3学期スタート

寝込んでる内に冬休みは終わってしまった。


正確には、だらけていたんだけど。


あのあとインフルエンザはすぐ治った。

だけどこーきは数日熱が続き、熱が下がっても怠さがなかなか取れないと言った。

私はもう元気だったから、こーきの看病に行きたかったのに、お母さんは家から出してくれなかった。


4日の夜にはお父さんがお見舞いに、こーきの家に飲み物や食べ物を届けに行ったけど、玄関先に置いて会わずに帰ってきた。

こーきは自分の家族に寝込んでることは言わなかったみたい。

お母さんに来て貰えば、栄養のあるご飯も作ってもらえて早く治ったかもしれないのに。


こーき怒ってたもんな。




「ご機嫌ねすずちゃん」

「学校始まるのにどうしたんだ」

久々の制服を着てダイニングに座ると、お父さんは怪訝に眉を寄せた。

「今日は朝霧さんと会うんですって」

「あぁ、朝霧くんは今日まで休みか」

「もう5日目だもの、うつりはしないでしょうし」


今日は始業式でお昼まで。


だけどこーきはまだ休み。

出席停止の5日目、ただのうきうきなお休みと化する最終日だ。


『掃除中』

今来たラインは写真付き。

お布団がベランダに出されての大掃除らしい。

『魔法の水で消毒』

静香さんがくれたらしい魔法の水。


元気になって良かった。


やっと会える!


「でもすずちゃん、今日は早く帰りなさいよ

 朝霧さん病み上がりで明日からお仕事でしょ」

「わかってる」




久しぶりの制服は身が引き締まる。


なんてこともなく、いつも通り。

昨日までの冬休みが遠い昔のことだったみたいに

現実感を引き戻した。


馬由が浜までの道を下りながら、頭の中は校歌を弾き、週末の課外活動の音符も流れ始める。


リュックにつけた東京土産のキラキラ防犯ブザーがシャラリと音を鳴らし、胸元にはト音記号が揺れる。


鎖が襟から出てないか余所様の車でチェックしていると


「スズ!」


横断歩道の向こうから


「英介!」


英介が呼んだ。



「おはよ」

「おう」

「なにキョロキョロしてんの?」

「アサギリ来んのかと思って」

「来ないよ、今日までお仕事お休みしてるの

 インフルエンザになったから」

「プ…ププププ

 あいつインフルなったのか!

 ざまーみろだな!」

「だよね~正月早々

 一緒にかかっちゃったんだ~同じ日から」

「は?スズも?」

「うん」

「大丈夫か?まだ寝てたほうがよくない?

 あ、それ貸せよ持ってやるから」

え、ざまーみろじゃなかったの?

急に優しくなった。


久々に英介と待ち合わせて乗る電車。

「英介こっち見て」

ホームで英介をカシャり。

「なんだよ」

「ライン」

『行ってきま~す』送信

英介の写メ付きで送ったらすぐに既読が付いた。

「スズ電車来たぞ」

「突撃~!」

今日から学校や仕事の人も多くて、電車はやっぱり満員。

ギューギュー詰めに乗り合わせ。

「ラッキー壁側」

「いい流れだったな」

「だね」

いいポジションをゲットできた。

ドアが閉まると真正面の英介はポケットからスマホを出す。

「見る?」

「え、何?」

英介が私に向けたスマホ。


『満員でも電車が揺れても触んなよ』


「なんで英介にラインくるの

 私が送ったのに」

「え、喜ばねえの?」

「何を?」

「意味分かんないならいいや

 にやけるかと思ったけど」


電車に乗ってる20分、英介も私も冬休みの出来事を話し、明日の放課後はタケルくんと杏奈と会おうって約束した。

タケルくんはお正月、家族でハワイだったらしい

お土産をもらわないと。




「おは~」

「「おはよ~」」

「あ、スズ!あけおめ!」

「みんなあけおめ~」

クラスのあちこちであけおめと、お土産なお菓子が広げられ写メを見せ合ったり。


そんな楽しい空気の中


「始まった」

「むしろなんかこれを欲してたかもしれない」

「うん、見たくなるね」

「スズのエアピアノ」

始業式で弾かなきゃいけない校歌。

初めての時よりマシとは言え、全校生徒の前で弾くのはやっぱり緊張する。


長い長い学園長の話を聞き、三学期の行事予定の話があり、式の最後に校歌斉唱。

なんでいちいち校歌うたうんだろう。

卒業式の時くらいだよね。

校歌噛みしめて歌うのって。

その時のため?

感動のために愛着を溜めてる感じ?


そんなことを考えながらピアノを弾いた。





「明日明後日実力テスト

 しあさってが個人面談ですね~」

担任のおばちゃんが言う。


実力テストあるんだった、忘れてた。


冬休みが楽しすぎて学問のこと忘れてた。

あんなにインフルエンザ後半はヒマだったのに。


「スズ帰ろ~」

「うん」

杏奈がリュックを背負いながら席にやってくる。

「マック行く?タケルも行くけど」

「あ、ごめん今日はこーきのとこ行く

 こーき今日まで休みなの」

インフルエンザのいきさつを話す。

「よかったじゃん、デート出来て」

「勉強みてもらう…実力テスト忘れてた私…」


杏奈が何か考えるみたいに宙を見つめること三秒間。

そして予想だにしなかったことを叫ぶ。



「私も行く!」



は?


「私も実力ヤバいんだよね~

 スズをあの成績にした専属カテキョでしょ?

 私も教えて貰いたいし朝霧さんの生態気になる!」

そんな杏奈のお言葉に

「いいな!」

「私も行きたい!」

なんかキノコやあっこ達も盛り上がり

「あんたら部活っしょ」

「「「うん」」」


「よし行こう!」


行く気満々の杏奈と学校を後にした。

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