ご褒美は?
「右手でお箸を取り、左手を軽く添え
右手をくるり返して箸を握ります」
食堂のプラスチックのお箸を、キノコはお上品に取って見せた。
ソフト部でベリーショート、こんがり焼けた肌にたくましい腕。
豪快に笑うすこぶる明るく大雑把なキノコは、こう見えて家は名家。キノコ以外の家族はオホホって雰囲気。
そんな家で育ったキノコら茶道もお花も出来るし、三味線も弾ける。
「すご~い、綺麗」
「スズ、お茶碗は持つだんよ」
「わかってる
お母さんに100回は言われたよ」
「スズがお茶碗持ってるの見た事ないかも」
「だって指が疲れるんだもん」
「でもさ」
杏奈が日替わりランチのプチトマトに、ブスッとフォークを刺し、それをそのまま私の口に押し込んだ。
「自分で食べなよ」モグモグ
「とっくにイチャこいてご飯食べたんなら
もうお行儀とかいいじゃないの」
今日は木曜日。
あれから4日経って、こーきは今日お休みだった。
だからお呼ばれされてしまった。
朝霧家のお夕飯に。
「あんま緊張してないね」
「うん、だってお父さんもお母さんも優しいし」
「そういう問題?」
「もう反対もされてないし」
「だからそういう問題?」
「ポジティブ鈍感なのはスズのいいとこだよね~」
「「だね~」」」
え、どういう事?褒められた?
「えへへ、ありがと」
「「「……」」」
「さ、5時限目」
「体育だ、着替えよ」
「満腹なのに体育」
「ちょっと待ってよ~」
さっさと行ってしまったみんなを追いかけた。
なんだか楽しみだった。
緊張もそりゃ少しはあるけど、どんなお家なんだろ~って、こーきが子供の頃を過ごしたお家。
ウサギのアリスちゃんも会ってみたいし、手作りのチーズケーキも気になる。
お父さんとお母さんとお姉さんたちに
仲良くしてもらいたい。
だってそっちの方がいいでしょ?
私はこーきがお父さんとお酒飲んでるの、結構好きだったりする。
放課後、こーきの家に向かった。
休みでも結局仕事に行くこーきから、『帰ります』ってラインが来たのはホームルームが終わった頃だった。
マンションの鍵を開けながらワクワク。
こーきがいる~
こーきに会える~
なんでこんなに好きなんだろ~
エレベーターが18階に到着した頃には笑った顔が戻せなくなった。
玄関の前で、扉の装飾の金のとこで鏡チェック。
前髪をサララと整え。制服のコートのポケットからほんのり色づくリップを出して塗り塗り。
よしオッケー
ガチャ
「ただいま~」なんちゃって。
「あ、スズおかえり」
お帰りだって。
ムフフフフ
今帰ってきたっぽいこーきは、スーツのズボンをピンと伸ばしてハンガーに挟んでるとこだった。
デニムにベージュのロンT。
足元にグシャッと置かれてるのは家着のボーダー。
それを紙袋に入れ、こーきはマウンテンパーカーをハンガーから取った。
「こーき」
「ん?」
「じゃーん!」
今日はこれも見せなきゃいけなかった。
「お、成績表だ」
そう、冬休み明け最初の実力テストの成績が出た。
こーきがわくわくで私の手から紙を取ろうとする。
「もう一個あるよ!」
もう一枚同じのをパッと出すと、こーきは一瞬驚いて、でも名前を見てすぐに笑った。
「どれどれ」
岡田杏奈から手に取った。
BAABA
「やるじゃん」
「理科がAなの初めてだって
ちょー感謝してたよ!」
「文系強えな杏奈ちゃんは」
「英語やりたいんだって」
「大学?」
「留学もしたいって」
「じゃあ今度から杏奈ちゃんとは英会話にしよ」
「英語の後で日本語つけてね」
「同じ事二回言わせる気?」
「うん!」
「期末は数学中心でやるか」
また教えてくれるの?
「ん?どうした?」
ニヤニヤしちゃう。
「じゃあ次は私の!」
こーきは私の頭をポンと撫で、私の成績表を
「見ます」
「お願いします」
ペラリ
AABBA
なんとも微妙な反応。
「やっぱ英語がダメ?」
「はい」
「数学は満点近いじゃん」
「でしょ!すごいでしょ!」
「国語はギリのAか」
「はい…」
「スズは意外と理数だもんな」
え、私理数系なの?
高2の終わりで初めて知った事実。
「数学解くほうが楽しいだろ?」
「うん!
文章読んでても意味分かんないんだもん!」
「じゃあスズは期末は英語と国語な」
「え…」
「ここにAを並べたくない?」
「んー…Aが三つもあるから満足!」
こーきの目がきらりと光った。
「俺が並べたいの
期末はオールAやるからな」
カッコいい…!
なにその塾講師バージョン!
「え、すぅさん?そこトキメク?
えーーって反発するとこじゃなかった?」
「じゃあオールAになったらご褒美ある?!」
「え…えーっと…それは
何か欲しいもの?あ、欲しいものあるのか!
よし何でも買ってやる!」
違うし
物じゃないし
「ね、でも実力も頑張ったよね?」
「あ…うん
数学も理科も点数いいし」
「じゃあご褒美」
杏奈の成績表は曲げたりしちゃったら困るから、こーきの手から取り上げ
ぽいっ!
抱きしめて欲しかったの
こーきの背中に手を回すと、こーきも私の背中に手を回した。
このあったかさ
この匂い
「ん?」
なんか違うくない?
「もっとギュッてやってよ~」
「あ…あぁ…うん」
腕に力が入る。
「こーき、キスは?」
「スズ…」
腕を離し肩を持って、こーきは私の顔をまじまじ見た。
早くキスして欲しかった。
だから目を閉じた。
チュッ
って
キスが落とされたのはおでこ。
「腹減った、行こう」
「え…」
えーーーーーー?!
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