スノボ旅行⑩同期の飲み会
「あれ?早かったね」
「スズちゃんは?」
テーブルの時限爆弾は40分を切っていた。
ほろ酔いな顔で、早く戻りすぎた俺を不思議そうに見た。
「眠いって」
「ふられたの?!」
「うっそ!」
「え、お前眠いって言われて
のこのこ帰ってきたん?!」
「眠いっていう誘い文句だろ!」
「添い寝して雰囲気もってくのが常識だろ!」
「てっきりヤリに行ったと思ったら!」
「ホントにやってないんだ」
「さなえ、だからそう言ってるじゃん」
好き勝手言いやがって。
スズが座ってた1番端の席に座ると、目の前の神田が呆れたみたいに鼻で笑った。
「米山~ビール」
「俺もうこの席嫌だ!」
「あ、米山くん私も」
「で?」
「でってなんだよ」
「スーたん置いて戻ってきたわけね
全然眠そうじゃなかったけど」
「仕方ないだろ」
「何が」
神田酔ってんのか?
「お父さんと約束してるから
部屋に入らない、22時までに部屋に帰らせる」
ゴクゴクゴクゴク
ハイボールを飲み干す神田。
「真面目か」
「俺真面目になったんで」
「スーたん寂しかったんじゃねえの
そんなさっさと戻ってきて」
「しゃあねえだろ
部屋には絶対入れない」
「抑え効かないから?」
「ビールお待たせしましました~」
ジョッキが置かれる。
「あ、お姉さんハイボールください」
「はい」
「部屋に入れないとしたら
俺ならどっか人いないとこにでも連れてって
時間までいちゃいちゃするけどな~」
「人居ないとこってどこだよ
どこ行っても人いるし外でたら凍え死ぬわ」
「階段とか」
階段?
「朝霧、明日どこ行くか決めたの?」
1番遠くの社長席から静香が言う。
「え、お前明日どっか行くの?」
「うん、俺とスズ明日は滑んない」
「なんで?」
「手が」
って言いかけたとき
「それがいいわ」
真田の彼女が割って入り、思わず言っちゃったみたいな、あ、って口に手を当てた。
「手が何?」
「や、ピアノ弾くから
もし手とか手首とか痛めたら困る
って昼間気付いた」
「来てから気付いたんか」
「うん」
どこに行こうか。
それも話したいなと思ったんだ。
スマホでググってどこ行きたいか決めて。
追いかければよかったのか。
スズがあんな風に拗ねて、困ったのはそりゃ困ったけど、だけど俺は
嬉しかった。
俺に対してああいう怒り方もするようになったんだって。
逆に、そんな好きなんだって思ってしまった。
だけど追いかけられなかったのは、神田の言うとおり抑え効かないし、約束は破りたくなかった。
もし部屋に入って抱きしめてキスして、思う存分くっついて撫でて、お互い欲求は満たされるかもしれない。
スズがお父さんに部屋に入ったことを告げ口したりすることもないと思う。
だけどそれは出来ない。
スズの前ではちゃんとしたい。
誤魔化したりしたくない。
明日、デートで思う存分バカップルして、ちょっとだけ、どこか人のいないとこに。
俺だってとうの昔に現界だ。
「俺も行こっかな~観光」
神田が妙なことを言い出した。
「はぁ?」
「広島って支社に行くくらいで
他の場所行ったことないしな」
「マジお断り」
「冷たいな
前に朝霧が書類ミスった東エネの尻拭ったのに」
「いつの話だ
それにその件はもうトラフグ送っただろ」
「あ、そうだった
食ったわ、美味かった」
「そうだ、朝霧くん鳥取砂丘なんかいいんじゃない」
静香の横から山崎恋花が身を乗り出す。
「寒そう」
「だいぶ寒そう」
「砂の山見てなにが楽しい」
男子から即却下。
「ラブホ」
「それな」
「それしかない」
「サイテーー」
「やっぱショッピングじゃない?」
「だよね~それしかない」
「なんかあるんじゃない?アウトレットとかさ」
「出た、女子はすぐ買わせる」
「俺たちが小金稼ぐのに
どんだけ身を削ってると思ってんだ」
「私も身を削って小金稼いでるわよ」
「私も~」
「秘書課も身を削ってますけど
営業はすぐ自分たちが大変だとアピる」
「はいはいすみません」
「スズちゃんは貢がせないもんね~朝霧」
余計な話をするな。
「自ら貢ぐのよこの人」
「え…」
「えぇ!」
「やってないのに?!」
「うっせえな!」
「今日来てた服でしょ、ウエアでしょ
問題集にスイッチに自宅にピアノ」
「「ピアノ?!」」
「スイッチは貢いでねぇし」
「あ、あと接待パーティーのトータルコーデ
10万超え」
「「「はぁ?!」」」
「アホなのか!」
「貢ぎすぎーー!」
「接待パーティーって社内メルマガの?」
「あぁ、そうそれ」
あのパーティーの動画は社内メルマガに載ったんだ。
国内の社内でしかみられないウェブページ。
社内報みたいなもん。
「よくわかったね神田」
みんなそんなに真剣に見ない。
同期の名前が出てたら見たりもするけど。
担当に俺と静香の名前が出てたから見たのか。
「やっぱあれスーたんだったんだ」
食べ飲み放題の時間が終わっても、単品価格で飲み会は続き、それは部屋に移動しても続いた。
多くは仕事の話。
それから恋の話だったり自虐的な笑い話だったり。
彼女連れの真田と、仙台支社の村上は22時過ぎには部屋に戻り、そのほかは1番広い俺と米山と竹内の部屋に移動してルームサービスを頼み、小声でしか話せないような仕事の深い話をした。
スズのことが気になりながらも、どこか妙に明日には機嫌が直ってる自信があった。
あんな風に怒るスズが可愛い。
寝る前にはそれを思い出して
ニヤけたくらいた。
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