コアラとカンガルー①
絶対ツッコまれると思った。
「うーーえーーーー」
「なんすかそれーーー!」
そんなのスズとウキウキペアリングに決まってんだろ。
「虫除けだ」
「引くわーーその言い方」
「ちょっとモテると思って嫌なお方」
「どこで買ったのよ」
「東京」
「あぁ、この前の出張?」
「左につけた方が効果的じゃないっすか?」
「さすがに左はあれでしょ下田」
「あそっか、ご祝儀くれる人現れそうっすね」
「ん?」
ちょっと待てよ
こっち掴まってて
スズこう手を出して
んでこう手を繋いでたから…
「しまった!」
左にはめてしまった!
「スズちゃんのは?サイズ大丈夫だったの?」
あーーやってしまった。
やっぱ満員電車とかやめときゃよかった…
「それは大丈夫…
小柄で細身でピアノやってるって言ったら
店員のおばちゃんドンピンシャ当ててくれた」
左手は結婚のお楽しみにしておきたかった。
がっくし…
「やっぱりペアリングか」
「すぐ白状しますね」
あ、しまった…
「ムシヨケダ」
「静香さん似てる!」ヒャヒャヒャヒャ
「うっせえな…」
パソコンを叩く指にチラつく指輪がなんだかよかった。
やっぱスズってすげえ。
「見て下さい静香さん
張り切って挨拶文打ってますよ」
「張り切る朝霧って心底キモいわ」
「朝霧くんちょっと~」
部長席からお呼びが。
「はい」
明日は久々の休みだから、まぁ午前中は仕事を片付けるとして、スズの学校終わりを迎えに行き、特別門限の21時までゆっくり会えると実は心躍っている俺のそのハートを
部長は軽ーーい感じで
打ち砕く。
「明日シンガポール飛んでちょ
それからオーストラリアに合流してくれる?
あとで総務の子が飛行機もってきてくれるから」
「総務の子、飛行機持ってこれるんすね」
「すごいわね」
「そこいちいちツッコまないでくれる?」ワハハハハ
ウソだろ。
部長は俺になにか恨みでも?
この前の朝日商会の恨みですか?
理由知ったら怒ってたじゃないですか。
オーストラリアがあるのにわざわざ俺?
ほかにいるだろ、行ける人。
「是非朝霧くんにって話しでね
ほらシンガポールの佐々木さん、わかるだろ?」
「はい」
「しっかりやれよ」
そういうことか
じゃあ頑張るしかねえじゃん。
「ありがとうございます」
てことで翌日、総務の子が持ってきてくれた飛行機に乗ってシンガーポールへ。
やっぱこれだよな。
カシャ
『シンガポール到着』送信
マーライオンの写真添え。
PPPP
『口からどばーってなるやつ撮ってよ』
「……」
一人で?
ちょっと無理
『スズが卒業したら二人で来よう
その時に撮るから』送信
さてと
「……」
シンガポール支社、どこだっけ。
あ、パイナップルケーキ買わないと。
前に静香が買ってきて美味かったやつ。
シンガポールは2泊だった。
到着したその足でマーライオン撮りに行っただけで、あとは支社に引きこもり。
唯一の外出は、ロスから来ていた同じ年のライアンとちょっと一杯飲みに行ったことくらい。
チリクラブが激ウマだった。
ライアンというわりに、ドラクエのライアンと違って線の細い上品な男だ。
そしてシンガポールからメルボルンへ。
空港にはスズの好きそうな可愛い物も沢山あった。
それに石けんや香水。
「うわ、これすげえ匂い」
ヘアオイルってなんだよ。
あ、これは控えめないい匂い。
ハ、ン、ド…あぁハンドクリームか。
スズへのお土産ばかりが増える。
メルボルンに着いたら着いたで
抱っこコアラ即買い。
絶対喜ぶだろこれ。
「thank you」
しまった、デカすぎた。
これ帰りに買うやつだった。
「朝霧くん!」
コアラをどうにかスーツケースに収納しようと悪戦苦闘していたメルボルンの空港の隅。
日本語が聞こえて顔を上げると
「大変だったね、シンガポール経由したんだって?」
真壁さんだった。
「それ何?」
やべえ
怒ると怖い言ってたよな。
こんな旅行気分で真っ先コアラのぬいぐるみ買ってるとか…
「すみません…」
「お土産?お子さんいたっけ?」
「いえ…えー…」
彼女とか言う?
「冗談冗談、彼女だろ~
まだ学生なんだって?こないだ余田が言ってた
朝霧くんの彼女可愛いって」ニコッ
「すみません…つい買ってしまって」
「気にしないでいいよ。
そういうのって大事だから。
励みになってくれる彼女なら大賛成だ。
街中にもね可愛いお店多いから寄るといい」
なんか
すげえなって
頑張ろうって
気さくに笑う真壁さんを見てたら思った。
仕事出来て理解あって優しくも厳しくも出来る。
「うちはもうコアラ買ってっても喜ぶ人いないしな」
アハハハハ
石造りの城のような建物が並ぶメルボルンの街。
かと思えば近代的な高層ビルもあったり、大きな川に架かる橋。
やたらオープンカフェ。
見える物全てがごちゃついた日本と違う。
洒落てる。
将来はスズとメルボルンに移住って手もあるな。
「お、朝霧くん待ってたよ~」
「室長、遅れて申し訳ありません」
「いいのいいの
早速だけど夜ね三京物産と食事だから
よろしく頼むよ」
「はい」
泊まるホテルは都会の真ん中。
オーストラリアっぽいの見たかったな。
カンガルーの親子とか、木にしがみついてるコアラとか。
そんなん送ったらスズ喜ぶだろうな。
やっぱ移住するしかない。
「水島課長ご無沙汰しています」
「いやいや久しぶりだったね、元気してた?」
「はい、お陰様で」
ご接待はさすが肉肉肉ワイン。
「いいとこだろ~メルボルン」
「はい」
「早速空港でコアラ買ってましてね、朝霧」
「そうか!」ワハハハハ
次の日の現地視察は田舎の方に行ったけど、別にコアラもいなかったしカンガルーも跳ねてなかった。
どこにでもいるわけじゃなかった。
日本の野良猫レベルでいるかと思ってたけど。
オーストラリア滞在中はスズからはあまりラインは来なかった。
俺がすれば返ってくる程度。
気を遣ってくれてるんだろうなって思った。
.
「さ、行こうか」
真壁さんはスーツケースの柄を伸ばして、そこにビジネスバッグを置いた。
俺のスーツケースの柄にはコアラがしがみついている。
「可愛いね~朝霧くん」
「室長、ミスマッチ感がいいでしょ」
「私も買おうかな
エネ開室の植木にさ」
「いいですね」
面白がられこんな事態。
でも荷物の中で押し潰されるより良かったか。
カシャ
「今度の社内報に載せて貰おうか」
「いいですね、エネ開の活動記録に」
「やめて下さい…」
だけどつぶらな瞳はなんとも可愛かった。
搭乗を待つ間
カシャ
『今から帰ります
可愛がってね♡』送信
スーツケースに乗っかったコアラをスズに送った。
『可愛い!早く会いたい♡♡』
よし、カンガルーも連れて帰ろう。
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