年末年始、終宴

「ご馳走様でした」

「いえいえ、疲れたでしょう

 今日はゆっくりしてちょうだいね

 明日はすずちゃんに付き合わされるでしょ」

クスクスっと笑ったお母さんに

「もぉ~」

スズが膨れて見せた。


「ケホケホッ…!」

咳も実に可愛い。

「やだすずちゃん風邪ひいた?」

「ちょっと咳しただけじゃん」

「気をつけてよ」


「じゃあお世話になりました

 失礼します」


「朝霧くんまた来週」

「はい」

「朝霧さんかっくんお願いしまーす」

「マイマイまた明日ね~」

「ちゃんと起きてよ」

「わっかてま~す」


ほろ酔いなかっくんを車に乗せる。


「あ、スズいいよ寒いから

 咳してただろ」

「大丈夫だし」

「いや駄目だ、見送りはいいから暖かくして」

「は~い」


スズも家の中に入り、この酔っ払い男を押さえつける。

「お兄たま!どっか飲みいきましょ!」

「行かねえし、早く乗れよ

 てか家どこだよ」

「城東の~緑の丘団地のとこの~」

昨日、初めて会ったとき度肝抜かれた金髪派手派手男は、坊主頭に白シャツにニットに茶のパンツの好青年スタイルになった。

大学の友達なんかが今いきなり会ったら誰かわかんねえだろうな。


「どこだよ、まだ真っ直ぐか?」

「ん~…ムニャムニャ…zzz」

「寝るな!」

バシッ!

「いって…!」


到着した家は頑丈そうな鉄筋の4階建てのアパート

「ここ?」

「そっこ!」

頑丈だけどえらく古めかしい。

「安いんす

 シャワーも付いてないボロ家だけど」

「よかったな、じゃあな」

かっくんを降ろし荷物を持たせていたら

「ごんばんわ~っす」

「どうも」

えらく目つきの悪い兄ちゃんが階段を上がっていった。

「彼女可愛いんすよああ見えて」

「声がデカい」


「じゃーな」


「あ!待ってお兄たま上がってって!」

「いいし帰って寝るし」

「飲みましょうよ~」

「車」

「代行!」

「いい、寝る」


なんだろう

なんか寝たい。

楽しかったし、そんなに気を使ったつもりはないけど、疲れたのかもしれない。


酒を飲みたい気分でも無かった。

帰ってビールをあけることもしなさそうだ。


「お兄たま!」

「なんだよ、早く帰らせろ」

「ライン!」


「……」


将来、身内になるかもしれねえんだよな。


義理の…



「兄かよ…」



不本意ながらかっくんとラインを交換し、俺は家に帰った。


『かっくん送って今帰った』送信


スズにラインを送り、シャワーを浴び、冷蔵庫からペットボトルの水を出して飲みながら、荷物の袋を洗濯機の中にひっくり返して布団に転がった。


なんか疲れた


うん、やっぱ疲れたんだと思う。


体が怠い


早く寝て明日は朝一でスズを迎えに行こう。

どこに行こうか

どこが喜ぶかな。


スズに買ってあげたシロクマの抱き枕を抱っこして目を閉じた。



早く抱きしめたい

思いっきり抱きしめてイチャイチャしたい



スズ



もう会いたい



違う



離れたくないんだ



たった数時間でも。






.



PPP


意識の遠くから着信音が聞こえて、徐々に睡眠から覚める頭の中。

薄ら開く瞼にわずかな光が入り込む。


「った…!」


目の奥が酷く痛んだ。


「頭いて…」


スマホに手を伸ばすと数件ラインが入っていた。

仕事関係が3件

親父から1件

静香から1件


ん?スズからラインが返ってきてない。

しかも仕事関係は一つは青井本部長だった。

真っ先に開けたのはそれ。


『スズがインフルエンザにかかった

 熱が高くて夜中に病院に行った

 治ったら連絡させる』


は?


「えー…えぇ?」


だからライン来なかったのか。

帰り際咳してたっけ。

もしかして俺が気付かなかっただけで、もっと前から具合悪かった?


思わずラインにスズの名前を出した。


「そっか…」


青井本部長がラインしてくるってことは、スズはラインもしたくないほどだよな。

とりあえずスマホを置き、喉が渇いたから水を取りに行こうと起き上がった。


ふらーーっと回る目の奥。

と同時にそこに走る痛み。

頭が割れそうだ。

昨日は飲んでないのに胃も気持ち悪いし、なんだか体中が痛い。


また布団に埋もれた。


あきらかにおかしい。


今日はスズが元気だったとしても、出かけられなかったかもしれない。



またぼんやりと意識が遠のいていった。

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