修学旅行④お迎え
普段から毎日会えるわけでもなく、3泊会えないなんて普通なのに
スズがいないと思うと
寂しかった。
そわそわしてしまうくらい。
「今日帰ってくるんだっけ?」
「うん」
静香が目を細め、怪しむように見る。
「だから今日休みにしてんだ」
「たまたまだし」
図星。
この日に合わせて公休をここに入れ、仕事の約束は入れなかった。
スズが学校に着くのが18時半。
それを迎えに行く予定になっている。
PPPP
『空港に着いたよ~』
あーー…スズが帰ってきた!
何が楽しかったとか美味しかったとか、誰がどうしたこうしたって、スズはずっと喋るんだろうな。
「キモいですけど」
「はぁ?」
「ニヤけるかパソコンするかどっちかにして」
大体、休みとは一体なんなのか。
朝は髪を切りに行ったけど、それからずっと会社で事務処理。
今日のは今月残ってる公休の消化だから何か手当が発生するわけでもない。
勤務日数の勤務時間内に終わるわけないから、休みの日でも出てくることになる。
「朝霧、出張費の明細」
部長がぴらっと紙切れを置く。
「ありがとうございます」
「いえーい、今日はお前のおごり~」
すかさず花田さんがそれを取る。
「わ…予想以上だった」
「勝手に見ないで下さいよ」
「花田さんパス!」
「へい下田!」
プライバシーも何もない。
夕飯、何食べに行こうか。
「何か買って家で食べれば?
どうせいちゃいちゃしたいんでしょ」
「べ…!別にそんなことねえし!」
「どうだか~」
「そうだ、ハンバーグでも食いに行こうかな」
「それがいいわ
二人きりになると大変だもんね」
「う…」
「もう我慢効かないもんね~首チューごときで」
とことん図星に射てくる。
なんでこんな事を俺は下田に喋ったんだ。
絶対静香に流出するのに。
「進めてみたらいいのに」
「はぁ?」
「ま、女心わかんないしねアンタは。
そこに関しては二人でどうにかしてちょうだい
そこまでおせっかいできないし~」
時刻は18時。
「じゃ、お先~お疲れ様で~す」
パソコンを閉じ、総務に出す書類を持って帰り支度。
「声が浮かれてる」
「楽しみだな~JKの東京土産~」
「余田さん今更東京土産欲しいですか」
「いらね」
やっとこのときが来た。
一旦家に帰り、と言ってもそのまま駐車場。
車を取ってマリアに向かった。
ちょうど夕方のこの時間で混み合う駅前。
マリアの方面へは更に混む。
県北へ向かうバイパスや高速のインターがあるから、だから当たり前の道を行くよりも、遠回りになるけど図書館の向こうの高台を越えて行く方が時間はかからない。
スズ、どんな顔で帰ってくるかな。
通りを抜け、マリアの校舎が見えてきた頃合いで18時半。
校門の通りには迎えの車が列を成していた。
ハザードの光がチラつく。
その列の最後尾と思わしき白のセダンの後につけた。
ベンツかよ。
よく見るとさすが、高級車のオンパレード。
全員が全員社長令嬢ではないだろうけど、ある程度の収入がないとマリアには行けないんだろうな。
スズんちも瑞葉の九州本部長だし。
俺ってば、スズにいい暮らしさせてやれるんだろうか。
いくらあればいいんだろうか。
そんなこと考えてたら、門から何人もセーラーのJKが大きなバッグを持って出てきた。
車を見つけて乗り込んだり、友達同士楽しそうに歩いてたり。
スズ、あのスーツケース地味だったな。
みんな可愛いの持ってんじゃん。
今度買ってやろう、可愛いやつ。
車の横を通った団体の一人が、俺にニコッと頭を下げた。
スズの友達は正直杏奈ちゃんしかわからない。
でもその腕っ節は
ウィーーーーン
「こんにちわ!スズのお迎えですか?!」
「あーっと…キノコちゃんだ」
「や、ちゃんはつけなくていいです」
「スズは?」
「もう来ると思いますよ」
「歩き?ついでに送ろうか?」
「あっちに親きてます!」
「あ、そうなんだ」
「迎えいらないって言えばよかった!」
「スズの彼氏?!」
「え!噂のスズ彼?!」
「めちゃくそカッコいいじゃん!」
しまった
見世物になってしまった。
「あ!スズたち来ましたよ!」
門を出てきたスズが見えた。
「スズ~!朝霧さん来てるよ!」
声でけえな、さすがソフト部。
スズがパッと笑う。
「こーき!」
お嬢様女子校のど正面でいいのか。
スズが小走りで来るから、杏奈ちゃんは『えぇ?!走るの?!』みたいな顔でついてくる。
ん?もう一人は初めて見たな。
「こーきただいま!」
女子高生に囲まれてしまった。
「お帰り」
エヘヘ~
なんだその照れは
あぁ可愛い
撫でたい抱きしめたいキスしたい
「朝霧さん私まですみません」
「あ、全然いいよ
荷物載せようか、貸して」
「じゃ、うちら帰るね~」
「うんまた来週~」
ソフト部たちが帰って行く。
「あ、朝霧さんこちら渡さん。
スズパパと同じ会社らしいですよ、彼氏」
スズがもじもじと照れの世界に浸っているから、杏奈ちゃんが紹介してくれた。
「え、青井本部長と?てことは瑞葉?」
「スズパパに聞いたら、スズパパも知ってて」
「彼は朝霧さんの事も知ってました」
誰だろう
俺を知ってるって事は営業系?
「浅野…っていいます、彼」
浅野?浅野浅野…
あぁ!あの人か!
「……」
黒髪ロング長身スレンダー
綺麗な子だ
大人びてて高校生に見えない
「え…」
これがあれと?!
「渡さんの彼氏知ってる人?」
「あ…あぁうん
何度か会ったことあるかも」
超絶オタッキーなあの人だよな!
ボールペンがなんかアニメ可愛い女子の絵の人!
俺もそんなに長身でもないから人のこと言えないけど、背は低いし若そうだけど腹でてるし、スーツ丈おかしいなっていつも思ってたんだ。
お世辞にもイケメンとは言えない。
「や…優しそうな方だよな」
今時JKが好んで付き合うタイプとは思えないんだけど。
「家どこ?送ろうか?ついでだし」
「あ、私も彼が迎えに来てるから」
そう言って指さした先
車色違ーーい
「ぴょんちゃん!」
ぴょんちゃん?!
「あっピィ!」
笑うな俺。
いいじゃないか二人の世界。
俺も最近だいぶバカップルやってんじゃん。
「ステキ…!」
えぇ?!どこにときめいてんの!
杏奈ちゃんは若干笑ってんじゃん。
向こうも仕事帰りか仕事途中か、同じ格好してた。
そしてぴょんちゃんが俺に気付き、ピシッと立ってガバッと頭を下げた。
「あ…そんな頭上げて下さい」
「瑞葉コーポレーションの浅野です!
お世話になっております!」
これは仕事か否か。
「甲田エネルギー開発部の朝霧です。
瑞葉さんにはいつもお世話になっております」
スズと彼女が笑い合う。
変な共通点見つけたんだな、修学旅行で。
「こーき、今度ね
私とこーきと渡さん達と杏奈とタケルくんとね
トリプルデートしようって決めたの!」
マジかよ
.
「そんでね、杏奈のタオルと間違ってね」
「だからそれキノコがそもそも悪いんだって!」
「でも杏奈もさ!」
一日目の日光の旅館で楽しかった話しを、ギャーギャー喋って教えてくれる楽しそうな二人。
バックミラーで見ながら、話しの概要はよくわからないけど、俺はついつい顔が笑ってしまっていた。
二人とも楽しそうで可愛い。
彼女の友達って存在は嫌いだった。
災いの火種でしかないと思っていた。
だけど違う。
スズの大事な人は俺にも大事に思えるから不思議だ。
杏奈ちゃんもソフト部たちもタケルも。
まぁクソガキは置いといて。
ということはだ
新に友達になったらしいあの彼女と浅野さん。
トリプルデートて。
スズは仲良くしたいと思ってるってことだよな。
杏奈ちゃんタケルと同様に。
若干仕事が絡む感じが引っ掛かるけど…
「でねこーき!
トリプルデート言えば遊園地じゃん?!」
「朝霧さんって絶叫系いけますか?!」
「だからそんなのいけるに決まってんじゃん!
タケルくんと一緒にしないで!」
「タケルへたれなの~!」
アハハハハ
こんな楽しそうなのに気が進まないとは言えない。
仕事先の人でスズの友達の彼氏で、彼女の父親の部下。
仲良くなるに越したことはない。
にしても、俺、瑞葉に呪われてんのか?
なにかと瑞葉だな。
数字がデカいからまた厄介。
ま、仕事の付き合いじゃないし、そこまで考えなくていいか。
うちと拗れたくないのは向こうも同じだろう。
「絶叫系好きだよ」
「やったーー!」
「でもあの回るやつは嫌い。
ほら、ブランコのデッカいやつの」
「えぇ?!あれ面白いじゃん!」
「コースターとか落ちるとか
そんなんだったらいい、回るの嫌だ」
「ブランコのデッカいのはタケルと乗りなよ
あれは乗れるから」
「えーーー…タケルくんとか」
「で?どこに行くんだ?」
バックミラー越しに聞くと、二人がパッと見合わせる。
「「城島後楽園に連れてって下さい!」」
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