インフルエンザ
「インフルエンザですね
ほらここ、はっきり線出てるでしょ」
医師が、小さなプレートを俺の目の前に差し出すのを見ながら、3456…発症から5日を計算すると同時に、年明け早々で予定していた仕事が走馬燈のように駆け巡った。
昼頃目覚めて、これはただ事じゃ無い具合悪さだとはっきりと実感した俺。
正月でも診てもらえる病院をググると、幸いオフィス街にあるとこが開いていた。
なーーーーーーげえこと待たされて診察3分←今ここ
「薬は症状無くなっても飲んで
よく休んで下さいね」
「はい…」
「水分とってね、お大事に~、次」
次、は俺が出てってから言ってくれ。
インフルエンザなんて何年ぶりだろう。
高校…いやあれは中学?
まだ実家で暮らしてたときだ。
家を出てからは寝込むようなことはなかった。
同じ場所で同じ時に同じ菌もらったんだろうな。
早く帰って寝たい。
会計して薬貰うのもつらい。
椅子に座ってるのもつらくて、気を抜いたら体が傾いていく。
「朝霧さーん」
「はい…」
「あ、いいですよそのまま」
受付から白衣の天使が出てくる。
「大丈夫ですか?ツラいですね
お会計こちらです」
請求書を見せてくれた。
「スミマセン…ありがとうございます」
財布をよっこらしょ出し、もう小銭とかどうでもいいから1万円渡し、また椅子に体を預けると、白衣の天使はお金を持って戻っていき釣り銭を持って戻ってきた。
「私もう上がるので
よかったらお手伝いしましょうか?」
は?
「薬貰ったりタクシー呼んだり」
あ、それね。
「や…大丈夫…です…」
「お家に何か食べるものありますか?
どなたか付いててくれる方はいるんですか?」
「なんとかなるんで…」
「でも…」ウルウルキュルン
「や…ホント大丈…」
「よ、よかったら私予定も無いし行きますよ?
駅の側のマンションですよね?ご住所」
あーね、狙ってんのか
うぜーな
「いえ…そんな迷惑…」
「全然迷惑な事なんて…!なんかあの…心配だし…
ほっとけないです!私ついてますから!」
迷惑ってお前に対してじゃなくて、俺が迷惑って事だし。
やべえ、弱ってて言葉出てこねえ。
口動かねえし。
チラリ見ると、受付の向こうでキャッキャしながらこの様子を見てる仲間達。
心からウザい。
駅横のマンションに住んでる商社勤めってだけで、俺たちはモテる。
みんなそれは自覚している。
カルテのプロフィールだけで目星付けたんだろう。
やっぱ指輪買おう。
「私おかゆとか結構上手なんです」エヘヘ
エヘヘじゃねえわ。
「すぐ着替えてくるので」
立ち上がり奥へ向かう白衣のビッチ。
「気持ち悪い…」
「え?大丈夫ですか?吐きそう?」
「お前みたいな女」
↑口も頭も動かないから一言で済ませた
ふらつく足で病院を出て、クソビッチ達がどんな顔して上辺だけ慰めてるか見てやろうとも思わず、さっさと薬を貰ってタクシーに乗った。
スズがおかゆとか作ってくれたら一発で治るのにな。
下手そう。
でも俺、ウマいって食うんだろうな。
いやちがうな。
きっと来させない。
スズの看病は魅力的だけど、スズにうつしてしまうリスクは怖い。
「どうも~お大事にねお客さん」
マンションの前で降りたタクシーは、俺の目の前で窓開けやがった。
気持ちはわかるけど露骨すぎるだろ。
財布をポケットに入れるのもつらい
カシャッ
は?
急なシャッター音に顔を上げると
「おっそーい、何分待ったと思ってんの」
「何してんだよ…」
「風邪に苦しむコーキ送信!」
「インフルエンザだ」
「ひぃ!」バッチイ
「殺すぞ」
スーパーの袋を持った静香が、俺のために来てくれたことは明白。
「なんで知ってんだよ」
「だってあんた電話繋がんないから
スズちゃんにかけたの」
「あ、電源切ったままだ…」
「そしたら青井本部長が出て聞いた
仲良く寝込んでるって」
「サンキュ」
手を出すと袋をくれた。
ペットボトルやパウチのおかゆが見えた。
「8日から出れるからYSSの川野さんに請求書と
山形産業のハゲに印鑑貰うのと」
「書式は?」
「パソコンに入ってる、持ってくるから待って」
「3秒で戻ってきて」
無駄に家に来るとは言わないし、家に来させるわけにもいかない。
うつるとどれだけ困るか俺も静香もわかってる。
これで『無理しないで、私は大丈夫だから』なんて言われて家に来て世話でも焼かれたら、この関係は終わる。
体の心配じゃない、仕事の心配だから。
こういう関係を出来るからやっぱり静香は好きだ。
さっきの女には出来ないだろう。
男は男、自分は女、ってタイプだ。
パソコンと書類を取って、またマンションの外に行く39度越えのインフルエンザ感染者。
「ちょっとお待ち」
静香はバッグから小さなボトルを出し、妙な液体を俺の手に振りかけ、同じくバッグから出したウエットティッシュで、パソコンやらファイルを拭いた。
「消毒、これね次亜塩素」
「仕方ないけど腹立つな」
インフルエンザで部署を全滅させるわけにいかない。
そんなこんなでマンションの外で打ち合わせをした。
「オッケー、あとは任せて」
「悪いな」
「体冷えたので温かい飲み物代」
1000円渡すと本気で受け取る。
「実家帰らなかったのか?」
「昨日こっちに帰ってきたの」
「早」
「別れてきた」
は?
「愚痴でも聞いて貰おうと思ったのに
役に立たないわね」
「愚痴でデートに乱入する気だったのか」
「うん」
「また今度な
スズも静香と遊びたいって言ってたし」
「じゃ、帰るわ」
「おう」
荷物を持って歩き出した静香が振り向く。
「今日は下田でも捕まえる
ゆっくり寝ときなよ、顔が弱ってる」
手を振り、通行人の並に紛れていった。
そんなこんなでせっかくの冬休みなのに、俺とスズは
会えなかった。
大人のキスの先を進める予定は
敢えなく
断念!
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