年末年始⑨お年玉の使い道

三段のお重がテーブルの真ん中に広げられ、お餅の二つ入ったお椀がそれぞれに置かれた。


「かっくん北海道ってお雑煮どんなの?」

餅がびよーんと伸び、かっくんはもぐもぐ。


「うちはクジラ汁っす!」


「「「クジラ汁?」」」

「野菜とクジラのやつ…

 え、知らない?普通クジラ汁

 うちはそれに餅入れてたけど」

「クジラって鯨?」

北と南じゃやっぱ違うね。

「あ~ウマい

 こっちのお雑煮も美味い!

 マミーおかわり下さい!」

「朝霧さんちは同じような感じ?

 近所なんだし」

「はい

 あ、でもうちは父の趣味で蒲鉾率が…」

「それも美味しそ~」


おせちはやっぱり栗きんとん。

こーきも栗きんとんばっかり。

それと伊達巻きね。

あれ作った人天才。



そして午後からはのんびりと

「なんでこーきランク上がってんの!」

「や…ごめん、ヒマな夜にやってたらハマって…」

「俺もこれ得意~!」

スプラトゥーンで盛り上がる4兄妹。

「何が面白いんだか」

「お母さんもしようかしら」

「やろうやろう!」

「お父さんもおいでよ!」

「ランク23のお兄たまにご指南願いましょう!」


あのね

これはこれで楽しいの。


「だから闇雲につっこむな」

「スズちゃんいくね~!」


家族で過ごすお正月に、大好きな彼氏もいる。


だけどね



デートしたい。



「2人ともお夕飯食べていく?

 まぁ昨日と今日の残り物だけど」

お母さんがコントローラをこーきに渡す。

「遠慮しないでいいわよ

 食べていってもいいし帰ってもいいし」


こーきお願い!

食べて帰って!


ギリギリまで一緒にいたいの!


「じゃあ遠慮無く…食べたいです」

「俺も!帰っても食パンしかない!」


よかった~!


「えへへ~」

「ん?」

「嬉しい」

こーきが頭を撫でてくれる。きっと同じ事思ってたんだよね。


「かっくん何回やられんの!」

「やべー!1人も倒してねえ!」

「だからツッコむな

 引きの攻撃こそ大事だ」

名言?

「こーきがイカに見えてきた」

「師匠!」

「かっくんもやっぱスプラトゥーン買いなよ」


そして兄妹がゲームをしてる間に、お母さんはメモを書いていたらしい。

「はい、おつかい

 買ってきてちょうだい

 お母さん休憩~」

兄妹の中心にメモが置かれた。



「うん!行ってくる!」



やったー!デートだ!



てことで、やって来たのはお馴染み近所のショッピングセンター。



「丸坊主にして下さい」

「や…待ってお兄たま!せめて韓国風に!」

「坊主」

「はい…」シクシク

かっくんと麻衣ちゃんは床屋さんへ。


そして私たちはデート。


「行こ!」

こーきの手を取って、はっと不安に駆られた。


またこーきの家族に会ったらどうしよう…


「スズ、ごめん大丈夫

 たぶん今日はばあちゃんとこ行ってるし」

「そっか…」

よかった。



「もし会っても

 俺がちゃんとするから」



「うん」



「すげえ人だな、初売りだから?」

「何見る?」

ついつい腕に抱きついて、こーきは私に視線を落とし反対の手で撫でる。

「あそこ行こう」


こーきが視線で指した先は


「しまむら?」


こーきもしまむら見るんだ。

いつも名前のある服着てるし、パンツだって有名なマーク付いてる。


やだ

パンツって

キャッ


「スズ?どした?行こう」

「何でもないの!行こう行こう!」


床屋さんからしまむらまで、お店の建ち並ぶ歩道を歩いた。

ケーキ屋さんに文具店に花屋さんにお茶屋さん。


「あ、スズ待って」

こーきはお茶屋さんの前で立ち止まる。

「お茶買うの?」

「お母さんお茶飲むよな」

「うん」

「じゃこれにしよ」

こーきはお茶の福袋を取った。

「お母さんに?」

「縁起物だろ~?」

何故かしてやったり顔で笑うこーき。

可愛い。

「スズもいる?

 ほらこっちのは紅茶も入ってる」

「お母さんにくれるならどうせ飲むしいい」

「うん、家ではそれ飲んでいいけど」



「スズのは俺んちに置いとく分」



何で今ときめいたんだろう。

ずっきゅんきた。

だってこーきに家に置いとくならこーきの物であって、『スズもいる?』って質問はいらないわけで、お母さんにお土産買うついでにポイッと買えばいいわけで、なのにわざわざ


『スズもいる?』ってキーワードは


トキメクーーー!



お茶を買い、またしまむらに向けて出発。

「スズ100均は?」

「昨日行ったし」

「そっかそうだった」

「手帳にシールとスタンプ貼ったんだ~

 ちょー可愛くなった」

「あとで見せて」

「いいよ!こーきの予定書き込まなきゃ!」


いきなりこーきが立ち止まる。


「どうかした?」

「あ、ごめん

 ここ見ていい?」


「靴屋さん?」


こーきは新年に靴を新調すると言った。

それはこーき的なルーティンで、今年も1年頑張るぞって気持ちになるらしい。


いつもは秋の終わり頃、東京や神戸に出張したときに、お気に入りの靴屋さんで買うらしいけど、今年は買いに寄れなかったと。


だけどそんな東京や神戸のお気に入りのお店にあるようなオシャンティーな革靴があるとは思えない。

ここはファミリー向け量販店靴屋。

小中の指定運動靴が売ってあるやつ。


こーきは革靴売り場へ一直線。

「スズ、これどう?」

「うんカッコいい」

履いてみるこーき。

「あ、予算オーバー」

「予算?」



「これで買えるのが欲しい」



こーきがポケットから出したのは、今朝貰ったお年玉の袋。


なんだかすごく嬉しかった。


こーき的に大事なルーティンに、お父さんのお年玉でって。


「じゃあこーきこれも使って!」

「え?」

「二千円足りないじゃん

 私が出してあげる!」


こーきが笑った。


「いいのか?」

「いいの!パワーアップでしょ!」

「うん」

「じゃあ私も新しい靴買う!

 そんで来年も頑張る!」


だから私もお年玉で靴を買った。


制服の靴は学校指定の物だから、デートで履けるスニーカー。

プーマのピンクのやつ欲しかったの。

また癒やしのバドミントンするかもしれないもん。


2人分合わせて19500円だった。



「スズ、ありがとう」


「今年も頑張ろうね!」


「うん」





「こーきはお仕事

 私は人生掛けたお勉強」





こーきは笑って私を撫でた。



「靴履くの楽しみだな」

「うん!私明日から履こ~」






「スズ、人生掛けた受験」








「頑張れよ」

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