子犬こーき
こーきが買ってくれたあのハンバーグ屋さんのケチャップと、粒マスタードを混ぜてウインナーにつけると
「うまーー…」
絶品!
「これが580円もするのね」
「でも美味しいでしょ?」
「お母さんもケチャップ作ってみようかしら」
「美味いかもしれんが買いすぎだろ
なんで5つも買うんだ。
なんでもかんでも買ってやって…」プンプン
そう言いながらお父さんも、それをウインナーにつけて食べる。
今日はこーきに会える。
こんなに連続で会えるなんて嬉しい。
4月の前半は休みがなかったから休みがたまってるらしい。
5月までに取らないといけない休みがあるって言ってた。
「お母さん、今日は夕飯いらないからね」
「はいはい、もう何回も聞きました」
「うちで食べたらいいじゃないか」
「うちで食べたら
お父さんばっかりこーきと喋るじゃん!」
ということで、こーきに会えるから月曜日でもウキウキ!
「え、じゃあ浅野さんは絶叫好きなんだ」
「めちゃ楽しみにしてるよ」
渡さんも含めランチの時間。
私と杏奈と渡さんは、お昼ご飯と供に城島後楽園遊園地のサイトを開いていた。
「あ、そうだ杏奈
杏奈とタケルくんの入場料は
こーきが出してくれるって
だからお小遣いだけもってこいってよ」
「え、マジで!」
「なんかね、四月は海外出張だったから
テアテいっぱいもらえるんだって
それに私のこと面倒見てくれたからお礼だって」
「イエーイ、タケルにラインしとこ」
「こーきもタケルくんにラインしとくって言ってた」
「なんかいいな~」
前後の机をくっつけた席を囲んで、正面に座る渡さんがそう言ってすごく微笑んだ。
「仲良くなったらうちもそういうの言ってみたい」
大人っぽいってイメージしかなかったけど、なんか可愛い。
「彼氏が友達とも仲良くなるっていいよね」
「うん!わかるよ!
私もこーきがタケルくんと仲良くなって嬉しいもん」
「杏奈ちゃんの彼氏とも仲良くなってくれたらいいな」
「あ、ねぇ二台で行くの?」
「なんかね、こーきの家の車借りようかって
そしたら全員乗れるんだって」
「どうせならみんな一緒がいいよね」
「だよね!」
三人の意見一致。
「お昼はどうする?
食べるところはあるみたいだけど」
「荷物になるしレストランでいいよね」
「うん、それでいい」
「だよね、よかった」
意見一致。
「渡さんさ」
杏奈がなんだか改めてかしこまる。
「いいよ、気を遣わなくて
こうしたいああしたいって言ってくれて
そんで意義があったら遠慮なく言うし」
「あ、ごめんバレてた?」
「気にしないで?
私のことも呼び捨てでいいし」
「え…いいの?」
「もち」
「じゃあ私も名字じゃなくていいや」
「んじゃ藍子にするね」
「じゃあ私も杏奈って呼ぶね」
照れくさそうに笑う二人。
なんか乗り遅れた。
「うちだけ彼氏が社会人じゃないな~」
「そこ気にするとこ?
スズちゃんの彼氏が仲良くしてるって事は
高校生にしては大人っぽいって感じじゃないの?」
「そうだよ!こーき言ってたよ!
タケルは高校生ぶった26才だって」
「それどういう意味」
三人で計画を立て、四月末の連休は出張が入っている浅野さんと、連休は会社の行事や接待ゴルフがあるこーきの都合を主に考え
『5月10日土曜日に決まりました!』送信
それぞれ彼氏にラインを送った。
.
「うん、大丈夫
まだアポ入ってないし休み申請しとく」
マリアの近くのセブンに迎えに来てくれたこーきがそう言って手を握った。
「指輪は?」
マイメロちゃんの飴入れから出すとそれを取って、こーきは私の指に指輪を通した。
「タケルが大学入ってバイトしたら
酒飲みに連れて行ってくれるってライン来た」
「そうなんだ」アハハハ
「タケル国工大受けるんだってよ」
「え、そうなの?」
「理工学部行きたいんだって、俺の後輩」
「じゃあ杏奈も福岡の大学行くのかな
外国語系にいければどこでもいいみたいだし」
「かもな」
車はセブンを出る。
こーきがはめてくれた指輪と、倉敷で買ってくれた革の腕輪が光り輝く。
「トイレで手洗ったときに水跳ねちゃって染みた」
「革は染みるからな」
てっきり何か買って家で食べると思った。
なのに車は郊外へ向かう。
「オムライスにするって言ってたけど
この前食べたって言ったらグラタンにしたって」
「え!こーきの家に行くの?!」
「あ…ごめん嫌?
ちょっと持って帰りたい物とかもあったし
ついでにいいかと思って」
↑家で二人きりを避けたいこーき
馬由が浜は綺麗な夕焼けの海だった。
日が長くなり寒さもなくなって
春の海は
高くなった空と
夕日を映す水面が
グレーを混ぜない澄み切った色
「海行きたいね、夏になったら」
「そうだな」
「こーきのプライベートビーチに」
「だな」
「ちょっと散歩する?
まだグラタン出来てないだろうし」
道の広くなったとこに車を停め、夏には人が溢れる馬由が浜の海水浴場と赤瀬浦の間、ガードレールの下の小さな砂浜に降りた。
名前はない砂浜。
命名、こーきのプライベートビーチ
「砂入るな」
こーきはスニーカーを脱いだ。
だから私も制服の革靴を脱いだ。
夕日に染まるこーきの横顔が笑う。
それはどこか頼りなさげに
不安そうに
夕日のせい?
「こーき」
「ん?」
「大好き」
「うん」
そう言ったきり、夕日の海を見つめるこーき。
その横顔を見ていたら、なぜか大きなあのビルが脳裏をよぎる。
こーきの手を握りしめると、こーきは少しだけ驚いた顔をして私を見た。
「ずっとね…こーきと一緒がいいの」
「俺もだよ」
繋いでいた手を離し、こーきの手が背中にまわる。
なんであんなに孤独を感じたんだろう
こんなに近くにいるのに
こーきがあの大きな会社に行き、私が、そこからそう遠くない学校に行けば、今よりもっと会える時間は増えるのに。
こんな風に
誰もいない砂浜で
波の音を聞きながら
抱きしめて貰うことなんてなくなるからなのかな。
「スズが好きで…」
抱きしめる腕がギュッと締め付ける。
「好きで…たまらない
ずっと…俺のとこにいて…」
私ばかりが追いかけていると思っていた。
私ばかりが好きで、あんな風に孤独を感じることも私だけだと思った。
どうしても
手が届かないと
思っていた。
「こーき…」
こんなに強く抱きしめるんだ。
「大好きだよ」
腕がゆっくり緩められ、視界に入ったこーきは初めて見る表情。
プププ
子犬みたい
「なんか可愛いんだけど!」
「は…はぁ?」
「こーきってそんな可愛い顔も出来たんだ!
よしよしってしたくなった!」
夕日の色なのか
恥ずかしかったのか
顔赤いし
「どうしたの?なんかあったの?」
「はぁ?なんかあったって…お前…!」
「え?何?」
「…んでもねえよ!」
抱きしめてた腕はバッと乱雑に解かれてしまった。
「おいで子犬こーき!
よしよししてあげるから!」
「いいし!」
「早く~」
腕を広げて待ったら
「……」
↑葛藤中
腕の中に遠慮がちに入ってきた。
子犬こーきが。
「なんか寂しかったの?」
「別に」
いつもは抱きしめられるけど、抱きしめてあげるのもなかなかいい。
「こーき」
「さ、そろそろ行くぞ」
「誕生日プレゼント、何がいい?」
「え…?」
「5月でしょ?
いい物は買ってあげれないけど
クッキーかプリンかハンバーグかケーキ!」
抱きしめていた私の腕は、こーきの腕がポジションを奪い取り、ギュッと腕の中に抱きしめられた。
「何でもいい?」
「いいよ」
「じゃあ…」
「うん?」
「スズが欲しい」
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