両家顔合わせ②

やっとこーきに会えるのに憂鬱だった。



「絶対汚さないでよ」

「食欲無いから大丈夫、食べない」

麻衣ちゃんにちょっとお上品でシンプルな白のニットを借りた。



何を話すんだろう



別れさせられるのかな




そんなの絶対嫌だ




「ちょっとスズ、何泣いてるの」

「だって…」

こーきは大丈夫だと言うけど、大丈夫だったらこんな話し合いなんかしないでしょ?

怒られるに決まってる。

私なんか光輝の彼女にふさわしくない。


もし反対されて別れろって事になったら




愛の逃避行しかない。






「お母さんまたあのエビグラタン食べたいわ~」

「この前若い子達とランチに行ったら

 エビドリアがあったぞ」

「え!ランチいくらなの?」

「日替わりはワンコインだけど

 エビドリアは確か780円くらいだった

 サラダとドリンク付きで」

「やす~い」


なんか頑張ってテンション上げてない?

運転するお父さんとその横のお母さん。

後ろの席でドヨヨンな私。


「すずちゃん?何食べたい?」


「いらない…」


外食なのにテンション上がらない。

エビとアボカドのピザなんて

どうでもいい



こーきはどう思ってるのかな。



反対されるような子

嫌じゃないかな



夜の景色が窓の外に流れ、瞳にじんわりと滲む街の灯り。



判決を言い渡される被告人…

ん?原告?弁護人?なんだっけ

まぁいいや

そんな気持ちでお店に着いた。


キッチンの中からイケメンコックがニコッと笑う。

「青井様、いらっしゃいませ」

お父さんってばそんなにVIPなの?

「いらっしゃってる?」

「はい」

コックは手を止めて出てきて、お店の奥へと案内してくれた。


「こちらです」

コンコン

「失礼します

 青井様いらっしゃいました」

ドアの外からそう言って、コックさんはドアを開け抑えた。


「すみませんお待たせして」

「いえとんでもない」

って会話が聞こえ、入り口でお父さんが頭下げてる後ろ、お母さんがこっそり言った。



「すずちゃん、大丈夫よ」



お母さんには何かわかるのかな。


お母さんが大丈夫よっていつも通りな顔をする。



「うん…」



部屋の中に入ると、大晦日のあの日と始業式のあの日と同じように、厳しい表情のこーきのお父さんとお母さんがいた。



怒ってる


私を見て




これはもうダメだ



って思った。



こんなに私のこと嫌なのに、頑張って付き合う意味なんかある?


付き合うのって

好きだから

好かれてるから

両思いだから



一緒にいたいと思うから



それだけだと思ってた。




ごめんなさい

もう別れるから。

こーきの彼女になるなんて図々しかった。



逃げ出したい。



こーきの顔は見れなかった。



「別れる…」



無理

こんなの無理



こーきはこんなことになって嫌な思いしてる。



私のせいでそんな思いさせたくない。



私が彼女じゃなかったら、こんなことにならないでしょ?



「スズ…?」



「もう別れるからごめんなさい!

 私……ごめんなさい!彼女じゃないから!

 勝手に好きだっただけです!

 嫌な思いさせてごめんなさい!」



私には耐えられない。


どう振る舞えばいいかもわからない。


このままこーきの彼女でいても、うちのお父さんとお母さんにも、こーきのお父さんとお母さんにも


こーきにも私にも



ツラいだけじゃん。




「じゃ!さようなら!

 お父さんお母さん帰ろう!」




「スズ!」




私の腕を引いたのは

お父さんでもお母さんでもなく




「こーき…」





光輝だった。




「朝霧さん」



お父さんの声が

どこか遠くから聞こえるような感覚


もうぐちゃぐちゃ




「どうか、許してやってくれませんか?」




ただ涙が落ちた。





「許すもなにも光輝がお嬢さんを…!

 本当に申し訳ありませんでした」


「大事に育てた娘なんです」


「それは…!

 勿論わかります、うちにも娘がいます」



「光輝くんも大事に育てれたんでしょうね

 よくわかります

 そうでなきゃ、こんないい子に育つはずが無い」


「ご苦労もおありになりましたでしょうお母さん」

「え…えぇそれは」

「大変ですよね

 うちは二人ですし上がやっと大学生で

 まだ子育ても終わってないんですけどね」


お母さんが私を撫でた。


だからこーきが手を離した。



「甘やかして育ててしまったので

 至らないとこだらけだと思います。

 だけど親の欲目かしら

 そんなに悪い子じゃないと思うんです」

「まだ高校生だからとお思いなるのは

 よくわかりますし

 ご心配なのも理解しているつもりです。

 だけど私たちは光輝くんの真面目さも

 スズの事を考えてくれるのもわかってますから

 二人に任せたいと思ってるんです」



お母さんがもう一度


いい子いい子って撫でた。




「大事に育てた娘なんです」




「受け入れてもらえませんか?」




お父さん、毛嫌いしてごめんなさい。

お母さん、お父さんの言いなりだと蔑んでごめんなさい。



ちゃんといつだって


お父さんもお母さんも私の味方だ。


私のことを大事に思ってくれてる。




「お父さん」



こーきの急かすような口調



思わずこーきの袖を握ってしまったのが、なぜだかわからない。


こーきが私を見て



痛そうな顔で私の涙を拭いた。




「こちらが頭をさげるべきなのに…」


こーきのお父さんがガバッと頭を下げた。



「お父さんとお母さんが

 こんな息子でいいとおっしゃって下さるなら

 私たちに反対する理由なんてありません」


「親父…」



「大事に育てた息子です」



「えぇ…よくわかります」




「いいお嬢さんを見つけてくれてよかったと

 思ったんです」




「幸せになって欲しい

 それが子供を育てる上で

 たった一つの願いですから」






「スズちゃん、ごめんね」


最初会った時の優しい顔になった。



「嫌な思いさせたね

 別れるなんて言わせてごめんね」



また涙が滲む




「人のことを思えるこんなにいい子に出会えて

 光輝は幸せだ」

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