スノボ旅行④静香のヤキモチ

板に両足固定されたスズの可愛さときたら。


「スズこっち向いて」

「もぉ!写真撮ってないで助けてよ!」

「そんなわけにいかないだろ

 お父さんにラインしなきゃ」


初心者の練習場で特訓中。


ゲレンデのスズ



可愛さ1000000倍。




「ほら」

手を引っ張って立たせると、スズは恨めしそうに睨む。

睨むのも可愛すぎるんだけど。


「スズの運動神経じゃ

 今日はここで終わりそうだな」

「ぶーーー」

ふくれるのが可愛い。

ふくれさせたくてそんなこと言っちゃう。


ほかのやつらは一回だけ初心者広場で滑って、早々とコースに行ってしまった。

久しぶりとはいえすぐに感覚は取り戻せる。


「絶対滑れな~い!」


膨らました頬をつつくと、スズはつついたその手を握って笑う。


「もぉお腹空いた〜」

「だな」

「担々麺とか食べたい」

「いいなそれ」


担々麺なかったら訴えてやる!


↑モンペ予備軍


「スズちゃん朝霧!お昼行こうぜ!」


とびきりな笑顔。

ウィンタースポーツ楽しんでますな米山が呼びに来た。

「どう?上達した?」

コメントは差し控えます。

「スズちゃん何食べたい?

 レストラン結構色々あるよ~

 お子様ランチもあるし」

「スズ座って」

スズの足から板を外す。


「米山さん…」

「ん?」


「午後から私にスノボ教えて下さい!」


「「……は?」」


え…俺のコーチにご不満?


「や、全然いいけど俺ほら

 なんの取り留めもない数合わせなキャラだからさ」


あー…地味にショックなんだけど。




「俺に任せろ!」


え?


背後から突如現れた声。



「午後は俺様が指導してやろうじゃないか!」



ワハハハハハ



「竹内じゃ~ん!」

「突然湧いて出るな!」



「初めましてスズちゃん

 大阪支社の竹内亮です」



「ハジメマシテ!

 青井スズです!よろしくお願いします!」



「かーわいいーーーー!」



「お前一人?」

「平井は?」

「あっち、静香ちゃん達のとこ行った」

竹内が向けた視線の先、レストハウスの前に女子チームと合流した平井早苗が見えた。

この女は静香が最も嫌っているやつで、なんというか、仕事はまぁ出来るし頼りにもなるやつなんだけど


すっげーー女を武器にする。


大概のハゲはこれにやられる。



ただ俺的には、同期にその素性を晒している開き直り具合はわりと好きなんだけど。

まぁ身体差し出せばさすがに無しだけど。


女を武器にせず成績を残す静香からしたら、嫌なタイプだろうと思う。

その辺の不一致が二人は合わない。

さっぱりした静香と女を見せる平井。


俺はどちらのタイプでも、仕事に情熱的だから二人とも好きだけど。


「さ、行こうお嬢さん」

「キャ!」

「触んな、なにしてんだよ」

「お前ばっかりズルい!

 大阪にもウワサはとどいてるぞ!

 可愛いJKが

 会社の前でお前のこと待ってたらしいな!」

「誰がそんなこと言ったんだよ!」

「下田が大阪来たとき言ってた

 朝霧がとうとうJK飼い始めたって」

「あいつ…!」


板を二枚抱えると、竹内はめげずにスズの手を取る。


「おい」

「いいじゃんいいじゃん

 JKの肌質感じさせてよ」

こいつはこのノリだから大して心配はしてない。



だってこいつが長年思いを寄せてるのは



「あ、竹内久しぶり~」



「静香ちゃ〜ん♡」



静香だから。


冗談に見せかけたハート。



「ちょっと~

 私のスズちゃんに触んないでよ~」

「え、静香のなの?」

「朝霧の物は私の物よ」

「さすがジャイ子ちゃん♡んー♡」

「ギャー!」

わざとらしい尖らせた口に、静香はお約束で反応して

二人は大笑いする。

冗談ばかりだから入社してこのかた竹内の思いは一方通行。


そして面倒なのが、静香は社内恋愛が視野にない。


竹内は残念ながら



恋愛対象外。



出会った初めのオリエンテーションで、一目惚れした竹内の恋は始まることさえありえなかった。

出会いが会社じゃなければどうにかなったかもしれないのに。



「スズ、大丈夫

 あいつは冗談だけだから」

「じゃあノっていいの?」

「うん」

「そっか、ビックリしちゃった」


「わかる?」


じゃれあう静香と竹内にスズの視線が向く。



「あの人、いい人なの?」


「うん、頼りになるやつ」



「そっか、じゃあ安心だね」



スズが笑う。




「静香さん嬉しそうだね」



「そう見える?」



「うん!」



本人は自覚してないけどスズと一緒。


竹内の前では犬みたいになるんだけどな。





シェパード







.


広いレストハウス。


担々麺は黒ごまバージョンと白ごまバージョンと汁無しの取りそろえ。


なかなかやるな


と思ったのに、スズは目移りしまくった挙げ句、食べたいものが彷徨い迷走。



「え、ここ原宿?」笑

東京在住の山崎恋花がスズのトレーを見て笑った。

「チョイスが可愛いーー」←竹内

「なんでそうきたのに角寿司なんだ…」←真田

流行のチーズドッグにやたら長いポテト。

それにタピオカミルクティー。

そしてなぜか四角に押された寿司。

ばあちゃんが元気だった頃作ってくれてた記憶がある。

「スズ、ほら一緒に食べよう」

小さな子供用の椀に白ごま担々麺を少し注ぎ分け、やたら長いポテトを1つ取った。

「リア充な朝霧ってなんかヤダ」

「わかる、なんでだろうな」

「うっせえな」

「恋のパワーか知らないけど

 地味なファイリング作業もはりきっちゃうの

 最近のこの人」

「まじで…」

「恋のパワー怖い」

「静香」

色々ばらすな。


「でもなんか~

 太りそうなメニュー

 あたしそんなの食べれないな~」


平井さなえはそう言ってサラダを食べる。

こんなとこまで来て葉っぱ食わなくても、普段家でちゃんと食べてるから好きな物食べていいように思うけど。

「スズ、そのチーズのやつ一口ちょうだい」

「うん!めちゃウマだよ!」

ガブリ

「わ、ウマ…」

「静香さんは?一口いる?」

「朝霧が食べる前に欲しかったわ…」


「じゃあ静香ちゃん!

 おいらが買ってくるから食べよう!」

竹内必死のアピール。

「や、別にいい

 駅地下のお店にもあったし」

「しどい…」

こないだ別れた製薬会社のMRをひきずってるのか、竹内のことは本当にただの同僚なのか。

人の恋路はまったく察せないし、静香の言うとおり俺は女心偏差値は低いと思う。


「あ!じゃあポテトあげる!

 竹内涼真さんと半分こして!」

「その間違いは竹内涼真にだいぶ失礼」

「よく言われる、似てるって」

「名前がだろ」


やたら長いポテトをスズは静香に一本渡し、静香は仕方なさそうにそれを半分にして竹内にやった。


「はい…半分こ」


嬉しさ隠せてない竹内はそれを受け取り

ガブガブガブ

「やだ、そんな勢いで食べないでよ」

「うまい!」

アハハハハ


なかなかグッジョブだスズ。


そんな昼ご飯が終わると、熊本から小沢が、仙台から村上とその彼女が到着した。


「青井スズです!」


おりこうにご挨拶をするスズ。


「え、マジで!」

「うわ~可愛い~」

「もっと卑しい感じの

 雌豚みたいの連れてくるかと思ったのに!」

「え、ブタ?」



「違うよスズちゃん」



俺を差し置いて、天使を装った微笑みでスズをよしよししたのは


「可愛いって事よ」


真田の彼女だった。


にこやかに、みんないいお姉ちゃん出来たみたいだね、みたいな空気で。


「マドカ、俺あっちでコーヒー飲んでるから」

「え、私も行く

 スズちゃんも行こう?」

「え…でも」

「真田くん、スズちゃんにもジュースね」

「はぁ?朝霧に買って貰えや」

「いいじゃない、行こうスズちゃん

 好きなの買って貰いなよ~」

お前の目的はなんなんだ。

なんか連れて行かれてしまったスズ。

「早速仲良くなってんだ~」←今来た仙台の人

「真田の彼女?感じいいな」←今来た熊本の人

「あ、こちら俺の彼女」

「どうも~」

「賑わし役の数あわせのカップルなので

 皆さん背景として捉えといて下さい」

「作者なんてこと言うんだ!」

「ヒドい!」




メラメラメラメラ



「うぉ…!」

「あっちぃな!」


その傍らでゴーゴー燃えさかる人がいた。


「ヤバい!スーパーサイヤ人になっとる!」

「なんだ!何があったんだ!」

「いきなり燃えるな!」


静香が怒りの炎を燃え上がらせていた。


「あったけ~」

「おい誰か芋持ってこい!」

ギャハハハハハ

炎にあたって大笑いする人たち。


だけど俺にはわかった。

静香がいきなり何に怒ったのか。


「朝霧くんなんか嬉しそう?笑ってるよ」

「え…!」

ニヤニヤと人の顔をのぞき込んでくる山崎恋花。

「なんかやだ…」ハァ

その横で平井さなえがなぜかため息。


「静香がお姉ちゃんポジションとられて

 ヤキモチ妬いたから嬉しかったんだよね?」

「違…!」

「はいはい」


「さなえ」

山崎が平井さなえを慰めるように撫でる。

「諦めなよ」

「無理…」

「きっと見てたらわかるよ

 私たった2時間でわかったもん

 入り込む隙なんてないよ」

ハァァァ

盛大にため息をついた。



「別人みたいだよね

 こんな優しい顔するなんて知らなかったね」



え、なにが?



炎を消しに?外に出て行った静香と、いきなりふて腐れて出て行った平井さなえ。


よくわからないが確かに俺は、静香が明らかにスズをとられ、お姉さんぶられて妬いたから、



なんだか嬉しかった。

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