両家顔合わせ③18禁の封印

「スズ、タバスコは?」

「んーっとね、4滴!」


小瓶を渡そうとしたら、スズはそれが降りかかるのを待った。

ポタポタポタポタ

「はい、4滴」

「おいしそ~」


無事に両家からお許しが出て、やっとスズに笑顔が戻った。



パクッ


俺の手から直食べ


からの


びろーーんと伸びて落ちそうなチーズを指ですくい取るとこれまた


パクッ


「美味しい~」


可愛い

可愛いんだけどさ


無事に許されたと言っても


視線が痛いことに変わりは無い。



うちの母親の好き好き病はいい。

勝手にやってろ、知らん。

だけどほら、許してくれても青井本部長には目に入れても痛くない可愛いスズなんだからさ…


「やぁねすずちゃん

 スミマセン光輝くんが優しいから甘えてばかりで」

「な…仲良くて…何よりですね…」

顔引きつってんぞ。


お母さんはわかってるんだろうな



『受け入れてあげてくれませんか』



申し訳ない。




「すずさんは…その学校はどちら?」


お、頑張ってんのか?

微笑めてないけどな。


「マリア」

「こうくんに聞いてないわよ」

「スズちゃんはピアノやってるんだよな?」

「うん」

なぜか母親が俺を睨む。

「なんだよ」

「なんでもないわよ!」

↑知ってる風にこうくんが答えると面白くない

「最近は光輝くんが弾く機会をくれて

 課外活動が増えたんですよ」

「そ…そうなんですか?知らなかったわ…」

↑私こうくんから聞いてない

「二月にもまたあるしね、スズちゃん」

「うん」

エビの殻剥くのに夢中で生返事。

「スズ、やろっか?」

「いい」

殻が取れたら指をチュッと舐めた。

「おいし!」

「あ、スズほら貸して」

おしぼりを取ると、スズは汚れた手をこっちに差し出した。

「ベタベタする」

だからその手をおしぼりで拭いてやった。


「はい、こーき」

「あ、俺に?」

「うん!」

俺のために夢中で剥いてたのか~

可愛いやつめ~

はっ…!いかんいかん

今日のはニヤけていい食事会ではない!


「あーんして?」


や…だからさ


「スズちゃん」

「今日はえらく仲良いな」ボソッ

「や…!えっと…」

「スズちゃん困らせないの」


「ククククク…」


なんか笑い出した親父。

おい、空気読めよ。


「いや~面白い」


何が?って感じの青井家の人々。


「光輝は姉2人と年も離れてたし

 だいぶ甘やかされましてね」

「親父…余計なこと喋んなよ…」

「世話したり可愛がったり

 される方だったから面白くて」

「まぁ、そうなんですか?」

「男の子なのにリボン結ばれて

 幼稚園に入るまで

 自分でスプーン持ったことなかったよな」

「そうそう

 ご飯もお着替えも慌てて教えたんですよ」


「お兄ちゃんになったな~光輝」アハハハハハ


アハハじゃねぇし

余計な話ししやがって

親父覚えてろよ


俺がこんな性格に成長したのは、絶対それの反動だ。



「可愛い…!」キラキラキラキラ


え、そこトキメクとこ?


こんな感じで、幼少期の恥ずかしい話しをバラされたり、当たり障りない仕事の話しだったり、あとはたわいも無い会話。


お酒が入って、親父同士はちょっとフランクな接待くらいのレベルに打ち解け、母親同士は趣味の話しや、どこの野菜が綺麗で美味しいだの、こっちもやっぱり少しお酒が入って、本音は晒せないけど普通に話す分には楽しい子供のクラスのママ、くらいにはなった。





「ご馳走様でした」

「悪いね」

「いえ全然!」


支払いは俺だった。

親父が出すのかと思ってた。


「今日は本当にありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

「今度是非さっき話した小料理屋で」

「是非」

そんな挨拶をし


「あ!ねぇあれ?」

スズは道の向こうを指さす。

「あぁあれかも」

代行の車が来た。


「じゃあスズちゃん

 これからも光輝のことよろしくね」

「はい!」

「今度うちにも遊びにおいで

 光輝が休みの時にでも」

「はい!」

「お母さん、ほら光輝も好きだろ

 あのチーズケーキでも焼いたらどうだ?」

「え…えぇそうね…」


スズが笑う。

嬉しそうにニターーと。


よかった、スズが安心してくれて。



『別れる…』



あれを言われるのは痛かった。



この先もし、それを言われる日が来たら、言う日が来たら、



ヤバいな



想像しただけで寝込みそうだ。




代行が来てスズ達が先に帰っていった。


車のドアが閉まり出発すると親父は

「はぁ~~」

大きな息を吐いた。

「ごめん」

思わず出てしまった言葉。

「あ、ごめん別にそんなんじゃ…」

ふっと小さな息をつき、親父は笑って俺の肩に手を置いた。


「スズちゃんは可愛いし

 お父さんもお母さんも優しそうでよかった

 ね、お母さん」


もう表情が酷い。

面白くなさそうなぶすくれ具合。


「光輝、多少の焼き餅は仕方ない

 彼の母と彼女の父はそんなもんだ」

「いびったらマジで縁切るからな」

「お母さんそんなことしないわよ!失礼ね!」


「あ、タクシー来た」


親父が道の向こうに向かって手を挙げ、車を停める。

タクシーはUターンし、俺たちの前に停まるとドアが開いた。


「赤瀬浦まで」

そう言いながら乗り込む。


「光輝」


「ん?」


親父が微笑みからいきなり真顔になる。




「絶対手を出すなよ」




バタンとドアが閉まった。




「……」



帰ろ。



無事に解決したのやらしてないのやら。

それとこれとは別問題なのやらなんやら。


家に帰ってシャワーを浴び、もうちょっと飲みたかったからビールの缶をあけ、

グビグビグビグビ

パソコンに電源を入れ、Bluetoothスピーカーの電源を入れて、なんとなくピアノの鍵盤のドレミを押し、

グビグビグビグビ

「あーー疲れた」

スマホから音楽を飛ばし、カチカチっとパソコンでメールを開き手帳を開き


ふと


『彼女 17才』検索


んーー…違うな。


ネットからのその情報はもういい。

親の許しはもらえたから逮捕されることはないとして、俺が必要な情報はこれじゃない。



スズ



怖いのかもしれないな。



言われてみたらまだ17才。

俺にガツガツこられて嫌だと言えないのかもしれない。



『絶対手を出すなよ』



親父の声がリピートする。


「……」


机の一番下の引き出しから、コンビニの紙袋に入れたままのそれを出し、キッチンの引き出しから取ってきたビニール袋に厳重に二枚重ねで入れ、さらにガムテープでぐるぐるに巻いた。



スズ18才まで


あと





半年





解禁のその日まで



クローゼットの上の段の奥深くに




性欲とともに





封印だ!!

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