スノボ旅行14.革のブレスレットとバッグ

ただただ楽しかった。



手を繋いで現実感のない街を歩いて、パフェを半分こして、可愛いお店に沢山寄り道して、沢山写真を撮った。


腕を伸ばして二人で。


川面に見入ってるこーき。


キャラメルパフェの底を食べれなかったこーき。


手を繋いで歩くこーきを半歩後ろから見上げる角度。



どんなこーきも、この一瞬一瞬を忘れたくなくて



覚えておきたいと思った。



好きで好きで仕方なくて



今が終わっていくのが切ない。






「あ、スズここ寄っていい?」


白い壁のクラみたいな建物。

や、クラみたいな建物ばっかりなんだけどね。


そこは今まで見たごちゃごちゃと可愛い雑貨屋さんとは違い、男の人が好みそうなバッグや服のシンプルなお店。

しっかりした布のトートバッグ。

可愛いなと思ってみたら桁二度見した。

そっと戻した。


なにか欲しいのがあるのかな。


「あ、ごめん退屈だよな」

ぼけ~とついて回って邪魔かもしれない。

「こーき、私トイレ行ってくるからここ見てて?」

気を遣ったわけじゃないけどバレた?

こーきはフフって笑う。


「うん、じゃあここ見てる

 終わったらラインするから」


興味ないのバレてるよね。


とりあえずトイレに行ってそれからぷらぷら。

あ、きびだんご!

お土産買っとこう。

え、生きびだんごってどういうこと?

焼けてないの?←そういうことじゃない

あ、桃のゼリー

お母さんに買って行こう。

桃太郎クッキーか

これはクラスで食べて、きびだんごとマスカットゼリーはこーきの家で食べるおやつに。


やだ。


こんな大人買いするの初めてなんですけど。

ドキドキ

あ、桃太郎のキャラグッズ可愛い~

キティちゃんにジバニャンにリラックマ!

ウソ!キジのぬいぐるみだ!

キジって脇役なのに鳥モチーフで可愛い!


トイレに行っただけなのに、ついうっかりお土産屋さんを一人で楽しんでしまった。



PRPRPR PRPRPR


こーきも終わったかな。


「もしもーし」

『よかった…やっと出た…」

え?何回もかけた?

『今どこ?』

「さっきのお店の横の横らへんのお土産屋さん」

『行くからそこにいて』

なんかちょっと怒ってる?

声が真顔。

電話が切れて見たスマホの画面には、不在着信8件。


「……」


心配したんだ

出なかったから。


わーーー…どうしよ


怒らせちゃったよね。

戻って来ないし電話に出ないし自分勝手に。


デートに浮かれ、お土産屋さんに浮かれてた気持ちは急降下。

一気に不安に染まった。


手に持ってたカゴには大人買いのお土産の箱。


早く戻してこーきのとこ行かなきゃ!

買ってる場合じゃない!


なんかとんでもなく焦ったその時


「いた…」


後ろから肩にドシッと重み。


恐る恐る振り向くと



「マジびびった~…」



息を切らしたこーきがガクッとうなだれた。



「ごめんなさい…」


「や…怒ってないよ

 あんま出ないから心配しただけ」

「全然気付かなくて…」

「怒ってないから…ごめんそんな顔させて」

肩から手を離し、ニコッと笑ったこーきは私の頬をツンツンと人差し指でつつく。


「なんかあった?お土産」


カゴに目を落とすとこーきはそれ見て、私の手からカゴを取った。

「俺も会社に買わなきゃ。

 お、ゼリー美味そうだな」

「ごめんね」

頭を撫でようとした手が迷う。

「あいつお団子なんかしやがって…」

チッって舌打ちして、前髪のとこだけよしよしって撫でた。


「スズ、下田になにがいいと思う?」

「え、シモピーさん?」

「すっげえ拗ねてたからさ

 スズ選んでくれない?」

「じゃあ桃太郎!

 ね、見て見て可愛くない?

 いっぱいあるの桃太郎キャラ!」

クスクスって笑ってまた前髪のとこを撫でる。


「どれが可愛い?」


「これ!キジのぬいぐるみキーホルダー!」


「じゃあこれにしよう」

こーきはそれを二つ入れる。


「下田はこれにしよ」

「え、これ?」

「男子の憧れのアイテムだから」

金ぴかの剣に竜が巻き付いたキーホルダー。

「なんかクラスの男子が持ってた気がする」

「だろ?男子は好きなのこんなの」


「あとスズんちに…」

「あ、桃ゼリー買うよ」

「酒も買わないと」

「こーきの家には?」

「うちは別にいい

 旅行行くとか言ってないし」

「じゃあ桃ゼリー買おう?

 旅行行ってきたってあげればいいじゃん」


お土産を買うデートも楽しかった。


こーきは右手に袋を三つ。

私は左手に袋を一つ。


反対の手は繋いで、駐車場までゆっくり散歩して戻った。



倉敷を出発したのは14時半をまわったとこ。



「すぅさん」

「ん?」


目線は真っ直ぐ道を向いたまま呼ぶ。

これも好きで、時々こーきがスズって呼ばないこれも好きだった。


「なぁに?コッピー」

「……」

「もうホテルに行くの?」

「はっ?!」


え、そんな驚く?

だって2時間くらいかかるでしょ?

来るときそれくらいかかったし。


「今から戻って四時半くらいだよね?」


「あ…」


なんで赤くなるの?


「そっちな……」

そっちってどっち?

「や、なんか腹減らねえかなって思ったけど

 結局パフェで済ませてたし」

「減ったね」

「何か食べる?」

でも今食べたら夕飯が。

今日は昨日のバイキングの横の中華屋さんなんだよね。

麻婆いっぱい食べたいし、焼売も春巻きも美味しそうだった。

「あ!コンビニ発見!肉まん食べようよ!」

「じゃあ肉まん買って車で食うか」

「うん!」


てことでローソンに入り


「やっぱからあげくん食べたい」

「俺焼き鳥食いてえ」

レジの前を見てからの

「あ!タピタピしたい!」

「タピタピ…?」

「タピオカミルクティ~」

「JKはタピタピ言うのか…」

「タピるって言うんだよ」

「昨日の昼もタピってなかった?」

小腹を埋める揚げ物を買い、こーきはまた車を走らせた。


「どこ行くの?」

「んーー…」

↑いちゃいちゃ出来る所とは言えない

「まだ食べないの?」

「食べよっか…スズ開けてくれる?」

↑アウェーだからいい感じの場所を見つけられない


買った物を膝の上で開ける。

「コッピーあーんして」

目線は前で、こーきは少しだけ顔をこっちに傾け、口を開ける。

そこにポイッとからあげクンを投入。

「うま」

焼き鳥は串から外してポイッと。

「ビール飲みてえ」


なんか楽しいな~


こーきに食べさせながら私も食べて、今日撮った写メを見ながら家族ラインや静香さんや杏奈に送った。



「すぅ、楽しかった?」



「うん!」



手、繋ぎたいな。

ギュッてしてほしいな。



キスして欲しいな。



朝はビックリしちゃったから。

だってずっとキスなんてしてなかったし、あんなとこでキスするなんて思わなかったんだもん。


「こーき」

「ん?腹いっぱいになった?」

「あのね…」

「うん」

「えっと…その…あのね…!」



言えない。

キスしたいなんて

くっつきたいなんて。



「何でもないです…」

「なんだそれ」


言えないまま車は高速道路を走り、見たことある風景に突入。

もうこれはスキー場に登る山道。


「雪とけてるな」

「ホントだ、朝の方があったね」

山道を登りながら私はもう諦めた。


こーきは思わないのかな。


くっついて抱きしめて抱きしめられて、キスしたい。


欲を言えばチュってだけじゃなくて大人のやつ。



してくれないかな。



「あ、やっぱあった」


え?


こーきは途中で右に曲がった。


「来るときに見たんだよなこの標識」


真っ直ぐはホテルのあるスキー場。

右に矢印で展望台とあった。

「展望台行くの?」

「丁度夕日かも」

くねくねと山道を登り、そんなに遠くなかった。


山道がパッと開ける。



「わ~~綺麗!」



日の傾いた空の下に小さな町並み。


馬由が浜で見る海の夕日とは違う街の夕日。



「スズ、もうちょっとだけデートして?」



初めて会ったとき

2度目に会ったとき

ストーカーして迷惑がられてたとき


こーきは冷たさ全開、嫌そうに私のこと見てた。



こんな風に優しく微笑んでくれるようになったのはいつからだっけ。


どっちが本当のこーきだったのかな。



あの頃のこーきを忘れてしまいそう。

でも私は、出会ったあの頃の、冷たかったこーきの顔も忘れたくない。



「そんなときめかないでくれる…?」

「え?」


「可愛すぎるから…」



小さな駐車場にほかに車は停まってなかった。


もしかしたら夜景が綺麗なのかもしれない。

見下ろす町並みを見てそう思った。



エンジンが切れて静かな空気が流れる。



「スズにお土産」



は?



こーきがドアを開け車を降りると、後ろのドアを開けた。

倉敷で買った荷物が載ってる後ろ。

「あ、これはシャツか」

私も助出席を下りてこーきのとこに行った。

後部座席のドアのとこで、こーきが荷物を開けるのを横から見た。


「私にお土産?」



「あった、これ」



白い紙袋を開け、こーきは中身を出す。



「スズこれ見てただろ?」



あーーーー!値札二度見したバッグだ!


紺色の帆布のバッグ


シンプルで

持ち手のとこが革で可愛いの。


「買ってくれたの…?」

「似合うなと思って

 スズがいつも着てる服とかに」


嬉しーーーー泣くーーーー


「あ、あとほらキジのやつ」

桃太郎ハチマキをしたキジのぬいぐるみキーホルダー。

「これにつける!」

持ち手に輪っかを通した。

「可愛い~」

「スズが選んだにしてはシックだったな」


2つ買ったキジのキーホルダー。

もう一つは


「俺も付けよう」


こーきは車の黒い四角のリモコンキーに。


「こーきのだったの?」

「え、うん」

「静香さんのかと思った

 だってこーきこんなの嫌かなって…」


「旅行記念のお揃いだろ?」


これ以上ときめかせないで!!


ホントにおかしくなりそう…

心がついてけない…



「腕出して」

「え、腕…?」



右腕を出すと、こーきはニットをまくり上げた。



「いいの見つけたんだ」



帆布のトートが入っていた袋から、さらに小さな袋を出し




「スズ犬に首輪」



って笑って




手首にパチッと留められたのは




「可愛い…」




濃茶の革のブレスレットだった。



何かの刻印が押してあって、パチッとシルバーのボタンで留める。



「指輪欲しかったんだけどな

 なんかごついのしかなかったし

 これが可愛かったから」


「さっきのお店…?」



「逃げないように繋いどかないと」



そう言って笑って



「お揃い」



もう一つ、同じ物が袋から出てきた。




「デートの時だけな

 学校と会社では無理だけど」




なんかもうキャパオーバー。




「こーき…」



満杯になった心の中をどうにかしてほしくて、こーきの胸に顔を当ててしまった。




抑えられない




「キス…したい」




こーきの手が私の顔をグイッと上に向かせ、ジッと見つめる真剣な目が私を捕らえる。




「大人のがいい…」




触れた唇は、構える暇もなく深く入り込み、抑えられなかった気持ちが満たされていく。


ふわふわと揺れる意識の中


私は



こーきの手が素肌を撫でてくれないかなって



ちょっとだけ



エッチなことを考えてしまった。




それを欲しがってる自分が



なんだか恥ずかしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る