別れた理由

「もぉーーー…!

 なんなのよあんた!みこそなったわよ!」


「見損なった、ですよ静香さん」


泣いたと思ったら静香は怒り出した。



「スズちゃんはあんたに嫌われたと思ってる!

 なんでちゃんとキスしてあげなかったの!

 不安にさせるから簡単に騙されるんでしょ!」


「騙されるって何だよ…」



「友達に…

 やれない彼女なんて好きじゃ無いって言われて

 だからスズちゃんあんたに嫌われたと思って…」


友達?



「我慢して最後まですればよかったって

 変な後悔してるわよ!」



「は…?」



なんだよそれ…



「好きだからやらねえんだろ!」

「それを言わないからこんな事になるんでしょ!

 あんたに言えなくて…1人で抱え込んじゃって…」

「だから思ったことは言えって言ってるのに…」

「言えるわけないでしょ!バッカじゃないの!!

 彼氏に一番言えないわよこんな事!

 ホントあんた女の子の気持ちわかんないわね!

 ドン引くわ!マジでいっぺん死ね!」

「ちょ!やめろ!」

「静香さん落ち着いて下さい!

 首締めたらアウトですよ!逮捕されますよ!」


「聖奈ちゃんのこともよ!」


「聖奈…?

 なんで聖奈が出てくるんだよ」


「血も涙もなくふってやれば良かったのに

 変な優しさ見せるからこんな事になるのよ!

 聖奈ちゃんはあんたから

 その優しさと本気度が欲しかったのに

 それを今カノに対してちらつかせるから…

 自分が欲しかった物を貰ってる別の女なんて

 面白くないに決まってるでしょ!

 あんたは自分に酔ってただけよ!

 スズちゃんを思うなら…聖奈ちゃんのためにも…

 冷徹な男でよかったのよ!あほんだら!!」

「聖奈…来たのか?」

「聖奈ちゃんが悪いんじゃ無いから

 勘違いするんじゃないわよ!

 元を辿れば全部ね…」




「スズちゃんを不安にさせたあんたが悪い!

 この一択しかない!地獄に落ちろ!

 地獄に落ちて閻魔様にピー引っこ抜かれろ!」




あまりの剣幕にオフィスは静かだった。


静香は怒りの息を吐き捨て、カツカツとヒールを鳴らし出て行った。




「なんかわからんがお前が悪いな」

「部長…」

「静香ちゃんごもっともなことしか言ってなかった」

「花田さん…」

「まだ少し時間ありますね、田中工業のお接待まで」

下田が腕時計を見る。


「余田、朝霧が戻るまでフォローしてやって」


「へ?」



「田中工業より瑞葉コーポレーションの方がデカい」



「部長命令ですか?」

「部長命令だ」

「はーい」


「朝霧」

「はい…」



「さっさと行ってこい!」



「はい!すみません!」



「ったく…

 部署巻き込まないと恋愛もできんのか」





.



俺はオフィスを飛び出した。


スズはどこだ。


家?学校?

それとも友達と遊んでる?


エレベーターを待ってられなくて階段を駆け下り


「あ、あんたあんたエネ開の人だよね」


警備室のじいさんに呼び止められた。

急ぐ足が軽くテンパる。


「車どかしてくれる?

 ほらあの気立てのいいお嬢さん居るでしょ

 えーらい慌てて車降りてってね~

 今内線掛けようかってしよったわ」


ド正面に車。


「あ、すみませんすぐ動かします」


じいさんのお陰でちょっと冷静になった。


車を正面玄関から出し、左折左折左折でぐるっと回って社の裏の駐車場へ。

右折では出れないから非常に面倒くさい。


あの剣幕で帰って来たって事は、スズと話して怒り最高潮で正面玄関にツッコんだ。

てことは馬由が浜までは送ってないだろう。


あの距離を往復したらその内に鎮火して、あの剣幕では帰ってこない。



スズはまだこっちにいる?



車を置いて走った。



真冬の二月とはいえ、駅まで全速力で走れば暑くなった。

だけど指先は冷たいし頬が冷たいのもわかる。


息が切れる。



駅は学校帰りの高校生であふれていた。

ちょうどそんな時間

マリアの制服を着た子も沢山いる。


人を縫い

スズを探した。



もうホームに入ってしまったのか


それともここには来てないのか




「あ、朝霧さんだ」



「え?」



マリアの制服の女の子たちが4人、俺のことを知ってるみたいだ。

クラスの子か?


「私、スズと同じクラスの木下典子です」

「あ…あぁ!キノコ!」

「そうです!」


「スズは?!」


「スズさっき

 女の人と話してたら大泣きしちゃって」

静香だ。

「杏奈と一緒に杏奈の彼氏の家に行きました」

「あぁ…タケル」

「そうです」

「そっか…タケルんちか」

どうしよう家どこだよ

あんま時間ねえ。


「杏奈に連絡しましょうか?」


とことん人頼み。

人を頼らないと何も出来ない。


「スズに連絡できない感じ?なんですよね?」


「ごめんお願い!」


キノコ、よし覚えた。

いいヤツだな。

ソフト部だったよな

打ちそうな腕っ節だ

力じゃ負けそうだ。


スズの回りはいい人ばかりだ。


愛されてるんだろうな。



「朝霧さん…杏奈です」


怖ず怖ずとスマホを差し出したキノコ。


「もしもし」


『朝霧さん?!』


また怒られるのか…


『なんですぐ会いに来てくれなかったんですか!

 おかしいと思ったんですよ!

 全然会ってないっぽかったし!』

『杏奈将軍おちついて!』

『だから言ったでしょ!完全無知だって!』

「はい…」

『純粋でなんでも素直に信じちゃうんです!

 人に吹き込まれることも!

 キスしてくれなかったことも!

 抱きしめ方がいつもと違うのも!』


え…?


我慢する自信がなくてキスはできなかった。

抱きしめてしまうと、次はキスしたくなる。


躊躇ってしまったあの腕の力を


スズは素直に


拒否だと受け取ったのか。



「ごめん…杏奈ちゃんありがとう」

『誓って下さい!

 もう絶対スズのこと泣かさないで!』


「絶対…泣かしません誓います」


杏奈ちゃんのすすり泣く音をスマホが拾う。



『もしもし』

「あ、タケル?」

『うち、駅から裏の方です』

「うんごめん、行っていい?」

『駅裏の柚木タクシーわかりますか?

 大きいとこ』

「あぁうん」

『そこから左に登って突き当たりを右

 そしたらわかります

 一軒だけ豪邸ありますから』

「オッケ、豪邸な」

タケルが家を教えてくれた。



余田さんごめんなさい




少し遅れます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る