英介の英は英雄の英です


「どうぞ、ごゆっくりね」


「「「ありがとうございま~す」」」



またも、絵に描いたようにケーキとお紅茶を置いて、タケルくんのお母様は部屋を出て行った。


これはあのプライベートビーチの次の次の日の放課後。


「なんでいつもケーキあるの?」

「友達くるからってラインしといたから」

タケルくんちはステキすぎる。

「んで?グラタン美味かったのか?」

英介のケーキはクリームの乗ってないチーズタルトになっていた。


「美味しかった!ミートグラタンだった!

 しかも手作りのパンだよ!」

「いいな~今度私も行きたい」

「いいよ!」

「スズになんの権利があるんだ」


「最近デート出来てるじゃん

 前は家ばっかりだったのに」

「そうなんだよね家で遊んでない」

杏奈はショートケーキの苺にフォークを刺す。

パソコンから流れるのは髭男で、英介が時々口ずさんだ。


「で?相談って何よ」

「俺らもってことは

 男の意見がいるってことだよね?」

「俺は答えないけど」




『スズが欲しい』




どういう意味?





「あのね、こーき誕生日なんだけどさ」

「そうなんだ」

「うん、私もこの前こーきの同期の人に聞いて

 初めて知ったんだけどさ」

「遅くね?」

「あぁ、もしかしてプレゼントとか?」

「なんでタケルくんわかるの?」


「あぁね、大問題」

「スズちゃんの小遣いでプレゼント無理じゃね?

 あんな金持ってる人に」

「マリアってバイト出来んの?」

「出来るわけないじゃん」

「ケーキでも作れば?」

「あぁいいじゃん」

「それしかないよ、むしろ」

「渾身の二段ケーキとか」

「朝霧さん甘いの好きだしね」

「ハンバーグ作ってケーキ食え」

「蝋燭立ててフーってやれば?」

「それだけで喜びそう」



「違うのあのね…!」



会話が止み、三人が私に注目する。




「何が欲しいか聞いたらね」



「あ、欲しいものあったんだ」

「こんな女子高生にリクエストするか普通」

「スズちゃんでも買える物ってことだろ」





「スズが欲しいって言ったの」





「「「は……?」」」




「や、でもほらもう私なんてこーきの物じゃんね

 そんな敢えて言わなくてもさ。

 だから結局何が欲しいか、私が欲しいって事はさ」



「何だと思ってんのこの子…」

「絶対わかってない…」

「俺ママさんと遊んでこよう…」




「永遠の約束的なやつだよね?

 ずっと好きだよって

 結婚してお年寄りになって死ぬまで

 ずっとずっとこーきが好きだよって

 手紙でも書いたらいいかな?」




「俺…初めてスズに殺意抱いた」

「やってしまえ」

「タケルんち庭広いからよかったね」

「埋めよう

 ちょっとシャベル買ってくる」



「だからさ~他になにかある?

 そんな感じの感動的なプレゼントって

 どうしたらいいかな~」



なにこの沈黙。

相談できるのここしかないのに。


「や、あれだよ

 ご馳走はね、さすがに私じゃ無理だから

 お母さんにお願いしてうちでパーティーして…」

って言いかけたとこ、英介が私の口を苺で塞いだ。


「ふがっ…!」


「俺が通訳してやる」

「ふーあう?」モグモグ



「いっぺんしか言わねえからよーーく聞けよ」



なに怒ってんの?



「なんか余計なこと言おうとしてない?」

「英介、あとで死にたくなるからほどほどにな」




「もういい加減我慢できないから

 誕生日プレゼントはお前を抱かせろ」




「……」




は?




「抱くってわかる?セックス」




「杏奈、苺吐かせろよ詰まるぞ」

「汁垂れてるね」

「うわ!絨毯汚さないでスズちゃん!」




「朝霧の本音じゃん

 もう限界なんだろ、我慢すんの。

 だから家デートしねえんだよ。

 二人きりで家にいたら約束破ってやっちゃうから。

 お前わかる?あいつがどんだけ我慢してんのか

 お前なんか流れに乗せれば簡単にやれそうだけど

 無理矢理やんないとこだけはすげえと思う」


「それは俺も同感」



「好きだから会いたいだろ?」

「うん…」

「好きだから手を繋ぎたいし

 抱きしめたいしキスしたい、わかる?」

「うん…」



「それと一緒だ。

 我慢できるか?手繋ぐの」



「出来ない…」

「抱きしめて欲しいなって思わない?」

「思う…」

「それを我慢してるのと同じだ。

 好きでたまらないやつがすぐ隣にいるのに」



「スズ、まだ怖い?」



怖い?



先に進むのは



「わかんない…」

「何が怖いんだ」


「英介、それは男にはわかんないでしょ」

「わかんねえけど変だろ」

「何がよ」




「こんだけ大事に思われて何が怖いんだ」




「お前どっちの味方してんの」プププ

「うっせえ!」



「スズちゃん

 怖いのは朝霧さんも同じじゃないかな」

「こんだけ大事にしてたら怖いと思うぞ

 お前だけじゃない」



自分の気持ちだけだった。

こーきがどう思ってるかなんて考えなかった。


ホントにそうだよ。

何が怖い事がある?

だってこーきだよ?

こんなに私のことを好きでいてくれるこーきだよ。



「ありがと、みんな」



うん、大丈夫




「緊張するけど…私勇気出してみる」




こーきがいいもん


私は全部


こーきのものだもん


こーきが欲しいものはあげたい



「英介ありがとう!

 私こーきのプレゼントになるね!」




「誰か俺を殺してくれ…」

「英介、その勇姿を末裔まで伝えてやるから」

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