スノボ旅行⑤スノボ離脱
午後の部、開始
「あとで代わってやるから朝霧」
竹内涼真もどきはそう言って、静香の手をとりリフト乗り場へ行った。
スズがあからさま、竹内に行かないでと言わんばかり。
「スズ…俺じゃ嫌?」
「えぇ?!そんなわけないじゃん!」
「じゃあいいじゃん…」
「だって…」
これは初めて見た。
照れ照れのもじもじじゃない。
困ったもじもじ。
「だってこーきも滑りたいでしょ?!」
可愛すぎるだろおい。
俺のこと考えてたのか。
スズと遊んでる方がいいに決まってるだろ。
「スズが上手になったら一緒に滑るし」
「でも…!」
「スズと遊びたいし」
ときめかないでくれ。
撫でても分厚いグローブで感触がない。
抱きしめたらどうだ。
ギュッ
やっぱり感触がない、ウエアの上からだと。
「ごわごわする~」
「な、変な感じだな」
あーー可愛い
撫で撫で
「よし頑張る!教えて下さいコーチ!」
よろよろぷるぷる
立ち上がっては
「キャッ!」
ドスっ
「もぉ!出来ない!」
何度も転んで立ち上がって
「お!そのままそのまま!」
「わ!うそ!怖い!」
ドスッ!
「ん?」
あ、わかった。
ごめん、やっと気付いた。
「スズ…」
初めてスノボをしたとき、転ぶのに手をついてはいけないと教えられ、それでもやっぱり始めは反射的に手が出て手首が痛かった。
でもスズはほんの少しも手をつかない。
「ごめん、気付かなかった」
シューッといい感じに滑って「お!いいね!」と思ってもスズはすぐ転ぶ。
まるで滑るのを拒否するみたいに。
手を守るように。
咄嗟に手が出てしまうのが怖いんじゃないか。
手を怪我するなんて、ピアニストなのに。
「手…つけないよな」
ハッと顔を上げたスズ。
「あ、言われてみればそうだね」
え?
「そっかそうだ!
だから転ぶの怖かったのかも!
なんか変だなって思ってたの!」
気付いてなかった?
「じゃあ無意識に手を守ってたんだな」
「そうかも!」アハハハハハ
スズが笑い出す。
なんだか可笑しかった。
なぜか二人で大笑いだった。
「雪だるまでも作るか」
「うん!
あ…こーき滑ってきていいよ!
私この辺で遊んでるから!」
「あとで静香と竹内に代わってもらうから
気を使わなくていい」
「でも…」
「静香お姉ちゃんに甘えてやって」
「いいのかな…」
「静香はそっちの方が喜ぶ」
「うん!」
板を返却して、俺とスズは広場で遊ぶことにした。
両手で雪の塊を作り、ゲレンデに流れる冬の定番ソングを口ずさむ。
「こーきとカラオケ行ったことないね」
「スズ何歌う?トリセツ?」
「忘れて!あれは杏奈が勝手に送ったの!」
「めっちゃ喜んだけど、俺」
「そ…そうなの?」
「うん」
ニターーと笑う顔は可愛い。
「可愛い」
撫で撫で
「もぉやめて!恥ずかしい!」
我慢できる自信ないから今はいいんだけど
「スズ、高校卒業したらどっか旅行しような
二人で、スズの行きたいとこでいいから」
「じゃあどこでもいいから…」
「え、行きたいとこない?」
真っ赤な顔がうつむく。
「一緒に寝て一緒に起きたい…」
可愛すぎて泣きそうなんですけど。
「それまでに腹筋して痩せるね!」
「や…全然そんな…」
「大丈夫だから!
その頃にはもう怖くないと思うから!」
「スズ」
真っ赤にうつむく頬を撫でると、スズはくるっとむこうを向いてしまった。
「気にしないでいいから
今のままで俺はじゅうぶんだよ」
本心なんだけどな。
「あ!あれしたい!」
顔真っ赤なスズが指した先。
大きな浮き輪みたいなソリやバナナボートみたいなソリが見えた。
海かここは。
でもあれなら手をついて倒れることもないし、よっぽどのことがないと突き指もしないだろう。
「うん、あれならいいかも」
なんて思ったのが間違いだった。
「じゃあ私が前ね」
スズが浮き輪の前に乗る。
その後ろに俺が乗る。
性欲封印中の俺にはつらいこの後ろハグ。
スズの手は無事かも知れないけど俺の理性は傷だらけ。
後ろから見るこの角度のスズは妙に色っぽいんだ。
分厚いウエアな事が救いだ。
これが薄着だったら間違いなく手を突っ込んでその意外と細い腰やすべすべのお腹を触りたいしなによりあれだいい具合の大きさと弾力と汗ばみ具合のあれを知ってしまったこの手が我慢できるはずないそれに加えてあの表情にあの甘すぎる声
あーーー!思い出すな俺!!
「しゅっぱーつ!」
ビューーーン!
「キャーー!」
こなぁぁぁゆきぃねぇこぉこぉろぉまぁでしぃろくそぉめらぁれたぁならぁあぁぁあ
滑り降りることにより、冷たい風が顔面に吹きつけ、俺は理性を取り戻した。
それを何度か滑って
「あーー喉かわいた!意外と暑いね!」
満面の笑み。
「何か飲み行こうか」
「うん!」
スズは手袋を外す。
「冷たくない?」
「繋ぎたい」エヘヘ
なんて可愛いんだ。
だから俺も手袋を外し、スズの手を握った。
すぐそこのラウンジまで。
「あ、そういえばさっきね」
「ん?」
「真田さんにミニソフトパフェ買ってもらった」
「そっか」
ケチなくせに俺の彼女にちゃんと買ってくれたのか
よかった、そこまで腐ってなくて。
「マドカさんがね
なんでもかんでも言わないでいいって。
普通は隠し事くらいあるから。
こーきには隠し事あるはずだって」
「は?」
「でね、真田さんがね
こーきは東京に彼女が8人いるって」
「いねーわ」
「今はいなくても前は8人彼女いたの?」
うっぜーなあいつら…
「8人はウソかな…」
「じゃあ何人?隠し事ってなに?」
でも素直に何でも言ってくれて助かるなこれ。
そうとは知らず、俺のいないとこで地味にいじめやがって。
忠犬スズポメ
「隠し事はない。
うん、絶対ない自信ある。
彼女として付き合ったのは
中学からカウントしてたぶん5人くらい。
付き合ってなくて遊んでた人はごめん
数えたことないしわからない」
「わかった!」
「え、わかってくれた?」
「でも今は私のことが一番好きでしょ?
ちょっと自信あるんですけど〜」ニヒヒ
やば…
「こーき寒い?耳赤いよ」
「や…何でもねえ!」
「ギュってしてあげてもいいよ
あっためてあげよっか〜」
なんだそのドヤ顔!
なんでいきなり上から目線!
今のよかったーー!
ギャップーー!
「キャッ!ちょっと待って!」
「いや無理今すぐ」
「歩きにくい!転ぶ!」
チュッ
「もぉ!」
チュッ
ゲレンデの魔法
いちゃこきたくて仕方ない。
目線が何も気にならない。
青井本部長
いやお父様
ごめんなさい
無理です
何もしないから一緒に眠らせて下さい。
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