年末年始⑩しまむらで愛を叫ぶ男

「これ可愛い~」


しまむらでスズが抱きついたのは、シロクマの大きな抱き枕。


はい、お買い上げします。

スズがいらないと言ってもお買い上げです。


「え、こーきシロクマ買うの?」

「うん」

カゴには入らないから小脇に抱えレジに向かった。

ピッとバーコードが通過すると、スズは嬉しそうにシロクマを抱っこした。

「抱っこしてくのでいいです」

大きなレジ袋を広げたおばさんにそう言い

「息できなくなっちゃうもん」

エヘヘ~ってお得意の可愛いやつで俺に笑いかけた。


「13900えんでーす」


一万で揃うのか、すげーな。



で、俺がしまむらで何を買ったかというと



「かっくん可愛い!」

「マジ?!」

「うんうん!頭の形すごいいいね!」

「だろー!いや自分でもこんなに似合うなんてさ!」


どう見てもただの坊主ヤンキー。


まぁしゃあねぇ


「ほら」


しまむらの袋をかっくんに差し出すと、かっくんはへらへら顔のまま俺を見つめた。

「かっくんこれちょーカッコいいよ!

 ね、こーき!」


「お前のためじゃない

 これは麻衣ちゃんにプレゼントだ」


「私に?」


かっくんが袋の中を覗く。



「こ…これは…!」



「真面目に見えるだろ」

「いいんすか…?」

「高かったけどな」

「こーきセレクトだよ!」

「着替えてくる!」

え?

「え…どこで…」

「どこってトイレで」

今時はトイレで着替えるの普通なのか?

みんな何のためらいも無い。


てことで、トイレで着替えてきたかっくん。


「カッコいい!」

「別人みたい!かっくん似合うよ!」


靴だけ派手だな。


「マイマイ!」


「ん?」


「俺…俺…」


おい、何を言う気だ。



「俺真面目になるから!

 お兄たまみたいに

 真面目だけが取り柄になるから!」


「はぁ?」



「だから就職して

 三ヶ月目の給料もらえたら結婚してくれ!

 一生幸せにするから!」



しまむらの前でなに愛を叫んでんだよ。

恥ずかしいだろ。


「スズ行こ…」


えぇ!感動してる!?


「よかったね麻衣ちゃん…!」


「すぅ、2人にしてやろ」コソコソ

↑他人のふりしたい

「うん…!」


そっとフェードアウト。

買い物の荷物を車に乗せ、お母さんから預かったメモを見ながら買い物をした。


スズはカートを押す俺の腕に掴まって「そうだ、たこ焼き食べたかったんだ」と、冷凍食品の前で立ち止まる。

「すぅさんたこ焼きやって」

ツンツンしたい…って、えぇ!なんでそんな悲しい顔?!

ごめん!調子乗った!

セクハラおっさんみたいだったな!


「こーき、今日は帰っちゃう?」

「え…」

「なんか寂しいな~…」


これか…

これなんだな…


キュンキュンってこれだろ!

あーーー!抱きしめたい!


「明日、朝から迎え行く

 どっか行こう?一日中」


その頑張って笑う感じ、たまらん。


「次なに売り場?行こ!」


早く結婚したい。

朝から晩まで四六時中スズといたい。


あと何年だ。


「鶏肉か~唐揚げ作るって言ってたよね」

スズがメモをのぞき込む。

「出来上がってる唐揚げ買ってこ

 お母さん眠そうだったし」


こんな感じなんだろうな、スズと結婚したら。


夕飯の買い物に行って、同じ家に帰って、一緒にキッチンに立って。


「スズ」

「ん?」



「今度ペアリングでも買わない?」



俺何を口走ってんだ。

ペアリングなんて世界一嫌いな言葉だ。


キラキラキラキラウルウルウルウル


どうやらトキメかせてしまったようだ。

冷凍食品売り場で。


でも何かそういう物が欲しかったんだ。



俺はスズだと何も嫌じゃない。

それどころか何をしてでもつなぎ止めたい。

スズしかいないんだから

スズ以外いらいないんだから。


だけど


スズはどうなんだろう



スッと心に吹き込む湿った風。



「でも甲田ホールディングスって

 指輪しちゃ駄目なんだよね?愛理言ってた」

は?

「愛理がしてた指輪、お揃いらしかったんだけどね

 彼氏さんはお仕事上出来ないって言ってたよ」

あいつ…ホント腐ってんな。

てかそんなこと言われたら出来ねえじゃねえか。

本当は出来るって愛理にスズが言って指輪なんか見せてみろ。

愛理の嫉妬心はゴーゴー燃えさかるだろ。

その矛先はスズなのに。


「まぁそうなんだけど…」

なんて言おう。

「お仕事以外で付ける?」

「そ…そうだな!会社では外す!」


こうしてペアリングを買う運びとなった俺とスズ。


『変なのが寄ってこないようにお守りでしょ』

そんなどうでもいいこと言ってた女もいた。

指輪してたらそりゃそうかもしれない。

でも指輪してても俺と寝る女もいたし、指輪してたって口説くのに抵抗もなかった。


ペアリングはなにより


同じもを常に身につける

相手を側に感じられるのがいいんじゃないか。


俺はたぶん、その指輪が指にあるだけで、なんでも頑張れる気がする。


好青年になった俺をお許し下さい。




お母さんに頼まれたおつかいは俺とスズが買い、スーパーマツヨシの魚屋さんで、いけすの魚を見ながらマイマイから連絡が来るのを待った。


「かっくん♡」

「まいまい♡」

後部座席はだいぶ鬱陶しかった。





「「「「ただいま~」」」」


スズが一番に靴を脱ぎ家に入る。

それからお母さんのスリッパの音がして


「お帰りなさい、おつかいありが…」


時が止まった。

変わり果てたかっくんを見て。


「お母さん!ただいま帰りました!」

「お…おかえりなさ…えぇ?!」


スズはそんなお母さんを笑い、青井本部長は寝室でお昼寝してるとかで出てこなかったけど



「な……!」


夕飯に出てきて絶句した。


「お父様!」

「お前の父になった覚えは無い!」

「マイマイが卒業して自分がちゃんと仕事続いてたら

 結婚させて下しいまし!婿養子にきます!」

「来なくていい!」

これはこれで上手くいきそうな気もする。


「金髪よりもイケメンよ、かっくん」

「マミー!」

「まぁいいじゃないの」

「いいんすか?!」


「それまでお付き合いが続いてて

 2人がそうしたいなら結婚したらいいわ

 まだ先のことなんだから

 ね、お父さん」

「婿養子はいらん」

「朝霧さんも」


え?


「まだまだ先のことはわからないんだから

 朝霧さんとすずちゃんも

 かっくんと麻衣ちゃんも

 その時になって

 お互いそうしたいならそうしたらいいわ」


クスッと笑い

「ね、お父さん」

青井本部長の腕をポンポンと叩いた。



「その時になって2人が決めたらいいでしょ?」



浅く吐き出されるため息



「そうだな」

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