風のイタズラ
大丈夫だ
スズはきっと意味わかってない
夕日の砂浜
二人きり
スズの腕の中
もやもやと不安だった気持ちが大爆発
そんな相乗効果で
ついついあんなこと言ってしまった。
でもスズ
俺の誕生日知ってたんだ。
「朝霧、参加でいいだろ?書いとくぞ」
「はい」
組合の役員をしている花田さんが申込書に書き込む。
「マリアちゃんって名前なんだっけ?
青井本部長の娘だから青井だろ?」
「スズちゃん」
部長が部長席からぼそっと答えると
「アオイスズっと
んー、家族でいっか」
え?なに?
「花田くん、うちは頼子」
「はい」
「花田さん俺も!」
「は?なんだよ野良猫でも拾ってくんのか?
組合費から出さねえぞキャットフードは」
「里子、美里、治明、明久」
「はぁ?」
「家族が観光がてら来るの忘れてたんすよ!」
椅子のキャスターで滑ってそのまま花田さんの腰にしがみついた下田は
「そこまで弁当出せるか!」
花田さんに突き飛ばされ
シューーー
「どうも」
俺のとこにやって来た。
あぁ、あれか
組合の運動会
毎年五月の連休には組合のイベントがある。
各支社ごとにその企画は違うらしく、去年うちはサッカー大会だったけど、本社はハイキングだったとか。
結婚してる人は家族も来るし、婚約者を連れてくる人もいたり孫が来る人もいて色々だ。
「え、スズも?」
「だってもうほら、みんな知ってるし
可愛いわんこがいたら華やぐだろ、うちのテント」
「スズちゃんが玉入れしたら可愛いだろうな…」
「体操服着せてこいよ、ブルマー」
「ブルマーってなんすか
ドランゴンボールの?」
「え!知らねえの?!」
「君たちブルマー知らないのか!
いやぁ、時代だな。
花田くんたちまでか?ブルマー知ってるのは」
「あれは男子のロマンです」
「わかる」
部長と花田さんが遠く一点を見つめ思い出にふける。
「尻のとこ、こう引っ張って直す仕草がさ」
「わかるよ花田くん
好きな子は直視できなかったもんだ」
「誰だハーパンなんか取り入れやがったのは!」
あんなもんほぼパンツじゃねえか。
長袖長ズボンで来させないと。
「ただーい」
「あ、お帰り静香ちゃん」
「静香ちゃんはお一人様参加でいい?」
「あぁ運動会ですか?いいです。
スズちゃんも来るんでしょ?」
なんで当たり前に来る体になってんだ。
「朝霧が呼ばないなら私が呼ぼうと思ってたから。
せっかく連休なのに
デート出来ないなんて可哀想だしね」
もういいや
「俺出てきまーす
静香、鍵ちょうだい」
「あ、小本社長が見積もりデータで欲しいって
午前中電話あったけど」
「はぁ?早よ言え」
SD家のパソコンに入れてんじゃん。
「YSS行く前に寄ってよ」
「んじゃ帰ってSD取ってくる
自分の車で行くから鍵いい、返しとけ」
「え、もう面倒
出るついでに返しといて」
お前の人使いな。
駅横の自宅はオフィス街から歩いてすぐ。
こうやって忘れ物しても便利。
なんなら家に帰って仮眠だって可能た。
まぁそれは余計に疲れるからしないけど。
マンションのオートロックを通り抜け、運良く1階にいたエレベーターに乗って18階へ。
「ん?」
玄関の鍵が開いていた。
閉め忘れた?
ドアを開けると、フワッと風が流れ出て
俺のクロックスの横に、ワンストラップの黒い革靴が揃えられていた。
「スズ?」
来てんの?学校は?
中に入ると、教科書と参考書に埋もれてスズが寝ていた。
開かれた手帳には
『実力テスト→』
あぁ、テストで早く学校終わったのか。
うつ伏せでシロクマの抱き枕を枕に。
潰された右の頬のせいで唇が3になってる。
可愛い
ついその唇をツンと指先で押すと、開いた窓からふわーっと風が流れ込んだ。
教科書がパラパラとページをめくり、枕元にあった本もパラパラと開いた。
お菓子のレシピ本に付箋が貼ってある。
『こーき好きそう』
『難しそう』
『誕生日っぽい』
今買ってきたのか、駅の本屋のビニール袋が風に押され床を滑った。
誕生日、作ってくれるんだ。
あ、寒くないか?
寝てるし、こんだけ風あったらな。
タオルケット?毛布のほうがいい?
寝室に掛ける物を取りに行こうと立ち上がると
一層強い風が
部屋の中の空気を丸ごと入れ替えるみたいに
うわっと入り込んできた。
ブラインドがカタカタと音を出す。
窓閉めるか
足元に寝転がったスズが
「ん…んー…」
コロンと窓の方向きに寝返り
第二波の風が
「!?」
スズの制服のスカートをめくった。
生足と
禁断のあれが
スヌーピー
「……」
ギャーーーー!!
思わず目を塞いだ。
「ちょ…」
手を伸ばし、スカートの裾をちびっと摘まんで引っ張って
エイッ!
それを隠した。
ドキドキと暴れ狂う心臓。
本当に見ない方がいい物もある。
あのクッキーに描かれた目を塞いだ猿が、瞼の裏でキャッキャと飛び跳ねた。
退散!
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