待ち伏せする人

「スズもうすぐじゃんね~旅行」

「いいな~彼氏とスノボ」

「え、スキーじゃないの?」

「どっちでもいいじゃん雪滑れば」

「スズはソリの方がいいんじゃない」アハハ


ここ最近はすぐその話しになる。


「ウエアとか買ったん?」

「広島か~いいな」

「彼氏と2泊か~」

「でも会社の人もいるって緊張だよね」

「てかそれが凄いよね!会社の人と旅行とか!」



言わなきゃ



終わったんだって。



「広島か~」

「でもできればもっと遠くに行きたかったね」


参加者が九州から4人

関東から2人

関西から2人

宮城から1人


全員の行きやすさから広島になったんだとか。


「広島のお土産って何?」

「そりゃもみじでしょ」

「あとは?」

「知らない」


どうしよ

旅行ってどたんばのキャンセル出来るのかな。

でももうこーきがキャンセルしてくれてるよね。


会おうとしてくれたのがせめてもの救いだった。


今朝、駅を出たとこでこーきを見つけた。

私を待ってたのはわかった。


こーきはキキララのメモをぼんやり見ていた。


顔を見て話す勇気はなくて、私はこーきに見つからないように駅を通り抜けた。




私はきっと手を伸ばしすぎた。

こんな私がこーきと付き合うなんて。



憧れのままでいればよかった。



たまに電車で見かけるくらいの。



何もしなければ交わることはなかったのに、私とこーきの世界は。



隣で見るこーきの横顔好きだったな。


すぅって呼んでくれるときも。


ラインに付く小さな既読って文字も。



こーきの匂いを思い出したら泣きたくなる。



「スズ、今日タケルと会うけど

 スズも一緒に行こう?」

杏奈が突然の提案。

「え、いいよ2人で遊びなよ」

「いいから」

「いいって…旅行の準備しなきゃ…」


「スズなんか買う物とかないん?

 付き合うよ~杏奈がデートならさ」

「そうそう、酢昆布とか買うでしょ」

「なんで酢昆布!」ゲラゲラ

「車旅は酢昆布でしょ!」


「買い物は…その…」


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「あ、朝霧さん?」

「そっか朝霧さんと行くよね~」


ラインは


『夕方時間あるんだけど一緒に買い物行かない?

 女同士の方がいいよね~♪

 私が可愛いの買ってあげる!』


静香さんだった。


『旅行、行けなくなりました』

送信を押す指が迷う。


こーき、言ってないのかな。

なんて返せばいいのか迷ってるうちに今日の1日が終わってしまった。


「これ出来れば来週末まで

 遅くても月末までに出すように~」

帰りのホームルームで担任はそう言いながらプリントを配る。

先頭の席から一枚って回ってくる紙。

「また来たね~、スズ決まった?」

前の席のアッコが一枚取ってその紙をくれる。



進路希望調査



「決まってない…」



進路希望はこーきのお嫁さんだった。




ホームルームが終わり、元気いっぱいになったクラス。

みんな嬉しそうに帰って行く。


「スズ行こうよタケルんち」

「んー…」

「とりあえずみんなで駅まで行こ~」

「キノコたち部活は?」

「今日は休み~」


みんなで階段を降り、ステンドグラスのカラフルな光の注ぐ生徒玄関で、上靴から革靴に履き替えた。


「マックたべた~い」

「杏奈とりあえずタケル呼び出せばいいじゃん

 みんでマック行こう」

「来るかな

 キノコの迫力怖い言ってたからな」

「なんですって!」

アハハハハハ


門までの石敷きの歩道。

右は水は出てない噴水の広場。

左に教会。

その奥に体育館があって、さらに奥が運動場。


そこを歩く沢山の生徒。


先生達が数人

「さよーならー」

「はいさようなら」

わざわざお見送りをする。


赤いレンガの門柱を通り過ぎると


「誰かのママ?」

「え、お姉さんでしょ」

「美人~」


右に曲がる私たちと反対側。

生徒達がザワッとしてたから、私たちもなんとなく振り向いた。




「スズちゃん!」




「え?」

「スズの知り合い?」




意図せず



涙があふれた。




「えぇ?!スズどうした?!」

「ちょっとスズ?!」



「スズ」



杏奈が背中をさする。



「静香さんに話し聞いてもらいなよ」



気付いてた…?



「行こう」


杏奈が私の手を引く。


「静香さん…ですよね?

 一度喫茶店でお会いした」

「杏奈ちゃんね~覚えてるよ」

「スズのことお願いします」

「やっぱり何かあったんだ」

「私じゃ…朝霧さんのことはわからなくて」

「それは仕方ないよ

 スズちゃんのこと心配だったんだね~」


静香さんがポンと杏奈の頭を撫でた。


「任せて」


杏奈が鼻をすすってうつむいた。




「スズちゃん乗って、会社の車だけど」



立ち食いのうどん屋さんへ行ったとき、会社の裏で待ってたらこの車でこーきと静香さんは帰ってきた。

白い普通の車。



「よしよし、ツラいのね」



泣くのは止められなかった。



「だからライン教えたのに

 なんかあった?」



「や…なの…」


「うん」



「別れたく…ない…!」



静香さんはいい匂いがする。


貸してくれたハンカチも、よしよしって抱きしめて撫でてくれた手も。





こーきのこと


大事なんだろうなって思った。



だって最後まで



痛そうな顔で私の話を聞いてくれた。

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