!

 すごいね、どおなってんの」

「なんかつるつるで可愛い~」

「あ、ぬるぬるする~」

チュッチュッ

「ん?ちょっと苦いかも」


あれ?こーき?


チラッと顔を見たら真っ赤だった。


「ご…ごめん!ダメだった?!」


調子に乗っちゃった

普通しないのかも

変な子じゃん私


どーしよーー!



「や…大丈夫」

「ごめんなさい…」


「スズ、そのまましてて」

「嫌じゃない?」

「嫌じゃないけど俺だけ気持ちいいのは嫌」

「気持ちいいの?こう?」

「う…!ちょっ待っ…」

「ごめん!痛かった?!」

「スズこっちに足向けて」

「え…ちょっと待って!」

「足閉じない

 開かないとキスできない」



これも応用編なの?


恥ずかしい!!



↑やっぱ鬼畜やわ





「スズ?大丈夫?」


「な…んか…変」



「チャーーンス」



え…やだ待って…!



「力入れないで

 感じるまま感じればいいから」



何がチャンスなのかわからないけど、こーきは手を止めてくれず、なんだか怖いあの感覚に私は負けてしまった。


身体中から力が抜け切った感じなのに

息が上がる。


こーきはよしよしって撫でながらなんだかすごく満足そう。


「気持ちよくなかった?」

「わかんない…」

「何度かしたら気持ちよくなる」


「でもなんか…くせになりそうな…疲労感」


「今日はここまででな

 もう帰んないと、20時半」


あ、そっか。時間。

でもこれはゴールまでしてないよね?

封印の箱開けてないし、あの異物感までしてない。


時間ないから途中だけど終わりってことか。



「こーき…」

「ん?」



「満足だった?」



「もち、大満足」




よかった。




脱力感がひどくて、こーきが制服を着せてくれた。

「我ながらアイロン上手いな」

「襟の下通すの」

「あそっか」

スカーフを整える。

「お腹も気持ちいい」

「やだ!お腹揉まないで!」

スカートのフックも留めてくれて


「もう帰るのか」


髪を撫でて名残惜しくキスをする。


「東京行ったらもっと一緒にいれる?」

「そうだな」



「一緒に寝れる?」



「一緒に寝て一緒に起きて、毎日キスできる」



好きで

大好きで

少しも離れたくなくて


目を閉じると涙が伝った。



涙の痕にキスを落とすこーきが

私を腕の中に閉じ込めた。






.


「こーき、馬由が浜寄っていい?」



「でも雨降ってるぞ」



こーきの匂いがするまま家に帰るのは


なんでだろう


胸が痛いの。




悪いことをしているような気分なの。





こーきの家でお風呂に入ったのに、私は家に帰ってすぐにお風呂に入った。


こーきの余韻を洗い流さないと




お母さんの顔が見れなかった。

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