お呼ばれ②キスする場所

「ま、下げるのも手伝ってくれるのね」


お父さんもこーきも食卓を片付けるのを手伝った。

うちのお父さんは絶対にやらないのに。

偉いな~。


私は一緒にお皿洗いしたい。

私がスポンジでやってこーきがすすぐの。

そんで『これ落ちてない』って返されて、『うそだ~ちゃんと洗ったよ~』とか言ってさ。

『罰金』とか言ってチュってするの。


あれ


今日チューしなかったな結局。


「お母さんチーズケーキは?」

「焼いたわよ

 こうくん昔からこれが好きなんだもんね」

「別に」

「何個でも食べちゃうのよ~」

「へ~そうなんですか

 そんなに美味しいんだ!楽しみ!」

「こうくん紅茶にする?」

「アイスティー

 スズもアイスティーがいいだろ?」

「うん!」


片付けが終わりティータイム。


「アリシュ~ふわふわだね~」

「あ、スズ制服毛だらけじゃん」

「うわ!」

「帰りにブラシ掛けてやんなさい光輝」

「うん」


「ね、あれ写真?見ていい?」


「あぁ、いいよ」


テレビの並びにたくさん飾ってあった。


「うわ!これこーき?!」

「可愛いだろ」

「めっちゃ可愛いーー!」

「これお父さん、格好いいだろ」

「ひっこんでろ親父」

「お父さん若い!

 え、待って…これお母さんだよね」

「うん」

「すごーい!美人ーー!」

こーきってお母さんに似てる。


「光輝と同じくらいの年だなこれは」

「そっくり!」


お上品で美人なお母さん。

若いときもすごく美人。


「お母さんはね、バスガイドさんだったんだ」

「バスガイドさん?」

「親父が一目惚れして口説いたんだって

 社内でよくやるよな」


「すごい…!」


「光輝とスズちゃんは…

 不思議だったんだけどなんで出会った?

 まさかお前変なサイトで…!」

「んなわけないだろ」



「お茶はいりましたよ」



わーい!


「え!これ手作り?!お店みたい!」

「まぁまぁ美味いと思うから食ってみ」

パクりッ!

「うわぁ~…!美味しい!」

「だろ?」

「ま…まぁこうくんが好きだから

 手間なんだけどよく作るわよ」

「すごい!こーきのお母さんすごい!」

「ま…まぁそんなことないわよ」


「凄くはない」


え?



「おい、アイスティー二つ、つったよな?」



「え…そうだったかしら」

「私熱いのでも全然いいです!」

「ほら、いいって」

私の前に置かれたのはほっかほかの紅茶。

熱そう。


「ったく…スズ、いいからこっち飲め」


「ちょっと…なんでこうくんが飲むのよ!」

「お前いい加減にしろよ…!」

「な…何がよ、やぁね」

「あ、お父さんが熱いのもらうよ

 熱いの飲みたかったし」

「じゃあスズ、これ半分こして飲もう」

「こうくん!もう一個入れてくるわよ!」


「いいです

 2人で飲みますから」


「ほら、もういいじゃないか

 お母さんも座って

 で?さっきの続き、なんで光輝と?」

「いいだろそんなの

 変な出会い系とかじゃないから」

「だってどうやって女子高生と出会うんだ」

「変なことしてねえから」


「私がこーきのこと大好きになって…

 会社の前で待ち伏せして

 しつこく付きまとったんです!」


「「え?」」


「最初は電車で痴漢に間違われて」

「光輝お前…!」

「してねえし!誤解!」

「それから2度目に会ったときは

 満員の電車で助けてくれて…

 それで私が好きになっちゃったんです

 でもこーき全然相手にしてくれなくて」

「スズ、全部喋んなくていいから」


「そうかそうか

 いやよかった、スズちゃんが頑張ってくれて」


こーきがちょっとだけ笑ってぽんぽんって撫でる。


「光輝がこんな…」

「親父マジやめろ」

「お兄ちゃんになったな光輝…!」

「うっせーわ」


チーズケーキも美味しくて、お父さんもお母さんも優しい。


「こうくんチーズケーキ持って帰る?

 余ってるわよ」

「スズ、おやつに持って帰れよ」

「や…こうくんに…!」

「いいの?嬉しい!

 お母さんにも食べさてあげたい!」

「そ…そう?じゃあ包みましょうか」

「ありがとうございます!」


優しいな


包んでくれたナプキンはお母さんが好きな薔薇の柄だった。


「じゃ、送ってくるから」


「スズちゃんまたおいでね

 今度はお姉ちゃん達もいるときに」

「はい!」

「あ、そうだお姉ちゃん達に見せよう」

お父さんはスマホを取ってきた。


「ほらくっついて」

「はい!」

こーきの腕にくっついた玄関先。

カシャ

「あー可愛い

 明日会社で見せよう、息子の彼女って」

「やめろ

 誰も興味ねえから」



「お母さんご馳走様でした!」


ちゃんとお母さんに言うように、お母さんにしつこく言われた。


「すっごく美味しかったです!」


「そ…そう?

 じゃあ今度は…」

「スズはケチャップ好きだから」

「そうなの?

 じゃあオムライスにでもしましょうか」

「やった!」


こうして初めてのこーきの家は終わった。


お部屋とか見てみたかったけど、初回でそれはダメな気がした。

こーきも私の部屋に入ったことはない。





家を出て、暗い住宅街を歩き出し


「スズ」


こーきが手を繋ぐ。


「ごめんな、疲れただろ」

「全然、楽しかったよ

 呼んでもらえて嬉しかったもん」

「そっか」


ザザーって波の音がする。


「なんかこーきの家とうち

 ちょっとだけ似てる気がした」

「そ?」

「うん、お母さんがご飯作って

 お掃除して飾り付けてる感じした」

「あぁ、そうかもな」


日の落ちた海岸沿い

大きな月が海に浮かぶ。

あまり歩いたことのない赤瀬浦。


「こーきこの辺で遊んでた?」

「うん、その先の丸公園知ってる?

 丸く柵で囲ってあるとこ

 滑り台とブランコだけしかない」

「丸公園っていうの?

 馬由が浜には四角公園あるよ」

「あぁ、中学校の近く?」

「うん」

「懐かしいな」


同じ時を過ごしたわけじゃない私たち。

だけど同じ場所ですごしてた私たち。


不思議。


「あ、ここだよ

 前に話した砂浜」


そこは通り過ぎてしまうほどの小さな砂浜。

道からは見えない。


「こんなとこにあったんだ」


塀からのぞき込んだらわかるけど、綺麗な砂がホントに少しだけ。

岩場がいい具合に視線を遮っているホントにプライベートビーチみたいな感じだった。

「いいね!」

「夏行こうな」

「絶対行く!」

可愛い水着買わなきゃ!

痩せなきゃ!


「ちょっと下りてみる?」

「いいの?」

「ちょっとだけな」

時計を見てこーきが言う。


海風が冷たい海岸


こーきはギュッと手を握る。



「うわ~綺麗!」


「砂を最初に見るとこが海育ちだな」


ついうっかり砂すくってた。


「絶対夏来ようね!」

「スズ泳げるのか」

「泳げるよ失礼な!」


小さなビーチに大きな月。


「綺麗だね」


「可愛い…」



え?



髪を撫でたこーきの手が頬を撫で

ギュッと背中に回った。



「いい子見つけちゃったな俺」

「え?なに急に」



月明かりに照らされ

見つめ合った目と目



こーきはやっぱり



おでこにキスをした。




「さ、帰るか」


「うん…」



「お父さんいるよな?」

「うん」



「一杯飲ませて欲しいな

 お礼言いたい」



「なんの?」




こーきは答えなかった。


ただ笑って、もう一度キスをした。





私の手の甲に。

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