朝霧塾
「カテキョ代でいいから」
駅地下のスーパーでお昼ご飯を調達。
「うんうん、お年玉で金持ちだし」
「タケル、ワイハ土産は?」
「持ってきた」
駅でタケルくんと合流。
「なんで俺も…」
タケルくんと一緒だった英介も一緒。
買い物カゴにはパックのお寿司やチキン南蛮。
お湯で溶かすコーンスープと、おやつに甘食とキャラメルポップコーン。
こーき大丈夫かな。
英介とはラインするくらい仲良いし、タケルくんとも前に矢野さんの喫茶店でよく喋ってたけど。
食料を調達した私たちは、駅からすぐ近くのこーきのマンションへ。
「「うわあ~…」」
「「すげ~…」」
「スズがこんなとこに住む大人ゲットするなんて
思いもしなかったわ~」
「私もそう思う」
ロビーのオートロックは、私を感知して勝手に扉を開けてくれる。
「英介泣くな」
「あとで慰めてあげるから」
「泣いてねえわ…」
「こっち、18階なの」
エレベーターでびゅーんと上がる。
「あそこ!」
こーきに会えるわくわくが止められない。
玄関の前でつい前髪を整え、ドアの装飾のゴールドのとこを鏡に、チェックしてしまう。
そして玄関鍵を開けると
「シッ…!」
タケルと英介はドアの横に、杏奈は私の後ろに隠れ
ガチャ
「え、スズ?昼飯食いに行くから
連絡しろって言っ…」
言いながら出てくるこーき。
タイミングを合わせた杏奈とタケルくんが楽しそうに飛び出る。
「「どぉも~!」」
「お昼ご飯は買ってきました~」
驚き止まったこーきの表情。
やっぱ勝手に連れてきたのはマズかったかな。
不安に駆られたその時
こーきは
「ぷ」
ちょっと吹き出して
「ビビった~…」
笑って玄関ドアをストップするとこまで押し開けた。
「何事?」
こーきは私に聞く。
「あのね明日実力テストなの、忘れてたけど」
「あ、勉強するって事ね」
「ごめんねこーき勝手に…」
謝ろうとした私の言葉をこーきが遮る。
「お前らインフルエンザうつっても
責任取んねえからな」
こーきはそんなこと言って笑った。
全然イヤそうにはしなかった。
「「「お邪魔しまーす」」」
「ホント邪魔だけど」
アハハハハ
優しいな。
「スズ?入んないの?」
ガヤガヤ入っていった3人に遅れて入ると、ドアを閉めたこーきが
「よかった掃除しといて
静香の消毒液、家中に撒いといた」
って笑った。
家の中はほんのり消毒液の匂いがした。
プールの水みたいな匂い。
「すげ~なんもないね」
みんな家の中を見渡す。
「あ」
杏奈が目線を止めたのは
「スズよかったね」
白い電子ピアノ。
「うん」
「なんか私も嬉しい」
とびきり嬉しそうに笑った杏奈。
その笑顔がなんだかとても胸にきた。
私のことで本気で喜んでくれる友達。
杏奈大好き。
「あとで音聞かせてあげるね」
「や、それは別にいいや
さっき講堂で聞いたしね、校歌」
今の感動的な場面じゃなかったの?
そんなにあっさり。
「金に物言わせやがって…!卑怯者…!」
「金持ってるんで、すみませんね」
「仲良しだね~2人とも」
「「仲良くねえわ!」」
え、仲良くないの?
「スズちゃん、喧嘩する程って言うでしょ
それだから大丈夫だよ」
「そっか
ありがとうタケルくん」
「おっさん、どこで飯食うんだよ」
英介が袋からお昼ご飯を出して、パックを手に持ったまま待つ。
「床」
「は?」
「こーき、お昼ご飯は
杏奈とタケルくんと英介のおごりなんだよ
だからお勉強教えてね」
床に広げられるお昼ご飯。
こーきはキッチンの棚にしまわれていたらしい紙コップや紙皿を持ってきた。
蓋を開けたお寿司を英介はもう食べ始め、タケルくんは杏奈に取ってあげた。
「スミマセン朝霧さんいきなり押しかけて」
「ここ家賃いくらすんだよ」
「英介、率直に聞くな」
「あ、金持ってるんでしたね」
「大企業はその辺の手当も厚いんで」
こーきはかしわ飯のおにぎりを取る。
「こーき食欲戻った?」
「んー…たぶんこれ食べたらもういらない」
「そっか…」
「酒も飲みたくないから重症だ」
こーきはそう言って笑う。
「スズはもう元気なのにやっぱ年の差かもな」
「私毎年なるから慣れてるの
こーき高熱は久々なんでしょ?
体がビックリしたのかも」
「そっか」
こーきが撫でる。
久々なこーき
家に来たのも久しぶり。
すごい輝き!
早くギュッてして欲しい~~~!
なんて思ったけどそんなわけにいかない。
明日までに詰め込まないと。
食べ終わったらみんな早速問題集を開いた。
みんな床に寝そべって黙々と問題を解き、こーきはパソコンに向かっていた。
「朝霧さんここわかんないんですけど!」
「どれ?」
杏奈のノートをのぞき込む。
杏奈は慌てて正座に起き上がった。
「あぁこれは公式に当てはめればナンチャラカンチャラ」
「へ~、うわホントだわかった!」
「これ系の問題は割と出ると思う」
「おっさんこれは?」
「あぁ?おっさんって誰だよ」
「英介!先生様と呼んで!」
「センセーサマーこれは?」
こーきは英介のテキストを奪い取る。
「これは出ないだろ」
「出る出ないじゃなくて」
「俺、点数上げる担当なんで」
「あ、わかった」
タケルくんも起き上がった。
「朝霧さんってもしかして
塾かなんかでバイトしてました?」
「ご名答、高校生教えてた」
そうなんだ。
だからわかりやすかったんだ。
それにこーきに聞いたとこは高確率でテストに出るんだもん。
ヤバい!こーきが塾の先生だったら…
みんな恋しちゃうよ!
「あ、ときめいてる」
「塾の先生バージョン妄想してる」
「なんか勝てる気がしない…」
本当に切羽詰まってる私たちは、それから2時間、みっちり集中し、こーきは実力テストに出そうなとこを、責任は取らないと言いながら予想して教えてくれた。
「こんな公式も文法も受験でしか使わないから
理屈考えるより形式的に覚えてればいい」
だそうで
「本当の勉強は
学生じゃなくなってからな気がする」
そんなことを言った。
「朝霧さん、学年末の前も来ていいですか?」
帰り際、タケルくんが言った。
「どうぞ」
「やった~」
「俺はもういい」
「あっそ、来んなよ」
「来るし」
「来たいなら素直にお願いしろ」
3人をエレベーターの前まで見送った。
「じゃ、スズまた明日ね」
「うん」
ドアの上のランプが点き、エレベーターが到着したことを知らせる。
「スズちゃん」
「ん?」
「見た目だけで選んだんじゃないの
今日ちゃんとわかった」
「心配しすぎだよタケル
だから言ったじゃん
スズが選んだんだからって」
ドアが閉まり
3人は見えなくなった。
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