ひねくれてしまった私
「あ」
という間に
「成績表は始業式で集めるからね~
家で印鑑もらってきてね~」
担任はプリントを扇みたいにスライドさせて、先頭の席に列の数分を置いて回る。
さっきから何枚も何枚も。
お腹減った。
「最後~お待ちかねのこれ~」
担任のそんな言葉に
キターーーー!
教室がザワッと盛り上がる。
「始業式の日はここじゃなく
新しいクラスへ行ってくださ~い」
先に見た人からキャーキャー声が上がる。
ドキドキ
一枚取った前の人がクルッと振り向く。
「はい、スズちゃん」
ドキドキ
もちろん杏奈やキノコたちと一緒がいい。
それと
出来れば愛理と違うクラスがいい。
そんなことを思ってしまって、胸が少し苦しくなる。
「スズ!一緒だ!」
え?
見るより先に杏奈の声が正解を教えてくれた。
見ると3年5組に名前があった。
「やった!」
そして
愛理の名前はなかった。
「はい!じゃあ二年生終わり!」
「きりーーーつ!」
ガタガタ
「れーーーい」
「「「「さよーならーー」」」」
二年生が終わってしまった。
だけど三年生も杏奈もキノコたちソフト部もいるしなんら変わりない。
「よかった~みんな一緒で」
「ホントだよ!」
「スズあれだね
朝霧さんに理系の太鼓判押されたのに
結局英語やらないけんね~」
「それホントに大問題なんだけど…」
プリント類をカバンに詰め、机の中をもう一度チェック。
もうこの教室には来ない。
「帰りどうする?」
「キノコたち部活?」
「部活~」
「スズは?一緒にマック行く?」
「行こうかな~
どうせ夕方までこーきの家行く予定だし」
「朝霧さん休み?」
「仕事」
「あ、別荘ステイね」
そんなことを言いながら一年間お世話になった二年生の靴箱へ。
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「あ、こーきだ!」
「いつまでたってもスズはつきあい始めと変わらん」
「ホント」
「どうやって維持するの」
届いたラインは
『学校終わった?
ちょっと時間あるから昼飯行かない?』
ニヤーーーー
「なんだって?何にときめいてるの?」
「スズ、上靴持って帰らなきゃ
なに丁寧にしまってんの」
「そうだった」
キノコが私の手からスマホを取る。
「あ、ありがとう」
上靴を袋にしまうために持ってくれたと思った。
「うわー!ランチの誘いじゃん!」
「え、見せて!いいな~!」
「ちょっと~やめてよ~」←喜んでる
「朝霧さんとランチ行くよ、送信」
杏奈が自分のスマホをタップしながら呟く。
「いいな!うちらも行きたい!」
「ずるい!」
「ソフト部は練習でしょ~」
「タケルくんなんて?いいって?」
「ウソよ
そんな貴重なランチタイムお邪魔しません
最近全然会えてないんでしょ?」
オフィス街の公園で待っててってことだった。
前にシェイクを飲んだとこ。
あの時は手が当たっただけでドキドキして、でも手を繋いでほしくて、静香さんがあんなこと言うから意識しちゃったんだっけ。
今でも思い出せる感覚。
すぐ側にこーきがいることが現実味なくて不思議だった。
またカレーうどん食べたいな。
ランチ時間のオフィス街には人が沢山。
公園には前みたいに移動販売の車が何台かいて、ベンチでランチの人たちもいる。
春のぽかぽか、気持ちよさそう。
こーきまだかな。
会社の方を両手双眼鏡で観察。
あ!いた!
横断歩道の向こうに信号待ってるこーき発見!
カッコいいな~カッコいいな~カッコいいな~
そうだ、動画に収めよう。
スマホを向け、拡大。
遠いからだいぶ拡大。
画像粗いけど仕事中ランチの思い出記念。
そう思ったんだよ。
別に証拠撮ったわけじゃないんだよ。
横断歩道の右側から走ってきた女の人がこーきに話しかけた。
お仕事の人?なのかな。
でもなんか雰囲気が、勇気を出して話しかけました。
そしてこーきに何かを渡す。
表情までは見えないけど、恥ずかしくて上向けませんって感じに見えますが、こーきは何かを断るみたいに手の平をその人に向け、何度か頭を下げた。
でももう引っ込みつかなかったんだと思う。
こーきは何かを貰って、信号の変わった横断歩道を渡ってきた。
「スズ!お待た…せ…」
停止ピロン
「見てた…?」
「見てた」
バツ悪そうに目をそらした。
「証拠見る?」
「ホント何でもないから。
知らない人だし…や、知らないわけじゃない
そこの運送会社の受付の人でたまに使うから…」
「大丈夫だって」
「ホントに何もないから!」
「証拠あるもん
こーきが焦って困ってるの」
「や、なんかさ…」
パッと目をそらす。
「最初にスズが会社の前で告ってきたの
思い出してしまってさ
勇気だしたんだろうなって…」
「勇気いるよ、突撃告白するの」
「うん、俺もスズに言ったとき
緊張して死にそうだったからさ…
だからなんか、ちゃんと断らなきゃなって。
あ、もちろんラインしたりしないよ。
連絡はしませんって言って受け取ったから」
恥ずかしそう
顔赤い
プププププ
「私ひどいヒドいこと言われたけど~」
「や、あの時はだって…!」
「ね、こーき」
「ホントごめん…」
「またカレーうどん食べたい!」
こーきは笑った。
安心したみたいに。別に怒ったりしないけど。
「言うと思った」
「いい?」
「うん」
この公園からすぐ近くの立ち食い屋さんへ。
制服でいちゃいちゃするのは禁止されてるし、会社の近くだし、さすがに手は繋がなかった。
手を繋がなければたぶん、私たちは兄妹にでも見えると思う。
「いらっしゃいませ~」
前と同じおばさんがニコッと笑う。
「ここにどうぞ」
踏み台を置いてくれた。
「こーきもカレーうどん?」
「俺はね…」
メニューを見る。
「卵とじにしよ」
「すみませーん
カレーうどんと卵とじうどんの細麺ください!」
「はーい!」
「慣れたもんだな」
「まぁね~」
「あ、スズほらこれ」
私のカレーうどんはもう丼に入ろうとしてる。
なんたる早さ。
こーきはポケットからハンカチを出した。
紺の薄いやつ。
それを広げて私の首に。
「や、これはなんか違うな
スカーフじゃないんだから」
また広げ直して、今度はそれを襟元に差し込んだ。
ドキドキドキ
顔赤くなってませんように!
急にいきなりなんの前触れもなく首に触るからドキッとした。
「スズ?どうかした?」
「や…ななななななんでもない!」
「あ、ごめん
こんなん恥ずかしいよな
でもまた汁飛ばたらさ…」
羽織ってた指定ニットが白。
セーラー自体は冬服だから黒だけど。
「ぜ…全然平気!」
「あ、ほらスズの来た」
「カレーうどんお待たせ~」
食べる前から暑い。ドキドキして変な汗かいちゃった。
「待ってないでいいから食えよ」
カレーうどんは前と変わらず美味しかった。
暑い
熱い
心臓が熱い。
「ご馳走様でした~」
ガラッ
「あ、外さむい!」
「ホント」
ちょっと曇っていた。
「公園でココアでも飲む?」
「うん!」
また公園に戻った。
こーきが買ってくれたのは、缶じゃないお洒落な紙カップのココア。
蓋いてるやつ。
「え、蓋外すのか?」
「だってこの穴から飲むの熱くて怖いんだもん」
ベンチに座り、あまーいココアをズズズ。
カレーの後味に合わない。
「スズもう春休みか」
「うん!あ、あのね
杏奈とキノコたちもクラス一緒だった~」
「え、もうわかる?」
「最後の日にクラス編成の紙もらうよ
そんで新学期はそのクラスに直行」
「へ~、うちは始業式だったな」
「ねぇこーき」
私明日から休みなの。
「次の休みいつ?」
「えっと…ごめん
今ちょっと立て込んでて…不明…」
ガーーーン
「四月になってすぐ大きな出張とかあってさ
あー…あと28日から仙台と東京だし…」
もしかして
「春休み中…会えない感じ?」
「全然会えないって事はないと思うけど…
ごめん、休みはないかも…」
がっくし…
じゃあ夏休みと同様、こーきの家で引きこもり決定。
「時間取れそうなとき連絡する」
「うん…」
「ごめんな…」
ズズズ
あー…甘いココアが沁みる。
PPP PPP PPP
「あ、ごめん電話だ」
忙しいんだろうな。
お仕事なしゃべり方のこーき、カッコいい。
「ごめんスズ…ちょっと戻らなきゃ…」
わかってるよ
わかってるの
わかってるんだけどさ
寂しーーーーー!!!
手つなぎたい
ギュッてしてほしい
2人きりで
ずっとくっついてたい
こーきはそんな風に思わないのかな。
「もいい、帰るね
春休みは杏奈とか英介といっぱい遊ぶから」
仕方ないじゃん仕事だもん。
こんな言い方しちゃダメなんだって。
「スズ待って!」
「別にいいし…
こーきも綺麗なお姉さんと遊んでいいよ」
「は?」
「じゃーね!」
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